Chapter:14 「一部屋でいいです」
博希は情報を得たあとすぐ五月と出流に連絡を取り、元の十字路に集まった。
「とりあえず、宿屋に入りましょうか。話はそれからということで」
三人は、出流が目星をつけておいた宿屋に入った。
「いらっしゃいませ」
「三人お願いできますか? 一部屋でいいです」
そう言いながら、出流は宿帳を書き始める。
「一部屋ですか? お部屋は分けたほうがよろしいかと……」
「もったいないんで、いいですよ」
出流は宿帳に三人の名前だけ書いて――名字まで書くと、この世界にそぐわない気がしたので――、住所の所には“不定”と書き込んでルームキーをもらった。二階の一番端の部屋。
「ふあー、宿屋に泊まるのは初めてだな」
「そうですねえ。なかなかにいいところでしょう?」
「うん。眺めもいいし」
五月が窓を開ける。
「それで? 博希サン、何か沙織サンに関する情報は手に入りましたか?」
「それが……」
博希があまりに深刻な顔をしたので、出流も五月も、緊張した面持ちで、博希が座ったベッドの側に集まった。
「たくさんの人に聞いて回ったんだけど、沙織を知ってるって話は、結局聞けなかったんだ」
「何だ、手掛かりなしですね」
「でもな、ちょっと気になることを聞いたんだよ」
「気になることぅ?」
「グリーンライの総統でヴォルシガってのがいてな、こいつが、かなりの女好きらしいんだ。で、グリーンライの村々から、美しい娘を集めてばっかりらしい」
「じゃ沙織サンもその中にいる可能性が?」
「そういうことだ」
「なるほどね……」
その時。ドアの外でぎしりと音がした。
「誰です?」
出流が手の甲の布をはがしかけながら聞く。
「主人です。飲み物をお持ちしましたが」
「ああ、そうですか。どうぞ」
宿の主人がちらちらと三人を見ながら、飲み物を配ってゆく。
「あの、本当に部屋をお分けしなくてよろしかったので……?」
「またですか? なぜそんな事を聞くんです」
「いえ、別にその。無理強いは致しませんけども……」
主人は部屋から出て行きながら、言った。
「なんだありゃ。部屋分けろって? アレか。部屋代ぼったくりか」
「失礼ですよ博希サン。まあ、意図がよくわかりませんが、僕らは別に三人ひと部屋で構いませんしね」
「そうだな。あ、風呂入ろうぜ。汗流したいよ俺」
「そうですね」
五月も風呂の準備を始めた。
「ぼく一番っ」
「風呂の湯は大事に使えよ。泡なんか浮かべるんじゃねえぞ」
「うんっ」
博希たちサイドは非常にわきあいあいとしていた。していたのだが……
博希たちの泊まる宿に、怪しい風体の男が一人、入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「いや、客ではない。ヴォルシガ様の使いだ」
「!! ヴォルシガ様の!」
村の人間にとって、ヴォルシガは、出流のたとえを使うなら都道府県知事とか、そういった階級の者である。宿屋の主人は平伏した。
「最近、この近くに、伝染病らしきものが流行っているそうだ。この薬を、宿の食事に混ぜて飲ませておくように。特に、最近滞在した客は、伝染病の抗体を持っていないことがあるからとのことだ」
「ははっ」
一瓶、置いて、男は帰っていった。宿の主人は、その瓶を、何の疑いもなく、食堂に回した。
――――そして。
「お食事になさいますか?」
風呂に入ってしまって、さっぱりした博希たちに、そんな声がかかった。
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