Chapter:15 「なんたる偶然!!」
多分限界まで詰め込んだ結果だろう。博希は破裂しそうな腹を抱えて、部屋へ戻っていった。標準に食べた五月と出流も、部屋へ。
「今のところだと、この村は平和そうですね。明日には発ちましょうか」
「真っ直……ぐ、ヴォルシガのところに……行ったほうがいいかも……しれないな」
「……どうしました?」
博希の様子がおかしい、と、出流は思った。
「なんかな、最近、ずいぶんあちこち動き回ったから……眠てぇや」
「ああ、では早めに寝たほうがいいのでは。僕は床で寝ますから」
「そうか? サンキュ」
博希は腹のでかいまま、ベッドになだれ込んだ。まあ、寝てる間に消化されるでしょう――と、出流が考えたとき、後ろで、五月もむずかった。
「イーくん……ぼくも……眠たいの」
「五月サンもですか? ……まあ、明日のために、寝ておいたほうがいいですね。もう片方のベッドを使って下さい」
「うん」
「おやすみなさい」
「おや…………」
言い終えないうち、五月はベッドにたどり着く前に倒れた。
「あちゃ」
出流が五月を抱えて、ベッドまで運ぶ。五月をやさしく寝かせてから、出流は自分にまで襲って来る、猛烈な眠気に気がついた。
「…………!?」
頭がグラグラする。こんな眠気、今までに体験した事が……ない。
「くっ」
なぜ…………? 考えられる……のは……、………………
出流はその場に、倒れ込んだ。自分の身体だけどこかに置き去りにされたような感じの、深い眠りに、出流は落ちた。
そして当然、部屋に、侵入者が現れたことなど、三人が気づくはずもなく――
「こやつらか、デストダ?」
「間違いありません、ヴォルシガ様」
「そうか。――、――!?」
「どうしました?」
「でっ、……デストダっ、俺がいいと言うまで部屋に入るなっ。出ていろっ」
「?? ……はあ」
デストダは博希たちの部屋から出ていった。
一人この部屋の中でちゃんとした意識を保っているヴォルシガは、ベッドですうすうと眠る五月の顔をのぞき込んだ。
「この娘は……間違いない、あの店の……! なんたる偶然!!」
一人で盛り上がっている。出流あたり起きていれば、きっと、冷たく突っ込まれたことだろう。
そしてヴォルシガは、勇士をすべてこの場で殺してしまうという当初の目論みを、完全に忘れた。更に思いついたのは、『女を奪われる男の悔しさというやつをこいつらにも味わわせてやろう!!』という、およそ世界を征服しようと野心を抱く者の部下とも思えない考えだった。状況が許すなら、この娘を自分のものにしようとさえ思ったのである。
「デストダっ」
「はっ」
すでに部屋が血の海だろうと期待して部屋に入ったデストダは、太平楽に眠り続ける二人の勇士を見て、呆気にとられた。そして、ヴォルシガから発せられた命令を聞いて、彼はもっと呆気にとられた。
「この娘を我が城まで運べ! 娘を使って、勇士を苦しめてから殺すっ」
オイコラ、その作戦は今し方思いついたヤツだろう、とデストダは思ったが、
「はっ」
と答えるのみにしておいた。
デストダは黙って、眠り続ける五月を城まで運んだ。
「………………」
夜は更けていった。
翌朝。
「~~~~うう…………」
すっかり腹のへこんだ博希は、スッキリしない頭を抱えて目を覚ました。床には、出流が転がっている。
「出流――。起きろよっ。なんでそんなとこで寝てんだ、風邪ひくぞっ」
博希は出流が、毛布ぐらい着てるものだと思ったのである。
「…………ろきサン……」
いつになく寝覚めの悪い出流の様子に、博希は首をかしげた。出流は苦しそうな顔で、博希を見た。
「……五月サンはっ、五月サンはいますか……!?」
「え!? ……五月っ? ……! 五月がいないっ!?」
「…………!!」
しまった。出流はがくりと首を垂れた。
「昨日……の夕食に、多分、睡眠薬かなにかが入っていたんです。眠ったスキを……」
「えれぇコトやらかしてくれやがってっ……!」
とにかく五月が消えた事実は確かだ。博希は、そのまま、宿屋の階下へ走っていった。
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