第3話 修理屋さんとお食事
突如現れた同居人と奇妙な夕食。私は先日近くで採った根菜を咀嚼をしながらレイに問いかけた。
「それで、あんた飯は?生き物じゃないだろうからどっかからエネルギー引っ張ってくる必要ありそうだけど」
「いえ、基本的に必要はございません。活動時ないしは休眠時に周囲のマナを皮膚組織から吸収します。ただし、活動中は消費マナを上回るので定期的な休眠モードを取ることで補っております」
「ふーん、なるほど」
便利なんだか不便なんだか。要は何も与える必要はないが定期的に寝ないといけないってことか。しかし、エネルギー効率が良すぎる。周囲どれくらいの範囲が対象なのかは分からないが外気のマナを取り込むだけでこれだけ稼働するのは大したものだ。外気のマナは不安定なバランスで保たれている。あまり強い影響を与えると周囲の生態系をも狂わせてしまうからあまり強くアプローチはできないはずだ。こういう未知の技術に出会えたことは嬉しいような悔しいような複雑な心境だ。
「まあ、改めてよろしく」
一応の歓迎の言葉を送っておく。本心は速攻で突き帰したい。こんなもの持ち歩いていたら最悪帝国の兵士や教会の司教に目を付けられて面倒なことが起きかねない。前者は個人の過剰な武装の所持、後者は宗教的観念から。
「ありがとうございます。あと僭越ながらレン様が危惧される心配事は恐らく起こらないと思われますのでご安心ください」
レンは私の食事スピードに合わせて食後のデザートに林檎を剥いている。
「ほう」興味ある視線で語り掛けてみる
「帝国に私のデータはございません、故に見た目で判断されます。そして外見的に私は戦闘不可能と判断され脅威対象から外されます」
「なるほど」面白い
「教会の一部地域は確かに人型の所持を禁じている地域も存在します。しかし、特例として認められる場合もあります」
喋りながら持っているナイフを私に見せる
「武器として所持している場合です。国の性質上、権力者が表に出ることが多い聖都では護身用にあえて見た目を非力そうに造られている騎士人形を所持している者も複数います。そこそこ以上の権力者なら魔機械人形を持っていてもそこまで怪しまれることはございません」
皮が剥かれた林檎が私の前に出される
「そして王都は言わずもがな多様な考え方を取り入れています。もしかすると三都以外の一部地域ではご迷惑をおかけするかもしれません」
「あんた、性格悪いね」口に林檎を持っていき一口。甘い
「そうでしょうか?お気に召さなかったですか?」
「誉め言葉だよ」
こいつの本性が少しだけ分かったかもしれない。冷静に合理的に分析、そしてさりげなく自分の意見を通す、人形のくせに食えないやつだ。
「私は食用ではございませんのであしからず」
うっさいな、どこまで見透かしているんだ
「とりあえず私はあんたをここに置く事に決めた、これでいいんだろう?明日は久しぶりに学院に顔を出すからまた一日家を空けるから好きに使ってくれ。私はもう寝るわ」
「おやすみなさいませ」
レイはそう言うと林檎の乗った食器以外をキッチンへと運びだした。私は林檎皿と外套に入っている葉巻を手に自室へと戻った。
煙草を1本ゆっくりくゆらせ、残りの林檎を消化する。やはり自室が一番落ち着く。雑多に置かれた機械工具と部品の数々。ぐちゃぐちゃのベッドに乱暴に押し入りそのまま瞳を閉じた。今日は疲れた、久々にぐっすり眠れそうだ。
朝目が覚める。自室の壁掛け時計で時間を確認。予定通りの時間に起きれた。もぞもぞと布団から出て適当に髪をすいてリビングに向かう。そこにはいつもと違う光景
「おはようございます、レン様」すかさず挨拶
「おはよ」
朝ごはんが準備されていた。昨日のふかし芋と黒パンそしてコーヒー。なかなかに優雅な食事だ。
「私は基本朝ごはんは食べないんだが」
「朝ごはんを食べないと大きくなりませんよ」
私が数十年この体形なことを知ってて言ってるよな、これ。ご飯を食べるときのルーチン、手を合わせるとパンをちぎって口の中にほおりこんだ。ぼそぼそ感がすごいがしっかり小麦の風味もある良質なパンだ。
「ご飯食べると動きたくなくなるんだよ」
もぐもぐ食べている私を見ながら
「どうしてもとレン様が言われるならそう致しますが」
「どうしても」即答で返事
ここは譲れない。そもそも体質上食事をしなくても動ける身体だ。むしろ食べ物をむやみに身体に詰め込むのは体内マナの循環に悪影響だ、どちらかというと食事は娯楽に近い。夜のささやかな楽しみくらいで丁度いい。
「了解致しました」
こういう踏み込まない所は素直に感心した。昨日もそうだが自室に戻る時も深く追求しなかったし私的に好きな距離感だ。
「それでお帰りはいつ頃になりますでしょうか」
「夕方くらいか、7刻前には帰るよ」
「それまでにお食事の準備をしておきます。他申しつけあれば何なりと」
「特にないよ、私の部屋と作業場はなるべく入らないで、他人に片づけられたら場所分かんなくなるから」
それだけ言うとパンを口に含みコーヒーで飲み下して席を立った。外套を羽織り一言
「いってくる」
「行ってらっしゃいませ」
今日の景色は少しだけ明るかった。多分春が近づいているんだろう。
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