Chapter:12 「人の恋路を邪魔した奴は許さん」
「ヒロくんたちだけ鎧装着しちゃって、いいなあ」
「仕方ないでしょう。予定が完全に狂ってしまいましたしね、次は三人でやりましょうね」
「そうだねっ。カッコいいねえ、鎧。ぼくもそういうふうなの着るんだねぇ」
執政官を引きずって隠し部屋から戻った三人は、とりあえず倒した男たちを並べてうーんと考えた。
「どうすっか、コレ」
「このまま転がしておいても……そうですね、今後のことを考えまして、威厳が保てなくなるほどはずかしめるというのはどうでしょう」
「それってどういうこと?」
こそこそこそと出流が二人に説明をする。そののち、彼らは屋敷を家探しし、化粧道具や筆記用具を持ってきた。
――その晩、執政官の屋敷では、三人がゲタゲタと際限なく笑い続ける声が響いていたという。
翌日、娘たちからすべてを聞いた村人は、数人揃って執政官の屋敷に行った。
――そして、
「ぎゃはははははははは!」
「だ――はははははははっ」
宴会の後に酔って寝た中年サラリーマンのように、顔や腹に非常にバカバカしいペインティングを施した、執政官以下ガラの悪そうな二十数人の男たち――しかも見事にずらり横一列に並んでいる――を見て、彼らは笑い死にの危機に襲われそうになった。
そのころ、父娘の家では、博希たちがすっかり旅支度を終えていた。
「もう、行かれるのですか」
「もっとご滞在なさってもいいでしょうに」
博希がすこし格好をつけて、言う。
「いやいや、苦しんでいるのはこの村だけではないはずですから」
出流も続けた。
「僕たちは、この世界全体を助けるためにやってきたんですから」
「ごはんありがとうございました」
それでも間違ってはいないんですけど、と、出流は五月をたしなめる。
「でも村人たちもきっとあなた方にお礼したいと思います。今夜まで泊まっていかれては」
「いいえ。僕たちはあまりおおっぴらな事は好まないのですよ」
「そう、ですか……せめて、お名前だけでも」
「いやいや、俺たち名乗るほどの名前は」
「あのねー、ぼく五月っていうの」
五月が完全に博希のニヒル感を打ち破った。
「僕の名は出流。それだけ覚えておかれればよろしいかと」
「~~~~~~」
「で、あそこでへこんでるのが博希サンです」
「は、はあ……」
「それでは。またいつかお会いできればいいですね」
へこんだままの博希を引き連れて、出流と五月は手を振って父娘の前から去っていった。
三人は、再び、別の村を目指して歩き始めるのだった。
すらりとした姿態の男性が、窓枠にもたれて、ため息をついた。
「ライブレアの執政官が倒された?」
「はっ。しかもこれ以上はないというぐらいマヌケな様子で」
「……【伝説の勇士】、の仕業か?」
「恐らく」
「チッ、執政官から娘を分けてもらう約束をしていたというのに、まったく役に立たん……。奴らが次にどこへ行くか、解っていないか」
「地理的状況から言って、ライハルクァ入りするのではと思いますが」
「人の恋路を邪魔した奴は許さん。もう少し泳がせてやろうかと思ったが……俺が始末してやろう」
耳のピアスをぴいん、と弾く。恋路もなにもあったものではないだろうが、博希たちがこの人物をしたたかに怒らせたことは間違いないようである。
「奴らが村入りしたら連絡しろ。いいな、デストダ」
「はっ――御意に、ヴォルシガ様」
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