第2話 修理屋さんと魔機械人形
面倒ごとは嫌いだ。少し面白そうなことならいざ知らずあからさまに悪い方向に行くと分かっていて自ら足を突っ込むような愚かなことはしたくない。そっと蓋を閉じて何も見なかったことにする。魔機械人形、しかもここまで精巧に作られたものは見たことがない。恐らく量産ではなく完全にワンオフ。誰が何の目的で送ってきたか知らないがこんな厄介なもの送られてきても普通に困る。何とか返送できないものかと思案していると箱から手が生えてきた。正確には人形が自ら蓋を開けたのだが
「レンファーレン・スレイ様でしょうか?」機械とは思えない涼やかな声
「いいえ、人違いです」対抗して機械的な返答
箱をよじ登り脱出、私の顔をまじまじと眺める人形
「声紋、光彩、体内マナ情報一致、レンファーレン様と確認。わたくしダイン様より名を受けて参りました。TYPE-00000_00000と申します以後レンファーレン様のお世話をする事が最重要任務となります。何なりとお申し付けください」
「あーそう、んじゃあ元居た場所に帰ってくれ、そのダインさんとやら場所に、うちの父さんはもういないはずだから、人違いってことで」
「いえ、間違いなくわたくしはダイン様の名を受けこちらへ参りました。システムの根幹に基づく記録です、娘のレンファーレン様とも遺伝子情報が合致しております」
ってことは少しは信憑性のある情報なのか?過去父さんが製造したシステム基盤を今のこいつに付けたのかあるいは本当にここ最近父さんがどこかで何かしたのか。父さんが生きているのか。
「わかった、とりま家入りな。外寒いしお腹空いた」
「了解致しました。」
葉巻に火を付け口にくわえる。
「レンファーレン様、葉巻はお体に障りますので」
「いいの、今頭使ってるんだからあとその名前長いからレンって呼んで」
「了解致しました」
いつぞやの煙草屋店主よろしく顔に煙を吹きかける。一切顔をしかめることなくこちらを見ている。本当に実によくできている、仕事柄魔機械人形を触ることも多いがこれは本当に別格の出来だ。見た目と耐久性でよく花売り人形が引き合いに出されるがそれとも違う。先ほどからの身のこなしが精密でここまで細かに動作する人形は帝都製の騎士人形でも難しい。これまで全てにおいて最高基準の人形を作れる人はそうそういない。まるで父さんが作る機械のようだ。とつとつと考えながら暖炉に火を付ける。部屋はゆっくりと暖かくなっていきとりあえずソファに腰を下ろした。
「ご飯の準備を致しましょうか?」思わぬ提案
「出来るんか、そんなこと」
「はい、そこのキッチンと食材を提供して頂ければより効率的に食事の準備が出来ます」
「ん、じゃあお願い。食べ物はナツんとこのおばさんから貰った芋が大量にあるからそれと冷蔵倉の中になんか適当に。別に豪勢にしなくていいから」
「了解致しました。」
そういうとあいつは颯爽とご飯の準備に向かった。ほどなくして葉巻が1本吸い終わった。とりあえず疲れた。昨日はケチって宿にシャワーを付けなかったから久々に身体を洗いたい。替えの服を持って洗面室へと向かった。
服と下着を乱暴に脱ぐ。素っ裸の私が鏡に映る。レンファーレン・スレイ確かに私の名だ。父ダイン・スレイと母ユーティスから生まれた世にも珍しきドワーフとエルフのハーフ。異種族間同士どうやって交配して私が出来たのか定かではないが夫婦仲が娘の私が引くほど仲が良かったので多分なんか頑張ったのだろう。伸びきれない中途半端な耳と緑と茶色が混ざった変な色の目。実年齢と見た目が合致しないという見た目から間違いなくあの二人の子供ってあることは確かだ。それが私。生まれも育ちもこの村で、ある日父さんと母さんが仕事でこの村を出て一時経ってそれ以降音信不通になった。最後の手紙ではなんかかなりやばいことに巻き込まれたみたいなことが書いてあったが、そもそもいつも何かしらに巻き込まれているのでいつかそんな日が来るような気もしたから心の準備は出来ていた。蛇口をひねってお湯を身体に当てながら考える。父さんと母さんが生きている可能性。もしかしたらここずっと連絡が取れなくて最近になって取れるようになった。またはこの方法でしかコンタクト取れなかった?正直なにも情報ないから今の現状を整理するだけにしておこう。変なロボットが来た、終了。
シャワーから上がって服に着替える。だぼっとしたボロボロの服。どうせ仕事の時は汚れてもいいように羽織るし、外出することもめったにないため基本はこの服装。そして、リビングに戻るとそこにはしっかり料理が並べられていた。
「もう少しで完了致します、しばらくお待ちください」
奥から声が聞こえてきた。
「いたーだきます」手を合わせて合唱。どっかの国のおまじない
フォークを突き立ててふかした芋をほおばってみる。なかなか甘みがあっておいしい。いつもは暖炉で適当に温めて食べているからぼそぼそしていたり固かったりしていたがこれは違う。鍋を使いしっかり蒸気に当ててふかされた芋はほくほく柔らかくて芋本来の甘さがきちんと伝わってくる。
「んまーいじゃん」素直な感想
「はしたないですよ。まだ料理は出来ておりません」
「いいんだよ、美味しく頂ければ問題ない。あと水を持ってきてくれ、レイ」
「レイとはどちら様でしょうか」
「あんただよ、0番目に作られたんでしょ?どうせ私ら同士でしか呼び合わないから似たり寄ったりの名前でもそんな困らんでしょ」
「わかりました、レン様」
ほんの少し広角が上がった気がしたが、まあいいとりあえずはご飯だ。他の付け合わせも申し分ないしこの感じだとそこまで豪華に作ってはないようだ。あくまで質素でありながらなるべく美味しくしようとした感じの料理。この懐かしい感じの料理を今はたくさん堪能していたかった。
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