Chapter:20 「誰だって間違うだろう!?」

「動くと、その華薯な体が真っ二つになるぞっ」

「後でちゃんとくっつけてくれる?」

「誰がくっつけるかっ。あの二人といい、お前といい、何で【伝説の勇士】はこんなに人をおちょくるんだっ」

 五月は別におちょくったわけではない。素で聞いたのである。くっつけてくれないんだったら真っ二つにされ損だなあ、と、五月はぼんやり考えていた。まあ、動くなと言うなら動かないほうがいいんだろう。五月はエンブレムを出そうとするのをやめた。

「そうだ、そういうふうにおとなしくしてろ……」

「……男の夢はヨ~」

「なんだなんだ! 何歌ってんだお前は!」

 だが五月は首を振っている。ぼくじゃないよ、とでも言いたげに。

「大漁船の舳先にヨ~」

「やっぱりお前じゃないかっ」

「違うよっ」

「じゃあどこのトンチキが歌ってるんだっ!!」

 五月はその歌声に聞き覚えがあった。

「多分、窓の外」

「窓の外う!? ここは六階だぞっ」

「じゃ、見てみたらいいじゃない」

 ヴォルシガは五月の言う通り、窓を開けて下を見た。

「うわっ?!」

 すぐそこまで博希がロッククライミングで迫ってきていた。

「貴様あ、【伝説の勇士】だな!」

 まだ登ってきている博希に、ヴォルシガは窓から首を出したまま言った。したがって、自分の背後で一体なにが起こっているのか、彼には解らなかったのである。正面の入り口から堂々と入ってきた出流が、五月のエンブレムを隠している布を狙って、弓を引いた。

「イーくん!」

「なにっ!?」

「遅いですよ、ヴォルシガっ! ――灯台下暗!」

 ひょんっ、と弓が放たれ、五月のエンブレムをあらわにした。

「ありがとう、イーくん」

「ぶっ……くくっ……」

 なぜか笑いをこらえているふうの出流に、五月は首をかしげた。博希もヴォルシガの攻撃を避けつつ、部屋に侵入してすぐの後、「ぶはっ」と吹き出した。

「どうしたの」

「……に、似合うぞ、五月」

「はっ……初めて見ましたよ、ドレスっ」

「ブッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ」

「あっははははは、だめですよ博希サンっ、笑わないって約束したでしょう、どういうことになっててもっ」

「仕方ねぇだろっ、ドレスだぜドレスっ」

「水着よりマシでしょうよっ」

「ゲラゲラゲラゲラゲラ」

「ひどいっ。ぼく我慢したんだよっ」

「はいはい、ごめんなさいごめんなさい。とりあえず鎧装着しましょうね、鎖も邪魔でしょうし」

 ひとしきり彼らの大爆笑を聞いていたヴォルシガは、さっき出流が放った矢が、自分ではなく、五月の布を狙っていたことに、いまさらながら気がついた。

「貴様……」

「早くっ」

「ヨロイヨデロー!」

 ヴォルシガが五月を真っ二つにするより早く、五月は鎧装着を完了していた。

「やった、初めて鎧装着したよぼく!」

 五月は鎖を引きちぎると、博希と出流のもとに駆け寄った。

「あのね、もう、あの人、レドルアビデから見放された」

「おや」

「そりゃあそうだろうよ、五月を女と間違ってさらって、挙げ句の果てにゃ襲いかけちまうんだもんなあ」

 ヴォルシガは怒りをあらわにしつつ、反論した。

「女だと思ったんだっ、最初に村で見たときからっ!!」

 出流がため息をつく。

「ますますバカですね。そんなに前から五月サンに目ェつけてたんですか。男だって事も気がつかずに!?」

「誰だって間違うだろう!?」

「…………」

「……否定はしませんが……まあ、不毛な論争はここまでにしておきましょう。先程五月サンの言ったことが確かなら、あなたはもう、レドルアビデの部下ではない。ということは、僕たちと戦う理由はありませんね。どうなさいますか?」

「理由? あるさ……!」

 ヴォルシガは自らの手に光をため始めた。

「俺をさんざんコケにしてくれたその礼がまだだからな!!」

 光がだんだんと形を成す。剣の形になったそれを、ヴォルシガは力任せにぶるんと振った。

「うへっ」

 部屋のカーテンがきれいに裂ける。これがあいつの【魔法】ってヤツか!? 博希はそう考えながら、自身も武器を出した。

「くっ」

 ヴォルシガの剣をようやっと受け止める。

「……まぁまぁとりあえず落ち着けよ……俺たちの準備がまだだぜ……?」

「いちいち待ってやるほど俺は親切じゃない!」

 もう片手にも光の剣を作り、ヴォルシガは出流をめがけてふるう。すでに弓を装備していた出流は、矢を放って応戦した。

「くっ……」

 二刀流のヴォルシガに押され気味の二人。博希が叫んだ。

「五月、お前も武器出せ!」

「うんっ! ブキヨデロー!」

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