第9話 修理屋さんと鈍色の魂 1
学校への納品も無事終わりまとまった資金が手に入った。といっても、別段やることは変わりなくいつものごとく、お得意様用の商品作成、すぐに使える部品の補充や備品の点検、あとは村の人から貰った廃品の修理など雑務はいつもやっている。少し変わったのは、
「失礼します。顧客リストの整理と応対の処理が完了しました」
小難しい書類仕事をレイがすべて引き受けてくれるようになったことだ。今まで書類関係はすべてほったらかしにしていて遠方との取引では確実と言っていいほど何かトラブルが起きていた。それでここ最近では近所とのやりとりばかりになっていたが(それで先日アンナが来ることも把握できていなかった)最近ではきっちり管理することが出来るようになったのだ。
「それにしても急に書類仕事を私に依頼するようになったのはどうしてでしょう?」
ドサッと書類束を置くなりレンは尋ねてきた。作業をしていた私は手を止めて葉巻に火を点けた。ゆっくりと灯して鼻に近づけ匂いをかぐ、今日もいい匂いだ。そして口に咥えるか迷いつつ喋った。
「アンナに言ったじゃん、父さんと母さんを探してみようってね。それで取引先をもう少し遠方まで伸ばしてみようと思ってさ。それでただその場所行って探すよりも取引ついでに情報探したほうが効率いいかなって」一呼吸でしゃべって一服。
「なるほど、それは確かに理にかなっています。しかし、私が整理したところ今やほとんどの方との取引は行われていないようですね」
そう言われても仕方がない、人と繋がるには頻度が大切だ。定期的なやりとりをすることで信頼関係というものが築きあげられる、私のような気まぐれで取引する相手というのは商売上あまり好ましく思われないものだ。そして時々トラブルを起こす。これで大体の者は今後取引を行われなくなる。
「そういうもんだよ、ほんとはこまめに連絡取るとか大切なんだろうけど性分なんだよ」
どうも人間というのは縦やら横やらの繋がりに重きを置くらしい、そして密に連絡を取ることにより相互援助され発展してきた。郷に入っては郷に従え、人間社会を生きるためにはある程度心がけてはきたがどうやら私の力だとこの村の人たちに認知されるのが精一杯のようだ。
「しかし、そうは言っても私も変わらないとな、レイに任せっぱなしというのもまずいし私からも行動してみようと思う」
「と、いいますと?」
「レイに会う少し前に取引していた商会があってね、そこに今回も商品を卸すついでに情報も集めようかなって」
ここより北側、山間部で寒さも激しいセラール山脈に位置する街セラール。3都に属していないが山間部ゆえに独自に発展をしている街だ。
「だから手配してくれ、今回はそこそこの量の受注がきているから荷馬車を手配しないといけない、急ぎではないみたいだが早く行き過ぎて困ることはなかろう」
「了解いたしました。手配確認は今日中にしておきます。明日以降なら都合がつくかと」
まったく優秀な奴だなと改めて感心しながら葉巻を灰皿に置くと明日に間に合わせるように作業を再開した。
なんとか納品用の部品を仕上げることが出来た。朝起きて葉巻をぷかぷかしていると蹄鉄の音が聞こえた。丁度昼前に馬車が到着したみたいだ。
「荷馬車を借りるなんて久しぶりだな」
「いつもはどうしているのですか?」
「いつも輸送は業者に頼むんだよ、割高だがプロに任せた方が安心だ。そしてある程度納品したら代金の受け渡し。そっちの方が費用は掛かるが楽だしね」
しかし、今回は違う。商品とともに私自身も向かうのだから一緒に馬車に揺られた方が圧倒的に安くつく。
「だからとりあえず今から荷揚げだ。そして昼頃に出発すれば夜頃には街に着くだろう」
昨日は商品作りで今日は朝から荷揚げ、久しぶりにハードな仕事だ。これが終わったら馬車の中で思いっきり眠ってやろうと思った。
修理屋さんと魔機械人形 霧間 響 @kirimahibiki
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