Chapter:11 「悪役はいつだって起死回生を狙ってんだよ」

 執政官が一瞬、ひるんだ。

「き……貴様ら、【伝説の勇士】かっ!」

「へぇ、知名度はあるらしいな! レジェンドプロテクター・チェンジ!」

「――勇猛邁進・鎧冑変化!」

 【声】が、あたりに響き渡った。二人の姿は光に包まれ、一瞬で、全身に防具が装着されていた。

「すげー!! どうなってんだコレ。魔法ってすげえのな!!」

「これはなかなかいいですねえ」

 盛り上がる二人。すかさず、続けて武器を出す!

「スタンバイ・マイウェポン!」

以一簣障江河いっきをもってこうがをささう――武器招来!」

 博希には大きなソード、出流には弓矢が、それぞれ手の中に納まった。

「いくぜ出流、遠慮はいらねえ!」

「とはいえ殺すのはおやめなさいよ、博希サン!」

「ええい、こっちこそ遠慮はいらん! 殺せ殺せっ!」

「乾坤一擲! お食らいなさいっ!!」

 彼らを取り囲む人の壁が、出流の矢で崩れる。

「フレームアターック!」

 博希も負けじと壁を崩した。



 ――そして何分も経たないうちに、博希たち以外で起きている者は誰もいなくなった。

「急所は外しておいたでしょうね」

「もちろん。……だよな?」

「……まあ見たところみんな息はしてるようですから、大丈夫でしょう。そういう事にしておきましょう」

 博希はそのときハッとした。

「執政官のヤローはどこ行ったっ!?」

「! そういえば……!」

 倒れている男たちの中に姿がない。手袋にはめられた宝石が、ピカピカと光った。

『ヒロくん! イーくん!』

「五月サンですか!? どうしました!?」

『さっきのおじさんがまた来たよっ』

「まさか執政官……」

「急ぐぞ、出流!」



 執政官は、先程の隠し部屋に逃げてきていた。

「【伝説の勇士】が現れたということは……もう、私もここまでだっ……」

 非常に悲観的かつ短絡的な考え方であるが、そう考えても無理はないものかもしれない。執政官は村の娘たちを閉じ込めている牢へと近づいていった。娘たちが、執政官の姿を認めて、身を固くする。五月は娘たちをかばうように、少し前に出た。

「お前たち、私と一緒に死んでくれっ」

「…………!」

 いきなり常識に外れた事をのたまって、恐ろしさで声も出ない娘たちに、執政官は油を撒きかける。その手に、ひょんっ! と矢が刺さった。

「ぐあっ」

「娘さんたちがアンタと心中したいなんていつ言いました」

 冷たい声。

「イーくん!」

「ううぬぬ……貴様……」

「火は放たせませんよ。僕もこの歳で、アンタみたいなエロ中年と心中なんかしたくありませんからね」

 弓を構える。執政官は完全にあきらめたか、がくりと膝を折った。

「娘さんたちを出していただきましょう。僕らはもともとそのつもりで来たんですから」

 鍵を渡す執政官。が、出流は悪役というものの本質を、まだそこまで深く知らなかったらしい。執政官から鍵をもらって牢を開ける出流の背中に、執政官が迫った。

「イーくん、あぶないよっ!」

 出流は振り向く間がない。一瞬、空気が止まったような気がした。やられる――と感じる前に、出流が耳にしたのは、ごんっ! という、鈍い音だった。そこでやっと彼は振り向くことができた。執政官はくちゃっ、となって動かなくなった。

「お前ね、悪役はいつだって起死回生を狙ってんだよ」

「博希サン! ……殺しました?」

「まさか。……おいっ。この女の子、知らないかっ」

 博希は自分でとどめを刺しておきながら、執政官をむりやり起こして、沙織の写真を見せる。

「……知りまひぇん……」

「聞こえないッ!!」

「知りません~~~~」

「ホントだろうな」

「ホントでひゅう……」

 執政官は再びくちゃっとなった。

 村の娘たちがまとめて牢から出てきた。娘たちも【伝説】の話は知っていたらしく、博希たちに感謝しつつ、それぞれの家へ帰っていった。

 結局、執政官は娘たちを閉じ込めていただけであった、とのことだった。ある方に頼まれて、というのが理由だったが、ある方、の名を言う前に、博希が再び執政官をはっ倒してしまったので、聞くことができなかった、ともここでは付け加えておく。

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