Chapter:18 「俺、すっげーイヤな予感が」

 五月はとりあえず、一番きれいなドレスを選んで、着ることにした。

「やあ、似合うよ」

 そう言われて、別に悪い気はしない。五月はヴォルシガに引き連れられて、彼の部屋にいた。

「…………」

 ヴォルシガは五月の腕に手を伸ばした。冷たい。五月は瞬間、ゾッとした。

「これは、預かっておくよ」

「あっ」

 通信機を奪われた。これでは博希たちに連絡が取れない。五月は無意識のうちに、左手の甲に手をやっていた。いざとなったら、先日博希たちがそうしたように、この布をはいで、鎧装着すればいい。

 だが――その考えを、まるで見透かされたかのように、ヴォルシガの手が五月の手首にのびた。

「こっちへおいで」

「やだあ」

 体の自由が利かない。手首をつかまれ、引きずられるようにして、五月は別の部屋へ移動させられた。

 五月の手をいとも簡単に金属の手鎖につなぎ、五月の口を布でふさいだヴォルシガは、ニコニコと笑ったまま、様子を眺めていた。当然五月は、その笑顔に友好的なものを感じることはできなかった。

「……っ……う」

「こうでもしないと、君に暴れられて、鎧装着でもされると面倒だからね」

「――――!」

 やっぱり見抜かれていた。これでは、エンブレムが隠れたままの上、【声】も出せないから、鎧装着は不可能。ヴォルシガはそこまで解っていたのである。

「……ぐ……」

 暴れてみる。だが、びくともしない。

「ああ、だめだめ、下手に暴れて、手首に傷でもついたらどうするんだい?」

 五月の手首を優しく撫でるヴォルシガ。もはやその優しささえ、五月には鳥肌が立って仕方がなかった。

 それにしても、この人はぼくをどうする気なんだろう、と、五月は思った。お人形かなんかとして置いとくつもりかな。じゃあもうぼく暴れないし、鎧装着もしないから、これ外してもらいたい。――五月はそう、思っていたが、いかんせん、ヴォルシガはあくまで【女好きの男】なのである。五月の予想をどこまでも遥かに超える事を、彼はやらかすつもりでいた。五月はもっと、勉強しておくべきだった。何をと言われると困るが。

 五月の目の前にいるヴォルシガは、なんだか、さっきの彼と違っていた。目の色が明らかに違う。

「……ふふふ……、」

 五月の全身に、ぞわっ――と悪寒が走る。だが、五月自身にとっては、一体ヴォルシガが何をしようとしているのか、全く解っていない。

「怯えなくても大丈夫だよ」

「??????????」

 ヴォルシガは五月のドレスを脱がせにかかった。

 五月にしてみれば、今、ヴォルシガが何をやっているのか、全くもって理解不可能だったため、とりあえずまた着替えさせようと思ってるのかしら、くらいの、非常に楽観的な考えしか頭に浮かんでいなかった。



 博希と出流はいまだに疾走中だった。

「! ……おい出流、何か今、俺、すっげーイヤな予感が」

「は?」



 五月はまだ脱がされていた。そして、――ヴォルシガがやっと自らのミスに気がつく時が、刻一刻と迫っていた。

 ヴォルシガの手が、五月の胸にかかった。だが、

「…………!?」

 五月の胸を触ったヴォルシガの方が、一瞬、身を固くした。

 『平ペったい』。

 ヴォルシガはできるだけ冷静を保ちつつ、五月の口をふさいでいた布を外して、聞いた。

「お前、本当に、年頃なんだろうな」

「年頃? うん。ママがそう言ってたよ」

「年頃の――娘だろうな!?」

「ううん、年頃の息子」

「…………」

 相当女を見慣れてきたヴォルシガにとって、年頃であるはずの五月の胸に、あまりにも膨らみがなさすぎるという事実は、どう考えても、彼に一つの結論しか与えなかった。

「……おま……え。男かっ……!?」

「そうだよ。いまさら何言ってんの!?」

「う……嘘だっ。嘘だあああああああああああ………………!!」

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