Chapter:22 「ぼくたち三人だったら、大丈夫だよ」

「な、何でいきなり崩れやがったんだ、この城……」

「ヴォルシガが消えて、城の主がいなくなったからでしょうか……」

 五月が出流をちょんちょんとつついた。

「ねえ。ぼく、ヴォルシガの首輪しか攻撃できなかったのに、何であの人、砂になっちゃったんだろう」

「……多分、なんですが。あの攻撃で、ヴォルシガの【ライフクリスタル】が砕けたのではと」

 博希はそれを聞いて、信じられないというふうに出流を見た。

「そんなとこに【ライフクリスタル】が!? 攻撃されたら終わりじゃ――」

 出流は博希を見た。そして、ふいと、空に目をやる。

「……レドルアビデの考えたことではないでしょうか。分が悪くなれば、自分で砕いて、死を迎えられるようにという――」

「…………!」

「恐ろしい考えの持ち主です。そして、とてつもなく冷たい――」

「そういうヤツが、ここを支配してんのかぁ……」

「僕らはとんでもない相手を敵に回していますよ? いまさらですが」

 五月は自分の手を、そっと見た。汗ばんでいる。何か考え深げにきゅっ……と手を握ると、言った。

「……大丈夫だよっ! ぼくたち三人だったら、大丈夫だよ」

 もちろん根拠などない。ただ、何とか元のペースに戻りたいという思いから無意識のうちに起こる、五月特有の言葉なのである。

「そう、ですね」

「そうだなっ」

 それが博希たちにも解っているから、五月の言にしたがって、すぐ、いつものペースに自分たちをもっていく。それが一番自分たちらしいということを知っている。

「じゃ、宿に戻りましょうか? 荷物がそのままですよ」

「その前に出流、お前の傷の治療もしないとな」

「こんなのなめてりゃ治りますよ」

「そんな言葉、俺お前から初めて聞くぞ」

 三人は村に戻っていった。



 レドルアビデのそばに、デストダが静かに座っていた。

「解ってらっしゃったのですね、レドルアビデ様」

「……何のことだ、デストダ?」

「ヴォルシガのことです。伝説の勇士たちが彼を倒せないようであれば、自分の相手ではないと思ってらっしゃった、違いますか」

「――――」

 レドルアビデは、ばっ! と、デストダに人差し指を向けた。

「うっ!」

 デストダの喉が、チリチリと痛みを覚える。熱い……!

「……お前に【読心】の魔法を与えたのはこの俺だが……俺に使え、とは言っていない、はずだ」

「……は……い……」

「忘れるな。俺の【魔法】で、お前を今この場で砂に変えることもできるということを!」

 指を下ろす。デストダはふいに、解放感を感じる。

「げほっ……げほ」

 真っ赤な瞳が光る。

「申し訳……ありませんでした」

「他に報告は」

「……伝説の勇士が……娘の行方を追っております」

「……あの、娘か?」

「はっ……」

「そうか」

 答えは、それだけだった。デストダはレドルアビデの横顔を見つめながら、思っていた。――恐ろしい方だ。だが、だからこそ、お仕えできる。

 レドルアビデは、この世界のすべてを映し出すという鏡、【万里の水鏡】を見下ろしながら、デストダに言った。

「イエローサンダ総統スイフルセントを呼べ、それから」

「は」

「グリーンライに飛んで、ヴォルシガの砂を集めておけ。集めたら、俺のもとに持ってこい」

 レドルアビデの真意が見えない。が、これ以上【読心】するのは命の危険が伴う。デストダは、素直に頭を垂れた。

「御意」

 デストダはまずグリーンライに向けて、飛び立った。早めに行っておかなければならない。村人たちによって城が撤去されたら、砂が集められなくなる。イエローサンダに行くのは、それからでもいい。

「……伝説の勇士め。さすがにあの神官が導いただけのことはあるか……だが、それまでよ。貴様らにマスカレッタは救えん、いや、救わせん!」

 レドルアビデの高笑いが、ホワイトキャッスルに響いた。【エヴィーアの花】が、それに反応してか否か、わずかに震えた。まるで、人知れず涙を流しているかのような――震えだった。

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