Chapter:16 「何で全部ドレスなの!!??」

「おい、おっさんっ」

 博希は宿屋の一階に降りるなり、主人につかみかかった。

「なっ、何ですかっ」

「てめぇっ、どこの誰に頼まれて睡眠薬なんか盛りやがった!? アレか! 部屋分けろっつったのも五月かっさらわせるつもりだったのかっ」

「な、何のことです!?」

「とぼけんじゃね――――ッ!!」

「うわ――――っ」

「落ち着いてくださいっ、博希サンっ。僕が聞きますからっ」

 博希を部屋の端に追いやって、出流は落ち着いた口調で聞いた。

「乱暴なことをしてすみません。実は、仲間が一人、いなくなってしまいまして。僕たちは昨日、夕食をいただいてから、非常に眠たくなりました。それで、前後不覚になってしまったのです。――昨日の夕方ごろ、なにかありませんでしたか?」

「――ああ、そういえば、ヴォルシガ様のお使いの方がいらっしゃいました」

「ヴォルシガぁ!?」

 博希が乗り出して来た。

「博希サンっ。黙っててください、あなたが話に加わると五分の話が一時間かかります。……で?」

「伝染病の薬を食事に混ぜるようにと、瓶を一瓶置いていかれました」

「…………! その薬は、まだ?」

「はい、多分食堂に……」

「失礼しますっ」

 出流が食堂に駆け込む。

「この瓶ですね?」

 出流は瓶をひっつかむと、宿屋に置いてある水槽に垂らしてみた。泳いでいた珍しい色の魚が、やがて水槽の底で動かなくなった。

「やはり睡眠薬……! 行きましょう、ヴォルシガのところへ!」

 瓶を即捨ててしまうと、出流は宿を出た。博希が出流の後からついてきた。

 ふいに、出流が、立ち止まる。博希も、立ち止まって、正面を見据えた。

「出流。……」

「博希サン。……」

 二人の瞳に、危ない光が初めてよぎった。彼らの目の前には今、総勢五十人ほどの、種種雑多な暴漢がいた。

「ヴォルシガってヤツはずいぶん手回しがいいな」

「ええ。少なくとも僕たちの素性を、こちらの方々はご存じですねっ!」

 ずあっ、と、暴漢が飛びかかってきた――――!



 目覚めた五月は重い頭で、懸命に昨日の記憶を辿る。

「……ここは……」

「ここは俺の城。いらっしゃい、お嬢さん」

「えっ……? あっ……」

 気がついた。昨日、自分がいた店で、キャンドルを買ってやると誘った青年!

「キャンドルの人……」

「俺は今変身していないが、そこまで解るとはね。さすがは【伝説の勇士】」

「知ってるの!?」

「それはもう。俺はレドルアビデの直属部下だからね」

「……????」

 五月の頭の中に、ハテナマークが巡った。レドルアビデは解る。しかしチョクゾクブカとは? あの二人に意味を聞かないと解らない。どこにいるのだろう。しかし、二人は見当たらない。

「ひ……ヒロくん? イーくん? ぼく……どうして、ここに……」

「俺が連れて来たんだ。君があんまり可愛いから」

 五月は少し、ムッとした。

「ぼくは可愛いんじゃないよっ、キレイって言ってくれなくちゃ。……ヒロくんは……? イーくんはどこっ?」

 わざわざ『連れて来た』と言っているのに、まだ連れのことを気にかけている。ヴォルシガにとってはそれさえも愛しかった。

「そうだな、君はキレイだよ。これからもずっと、俺のものとしてここにいるがいい」

「……え……!?」

「君みたいな素敵な娘には初めて出会った。その髪も、その瞳も、その唇も、俺好みだよ」

「やだあ~~~~ヒロくぅん……カーくぅん……助けてよう~~」

 五月はシクシクと泣き出した。

「ああっ、あの二人が気にかかって泣いているんだな。そのうち連絡が入るだろう、もう泣くなっ」

 ヴォルシガは五月を別の部屋に連れていった。

「……ここは?」

「衣装部屋だ。好きなのを選んで着るがいい」

 彼は『また後でな』と言って、五月をその部屋に入れた。足音が遠くなる。

「何で全部ドレスなの!!??」

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