第6話 修理屋さんと喧しい貴婦人 1

 レイが来て、いつもと日常が少し変わってしまったけど、基本は変わらない。受注された物を作るか設置するか、あとは修理するくらいか。機械は得意だが、一応少しは魔術の精製くらいなら出来る。しかし、生憎とモグリなので基本取り扱ってはいない。今日も朝から自室で、先日依頼された学院への電灯の部品を作っている。コンコンとノックする音と、少し低めの凛とした声。

「レン様、お飲み物をお持ちしました」

「開けて入って来ていいよ、ちょっと休憩するか」

少し伸びをして葉巻に火をつける。葉っぱの匂いを嗅ぎながら心身を休憩状態へと持っていく。

「珈琲をお持ちしました。今日は市場でお安いようでしたので」

「ん、ありがと」

丁寧にソーサーに乗ったカップを手に取り匂いを嗅ぐ。浅く炒られた豆の甘い香りと葉巻の鋭い香りが混ざって鼻腔を刺激する。どっちも好きな香りだ、一口啜ってみる。口の中にゆっくりと広がる苦みが疲れた脳を洗い流してくれるみたいだ。

「はぁーっ」ゆっくりとため息をつく、そして葉巻をふかす。最高の時間だ。

「くつろぎ中失礼します。今日は3刻時にアンナリアーナ様がこちらに来られる予定ですが」

「誰それ?知らんよ」

「郵便受けの手紙にそう書かれていましたが、レン様はご存じなかったのでしょうか?」

「基本見ないからね、レイが来てからはなおの事見なくなった」

面倒くさいことこの上ないので基本は無視している。そのため家の郵便受けはレイが来るまでは常にパンパンだった。

「住所は王都の少し外れ、しっかり紙の手紙を差し出すあたりかなり財産を有しているのかもしれません」

「はー、珍し」

基本遠方からのやり取りは岩や木に魔力を照射した電熱を用いた棒で刻印させたものだったり、相手先が担保されているならば使い魔を飛ばすなどあまりコストがかからない方法を取るはずだ。わざわざ紙にインクで文字を書くとはよっぽど大切な内容なのだろう。ていうか父さんの取引相手以外で見たことない。

「んでもそれってこっちが断りを入れてないから断りずらくない?」

「それはレン様が悪いのでは?日頃からしっかり確認しておけばこのようなことが起きませんでしたが」

「正論はやめて、まあこの仕事の期日はまだだいぶ先だし、受けるか。内容は時計の修理でしょ。すぐに終わるよ」レンが持ってきた手紙を読みながら答える。

相当のお代は頂くとしよう。続きの作業をする気も失せたのでこのままゆっくりと珈琲と煙草を堪能した。


 お昼の陽気でうとうとしていると、突然バガバガと馬の蹄の音が聞こえてきた。窓から音の方を覗くとかなり立派な馬車が家に向かっていた

「騒がしすぎるだろ、なんなんだ」悪態をつきながら立ち上がる。

玄関まで近づくと大きく甲高い、キンキンした声で

「レンファーレンはいますの!?」お隣様まで聞こえる大声で叫んできた

「いませんの」玄関に向かって私も叫んだ。

「アンナリアーナ様でございましょうか?」レンが静かな声で問いかける。

「いかにも、わたくしは王都の大貴族、アンナリアーナ・アンジェリーニよ!」まるで演劇でもしているかのような、高々と名乗りを上げた。

「んで、大貴族様が辺境のこの村になんの用事?」めんどくさいが家の前でガーガー叫ばれてもたまったもんじゃない、私の気持ちを察したのかレンは玄関を開けた。

「あなたがレンファーレンね!今日は修理して欲しい物があってはるばる王都より参りましたわ!」背筋をピンと張っているレンに向かって自己紹介をした。

整えられた金髪に少し釣り目な顔。身長は高く見えるが厚底のブーツを履いているみたいだ、多分私よりやや高いくらい。白のシャツに桃色を基調としたドレスは流石自称とは言え大貴族様、細かい装飾とレースが使われて豪華絢爛という出で立ちであった。

「流石腕利きの修理屋ね!とても威厳を感じられるわ!あら?そのみすぼらしい子は誰かしら?あなたの拾い子?」さらっとめちゃくちゃ失礼なことを連発される。

「ああ、私は拾い子だ。こいつに世話されている」軽く自己紹介

「話をややこしくさせないで下さい。私は魔機械人形のレイ、そしてあそこのお方がレンファーレン様になります」しっかり自己紹介。

「あらそうだったの、それで今日わたくしは依頼に来たの!」まったく悪びれる素振りなし。

「この時計を修理して下さる?」

そういって腕を突き出し見せつけてきたのは、古い懐中時計だった。

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