Chapter:17 「あなたは鳥に法律を適用するのですか」
博希と出流は、暴漢が飛びかかると同時に、手の甲のエンブレムをあらわにした。それを見ていた村の人々は、あっ! ――と、叫ぶような表情を見せた。
「これを待ってたんだろっ!? レジェンドプロテクター・チェンジ!」
「僕たちを襲った事、後悔するんですね……! 勇猛邁進・鎧冑変化!!」
二人は実にすばやく、鎧装着を完了した。
周りの観衆は、実に無責任に、「伝説の勇士だ」「勇士様が来てくださった」と口々に言い合っていた。煽るでもなく、歓声を上げるでもなく。中には拝むようなポーズを見せる者もいた。出流は暴漢を矢で倒していきながら、複雑な気分になっていた。
暴漢はこの三分で、半分に減った。全く普通の高校生だった自分たちが、えらい力を手にいれてしまったもんだ。博希はそう思った。
「後は放っておくか? 早く五月を捜しに行かないと……」
「そうですね。走りましょう!」
だが、その時。
「お前たちが――【伝説の勇士】か?」
見物人の空気が変わったのを、出流は鋭く感じた。
人ごみをかき分けて、一人の紳士が現れる。
「……誰だ、アンタ」
博希が走るスタンバイ完了の体勢のまま、じりじりと、紳士を見ている。
「私はこの村の執政官だ」
「……へえ」
出流が、冷たい微笑を見せた。
「先日の村の時点で、僕らは執政官という人種を信用するのはやめようと決めたんですよ。そこを通してください」
「そういうわけにはいかんな。君たちの暴れっぷりはさっき、観察させてもらった」
「止めにも入らなかったんですね。本当にいやな人だ」
「君たちの所業は村の治安を乱す大罪だ」
執政官がニタニタと笑いながら言った。
「だったら俺たちを逮捕しちゃあどうだ?」
「きっと、誰かさんに頼まれた足留めでしょうが、やる事があまりにも稚拙すぎやしませんか」
「稚拙?」
「この世界の法律を僕は知りませんが、僕らはこの世界の住民ではなく、この世界を旅する、鳥です。あなたは鳥に法律を適用するのですか」
「…………」
「どうなんです」
出流は詰め寄った。こんな事を言われたのは初めてだ、と、執政官は思っていたに違いない。顔を真っ赤にして、出流を見ている。
「もしも、法律を通用するというなら、どうぞここにいる方々も断罪なさってくださいね。もともと、この方々が僕らに襲いかかってきたのです。僕らは正当防衛という名のもとに、無罪を主張しますが、如何です?」
執政官は本当に怒った。出流が執政官と対話している間、博希は、周囲の見物人たちをみんな、家の中に避難させた。キレた執政官が見物人に何をするか解らない。博希はそこまで気を回したのである。
「……貴様ら……よくもそんな口が叩けたな! おいっ、お前たち、遠慮はいらん! こいつらを始末しろ!」
残り半分の暴漢たちは、ほとんど腰がひけていた。
「俺たちの強さを知ってるんだよ。それでも俺たちと対等にやり合う気かい」
「…………っ!」
「恐らく、その統制力と舌鋒で、人々を仕切ってきたんでしょうねえ。この村が平和だと勘違いした僕が愚かでした」
「遠慮はいらねえぞ出流。やってやれ」
「ええ。そのつもりです」
出流は弓をキリキリと引き絞った。
「安心なさい、殺しはしません。ただし、死ぬよりも苦しい目に遭う可能性はありますが。村の人たちを抑圧してきた罪が下るのです」
「何をするっ。私に何かあると、ヴォルシガ様の事を聞き出せないぞっ」
「そんなもん、別に聞かなくてもいーわ。ここにはお前なんかよりずーっと頭の冴えの違うブレーンがいるんだからよ」
「褒め過ぎですよ、博希サン」
出流は真っ直ぐに、執政官を狙った。
「僕を怒らせると怖いということを、あなたはもっと早くに知るべきでした。乾坤一擲ッ!!」
「うわああああああ」
矢は、したたかに、執政官の肩口に刺さった。もっとも、服の布地だけに刺さったのであって、ケガはない。だが、執政官は、すでに失神していた。
出流は執政官の額に【天晴】と大書きしておいた。
「出来上がりです」
「まだ甘い方だよな。ヒマがないからこれ以上はやらないけど」
二人はちょっと笑って、それから、暴漢たちに聞いた。
「あんたがたもやってほしい?」
無言で首を振る暴漢たち。
「そっか。じゃあやめとく。だけど今度この村の人たちに何かやらかしたら――執政官よりもひどいぞ」
それだけ言って、博希と出流は走り出した。
「それにしても、シブかったぜ、『鳥』」
「そうですか? 『雲』の方がよかったかと思ったんですが」
「いや、『鳥』の方がカッコよかったねえ」
「そうですか。それはよかった」
二人はグリーンライ中心都市へ急いだ。
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