Chapter:23 「挑戦、か」

 その頃。

 博希たちが観葉植物に襲われたあとの温室に、一つの影があった。辺りは薄暗くなっており、影が誰であるのか、判別はつかなかった。

 影は、温室をぐるり――見渡して、つぶやいた。

「…………フ…………」

 温室から出る。雨は上がっていた。夏の夕焼けが影を照らす。その影は――

 数学教師、安土宮零一、――――だった。



 存外深かった出流の傷は、回復に向かっていた。

 結局宿屋で部屋を分ける分けないの一件は、宿の主人が五月を娘と勘違いしたがための、余計な老婆心だったということがわかり、主人は五月に謝罪をし、博希は主人に謝罪した。

「僕のせいで予想外の滞在になってしまいましたね」

「まあ、とりあえず、グリーンライが平和になったことまで確認できたわけだし、いいんじゃないのか」

「そう――ですね」

 複雑な表情で、出流がつぶやく。

 結局、この村の執政官は完全に失脚に追い込まれた。グリーンライにおける他の村も、ヴォルシガに従っていた執政官が次々と力を失い、新しい執政官が村人の中から選出された、ということまで、博希たちは聞いた。

「これで、よかったんでしょうか」

「あん?」

「この平和は……あの人たちが自分たちで勝ち取ったものではありません。それは何よりあの人たちが解っているはず、なのに、……」

「ああ、そういやあ、俺たちが戦ってた時もただ見てるだけだったしなぁ」

「……ええ……」

 その時、五月が、部屋に駆け込んできた。

「ヒロくん! イーくん! 窓の外、見て!!」

「え……?」

「窓の外?」

 窓を開ける。直後、二人は、目をまともに開けることができなかった。ようやく、少しだけ、目を開けることができたとき、二人の目に飛び込んできたのは、緑色に輝く、光の洪水――――!

「ね、きれいでしょ!? この街は、緑色の光が降るんだって。雨の代わりかもね」

「きれいだ……」

「まるで、花火、みたいですね」

「しだれ柳、か? そうだな、緑色で、ホントの柳みたいだな」

 五月がはしゃいで、声を上げる。

「たーまやー」

 博希がクスッと笑って、続けた。

「かーぎやーっ」

 その晩、朝になるまで、光の洪水は続いたという。



 次の日、博希たちはグリーンライをあとにすることにした。

「ありがとうございました」

「また、折があればいらしてくださいね」

「ええ、また、ぜひ」

「今度はぼくを女の子って間違えちゃいやだよ」

「はっ、そっ、それはもうっ」

 笑いが起きる。三人は村の人々に手を振って、別れた。

「次はどの都市に行く?」

 それを聞いて、五月が思い出したように、博希と出流に言った。

「それがね、ぼくが捕まってたときに、鳥のような虫のようなカッパのような人が、次に自分が仕えるのはイエローサンダの総統だって言ってた」

「??」

 鳥で虫でなおかつカッパ?? 博希と出流は今一つ画が思い浮かばず、首をひねったが、まあそれはともかくとして。

「どういうことかな」

「わざと、五月サンに聞かせるために言いにきた可能性もありますね」

「挑戦、か」

「レドルアビデの?」

「ええ。……行きますか?」

「行くでしょ!」

「行こうぜっ。じゃあ、次はイエローサンダだな!」

 三人は、握り拳をちょんっ、と合わせて、歩きはじめるのだった。

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