走れ。雨の中を

春嵐

第1話

 もともと、恋人といえるほど仲がいいわけでもない。ときどき部屋に呼ばれたり、男女ペアが必要なときに連絡が来る程度。

 お互いのことをそんなに知っているわけでもない。相手が女で、自分が男というのが分かるだけ。それだけ。

 それだけ、なのに。

 いま。

 雨のなかを走っている。彼女を探して。傘も差さずに。


「くそっ」


 風が強い。人通りは少ないが、車が多い。

 最後の彼女の連絡。というか、最期の言葉。


「こんなもん残して何するってんだよ」


 たいして仲がいいわけでもない女のために。

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