Chapter:21 「切れろ――――っ」

 五月が叫ぶとともに、手の中に、細身のソードが納まった。

「わあ、わあ、これぼくの武器!? カッコいい! カッコいいねぇ!!」

「言ってる場合じゃねえぞ五月!」

 ヴォルシガが光の剣で五月を襲う。思わず五月はソードを縦に構えた。

「ひゃーああっ」

 光が割れて、ソードに吸収されるように消える。

「ふぁああ……すっごい……」

 だが五月は力の使い方がまだいまひとつわからない。【声】が必要なことはスカフィードから聞いているが、どうしたら攻撃できるのだろう? 五月はソードをぶんぶんと振ってみる。だが、それらしい反応はない。

「貴様ら全員、冥土に送ってやるわ!」

 ヴォルシガがまた光をため始めた。剣から光があふれ、刃となってあたりに広がる。

「変態百出――乾坤一擲!」

 出流が矢を増やし、次々に放って応戦する。

「マスカレードアタック!」

 博希も光を裂いてゆく。だがこれではきりがなく、攻撃の隙さえ与えられない。五月もとにかく何か【声】を、と思ったが、思いつかないまま、ソードを振っていた。

 そんな中だった。光の刃がまっすぐに五月を狙った。

「五月サン!」

 出流は五月のほうに矢を放った。しかし、自分に向かってくる刃を避けきれず、刃が彼の腕をかする。

「ぐ……う」

 かすっただけとはいえ出血がおびただしい。出流は弓を取り落として、崩れた。

「イーくん! ……よくもイーくんをぉぉ!」

 五月が自分のソードを構えて、ヴォルシガに向かった。

 ヴォルシガは、五月の【伝説の勇士】としての力を、少し、見くびっていた感がある。だから――自分に迫って来る五月に、彼は笑えるほど、無防備だった。

「な……!?」

 ヴォルシガはとっさに、目標を博希から五月に切り替えようとして、五月の正面に体を動かした。それが、ヴォルシガにとって、完全なる致命傷になった。

「――刺すよっ!」

 五月のソードが、【声】を受けて、勢いを増した。五月は自分の腕が自分のものではないような感覚に襲われる。

 強い勢い! 力の制御ができない。コントロールがうまくとれない五月の腕は、ヴォルシガの首のほうに向かった。

 五月はぎっと奥歯に力をためて、思い切り、ソードを振るう。

「切れろ――――っ」

 五月の腕に、ずんと重みが加わった。下から上へ、五月のソードはヴォルシガの首についていた首輪のようなものに、ヒットした。


 パ――…………ン!


 そんな音を立てて、首輪が真っ二つになり、はめ込んであった水晶球が、粉々に砕けた。

「き……さま……」

 ヴォルシガは自分の首を押さえて、五月をにらむ。

「――――!」

 五月は瞬間、身を固くした。憎悪に満ちたその瞳に、五月は飲み込まれそうな圧力を感じずにはいられなかった。

 そして――

「!?」

 五月だけではない。出流も博希も、自分の目を疑った。

 ざら、り。

 ヴォルシガの指が、崩れた。細かい砂になって――――

「っ……」

 絶句する三人。五月はソードを握りしめている。

「ぼくが……ぼくが」

 五月がわずかに、かたかたと震えているのが、出流には解った。

「これで……勝ったと思うな、よ。しょせんお前たちは……レドルアビデに消されるっ……運命……」

 手首が崩れた。

 博希が思い出したように、沙織の写真を出す。

「崩れる前にこれだけは聞いとくっ。この女の子、お前は知らないかっ!?」

 ヴォルシガはその写真を見て、言った。

「……ホントに娘だろうな」

「正真正銘の娘だっ」

「知らんな」

「ホントだろうなっ」

「知らん。……俺が今までに陥とした娘の中には、少なくとも、おらん」

「……そうか」

 足が崩れる。

 ざらり、ざらり――――

「ああ、そうだ、レドルアビデ、なら、…………」

「何!?」

「フン……たわごとだ」

「言えっ。レドルアビデがどうしたっ!?」

 胴体が、崩れる…………

「それだけは……あの世に持って行く。最後ぐらい……優越感を持って逝きたいからなっ。ハハハハハッ」

 高笑いを残して、ヴォルシガの身体は、すべてが砂になった。

「…………」

 直後。ガタガタガタガタッ! と、城が揺れた。

「なんだっ!? 地震かっ!?」

「逃げましょうっ!」

「落ち着けっ! まず机の下にっ」

「そんなことしてる場合ですかっ! 間違いなく下敷きになりますよっ!!」

「ワア――――」

 三人は、急いで、城から脱出した。

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