02
仕事の関係で、死ぬことになった。
本当に死ぬわけではなく、書類上、戸籍上死ぬだけ。別に特殊なことじゃない。この仕事の人間はだいたい同じことをやっている。
わたしに合った仕事だった。天職と言ってもいい。それでも、ひとつだけ日常と職務に齟齬が出た。
好きな男がいる。呼べば必ず来てくれて、色々してくれる。料理が得意で。やさしくて。ひとりでしか生きてきたことのないわたしにとって、彼の存在は特別だった。
でも。好きだということをあまり伝えられた自信がない。ひとりで生きてきたから。ふたりでいる空間やコミュニケーションが、分からない。それでも。彼との日々は素晴らしかった。
でも、死んだら。戸籍がなくなるし連絡先も変わるし住所も変わる。彼と逢えなくなってしまう。
だから、最後にちょっとだけ、彼に連絡した。
死にます。好きでした。
それだけ書いて、送信した。うまく、伝わっただろうか。
「雨強いなあ」
後ろから声をかけられて、びっくりした。
彼がいる。傘も差さずに。びしょびしょで。
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