第7話 修理屋さんと騒がしい貴婦人 2
金の丸いペンダントを私に差し出すと、アンナリアーナはニコっと笑ってきた。
「見てはみるよ、ただ私だって万能じゃない。それに他の客も控えているんだ。無理そうだったら他をあたってくれ」
よくある決まった文言を言って保険をかけておく。これを言っておかないとゴネ始める奴もいるから自衛でもある。
「構いませんわ、それは仕方ありませんもの!」
意外と聞き分けはいい。手に取っている懐中時計をじっくり観察してみる。金に包まれた輝く円形に、首にかける鎖がついている。今は蓋が閉じられてて上のスイッチを押すと蓋が開き時計が見える仕組みなのだろう。スイッチを押してみるとカチっと音がして時計部分が見える。文字盤が1から12まで円に沿って描かれていて、文字盤にも金が施されていた。分針も刻針も今は動いておらず8刻とちょっとの所で停止している。全体的に金を使用しているが、けして派手で奇抜な感じではなく洗練されたシンプルなデザインだった。そして、このタイプの時計はかなり昔から存在するものだが、細かい傷はあるもののとても手入れが行き届いていて新品とも見紛うほど丁寧に扱われていた。
「・・・どうですの?」心配そうにアンナリアーナが顔を覗き込む
「多分大丈夫、少し時間があれば直るだろうからそこで座っててくれアンナリアーナさん」
「そうですのね!感謝しますわ!」手を握ってブンブン振ってくる。いや、時計持ってるんだからやめてくれ・・・
「それにわたくしの事はアンナでいいですわ!親しきものにはみんなそう言わせていますわ!」
「そう、んじゃ私もレンでいいよ、長ったらしく呼ばれるのもあんま慣れないしね」ちょっと照れくさい
「ちょいそこで待ってて、書類はレイから貰って良かったらサインを頂戴。見積くらいは無料でやったげるよ」
リビングにレンを残して私は作業室に入っていった。
作業着を羽織り手袋をはめる。工具を手に取り慎重に時計の留め具を外していった。中の構造もとてもシンプルだった。外界のマナを
「暇ですわ!」元気いっぱいアンナの声
「勝手に入ってくるな、関係者以外立ち入り禁止だ」
「そうは言ってもわたくしここに来るまでもじっとしていましたしもう窮屈ですわ!」
アンナはそういうとズカズカと部屋に入り適当なところで腰を下ろした。集中が切れた私はポケットから葉巻を取る。火を点け一服いれた。
「あら?あなたまだ未成年ではございませんの?」
3都のどこでも未成年の喫煙、飲酒は禁止されている。田舎だったり貧民街、治安が悪い所では結構横行しているが多分ここは該当しないだろう。
「ん、こう見えて私は大人だからね」ふーっと一息
「見た目わたくしよりぜんぜん幼いですわ」
「そうは言っても仕方がない、私はあんたより何十歳も生きているんだよ。人間じゃないしね」あまり身の上話は他人にしないが不思議だ。
「あら!異種族なのね!貴方は何族なの?」興味深々に聞いてくる
「・・・ハーフだよ、しかもエルフとドワーフの」
これを言えば大抵の人はひるんでしまう。基本的に異種族間との共生はご法度、特にヒューマンはエルフにもドワーフにも畏怖している。そして両種族ともに排他的な種族なのでヒューマンとは仲が悪いのである。変な空気になるのが嫌で強く葉巻を吹くとそこには爛々と目を輝かせているアンナがいた。
「素晴らしいですわ!エルフとドワーフの間にも家庭を築けていたのね!そしてレンはこうして人間とも仲良くやっている!最高ですわ!」
なんかめちゃくちゃ褒められている?
「いや、なんでそうなる?そりゃ父さんと母さんは仲良かったけど、基本時に異種族ってやばい奴、そのハーフだぞ?」
「それでもレンはわたくしの時計を直してくれてますわ、そしてわたくしにアンナと呼び掛けてくれる、お部屋にお邪魔しても文句言わなかったですし、とても良いお友達ですわ」
そうアンナは言うと優しい笑顔で語り掛けた。ほんと不思議な人だ。私と違って真っすぐに生きている。そんな感じ。
「んじゃあお友達のアンナに質問なんだけど、この時計のことを教えてくれ、何処で手に入れたとか」
「そうですわねー・・・」しばらく考える。
「これはお父様から譲り受けたものですわ。アンジェリーニ家から続く家宝らしくてお父様が亡くなる直前に頂いたものですわ」なるほど通りで古い訳だ
「そしてよくこの時計のお話をお父様から聞かせてくれましたわ。遥か昔まだアンジェリーニ家が商人の端くれだった頃、先代からどのお客様からも平等、公平にそして助け合いながら商売をしていく事を信条にゆっくりだけど確実にお店を大きくしてきましたわ!」まるで英雄譚でも語っているかの様な自信に満ちた語りだ。
「そしてほんの小さいですが今の私の家である商館の2号店を建てた時、記念に作って貰ったのがこの時計みたいですわ。確かその時の祝いで一緒に酒を飲んでいた取引先に作って貰ったとか、その人もヒューマンと共生する異種族だったとお聞きしていますわ」
「ふーん、珍しいね、アンナって王都出身だよね。比較的3都の中では緩いとはいえ自分が異種族だってことを触れ回ってたら通報されるはず、そんなことが出来るのってかなり限られているよ、例えば国王からの招待をされた来賓」
そこまで言って思考が止まる。異種族なのに3都を自由に動き回れる人はかなり限られている。天界に使わる上位族、優れた技術を要しているもの、いずれも公平性を保たれた正確を持つものに限る。そして両者とも人間とは縁がないためうちの父さんのようなどっかでエルフ引っ掛けるくらい奇特な人くらいじゃないとありえない。
「ん、ちょっと待って。そもそもなんでアンナは私のところに来たの?」
「それはわたくしの家の取引先台帳に書いてあったからですわ!ダイン・スレイって方が古くから修理屋をやっていること、そして住所を問い合わせたら今は貴方がやっていることを」
全てが繋がった。要するにこの時計、アンナのご先祖がうちの父さんに頼んで作って貰ったものだ。
「ってことはうちの倉庫にあるかもしれん、ちょっと待っててくれ!」
年甲斐もなく少しウキウキしながら私は倉庫に向かっていった。
おそらくアンナの雰囲気がちょっと移ってしまったのだろう。
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