Chapter:10 「気っっ色悪――――――ッ!!!!!!」
目隠しをされた五月が棺桶に入る。
博希たちは家を出て、運ばれていく棺桶の後をそっと追った。
「さて、どうやって神様とやらに連れていかれるのでしょうね」
博希がふっと、立ち止まる。
「あれが、壊されたご神体だな」
棺桶がご神体の前に置かれる。それから、だいぶ長い時間が流れた。
『イーくーん。寒ーい』
通信機から五月の声がして、出流は一瞬飛び上がった。
「五月サン、しーっ。誰か来たらどうするんです」
『えー、でも』
「静かに! 誰か来たぞっ」
集団だ。四~五人はいる。みんな、黒い装束で身を隠している……
「今度の娘で最後か?」
「いや。まだあと一人いる」
「確かめろ」
「へっへっへっへ。娘だ娘だ」
「連れて行け」
「へっへっへっへっへ」
怪しい集団は、棺桶の中から五月を出して、担いで連れていってしまった。
隠れて見ていた二人は、集団が小さくなっていくのを確認したのち――
「神様が『へっへっへっへ』なんか言うかあ!?」
「神様のくせにボキャブラリーが貧弱すぎますよ!!」
ツッコミ放題の大騒ぎ。が、出流がすぐに我に返る。
「さっきの男たちの後を追うんですっ!」
「お、おう、そうだった」
二人は駆け出した。
博希は全速力で走っていたが、出流は博希のペースにぴったりとくっついて離れない。
「お前、そんなに足速かったっけ……?」
「え……? 言われてみればそうですね、なんででしょう……?」
ともに首をひねりながら、博希と出流はある建物の前にたどり着いた。
「ここ、なんだ? 家か?」
黒装束の男たちがとんとんと扉を叩く。
「執政官様。娘を連れてまいりました」
執政官!
ではここは執政官の屋敷とでも言うべきか。
「なあるほど……これはこれは。霊感の大変お強い執政官様が黒幕でしたか……」
瞳をキラリと光らせて、皮肉を強烈に交えた一言をつぶやく出流。
五月は黒装束の男たちに抱えられたまま、中へ――――
「行くぞっ」
素早く、博希が男たちのあとを追う。出流もそれに続いた。
離れたところから様子をうかがう。五月はまだ担がれたままのようだ。ギィーと扉の開く音がする。博希と出流は扉に隠れるようにして後をつけた。
カツーン……カツーン……
二人の耳に、足音らしきものが響いて聞こえた。だが、家の中にしては足音が響きすぎる。
「隠し部屋っぽいな」
「してみるとあの先に娘さんたちが……?」
見えない奥から、「ふふふふふ……」という怪しい含み笑いが響いた。ついで、
「さあ、ここでおとなしくしておいで。騒ぎさえしなければ痛いことはしないから……」
ねとつくような声が響き渡る。二人の背中に、一瞬でぞわぞわぞわと怖気が走った。
「気っっ色悪――――――ッ!!!!!!」
「わーっ、博希サン! しいいいっ!!」
思わず叫んでしまった博希と出流の声が、屋敷内にダダ漏れた。
「いまの声は誰だっ!」
二人して互いに口をふさいでみたがもう遅い。仕方がない、とばかりに、二人は通信機で五月に声をかけた。
「五月サン、聞こえますかっ」
「無事かっ、五月っ」
『さっき目隠し外されたよ。なんか、オリみたいなとこにいる』
「オリ……」
『娘さんもたくさん! ……あの……目の前に怖いおじさんたちが……』
中に入っていくか? と博希が迷う間は、あまり与えられなかった。扉のずっと奥から、執政官と黒装束の男たちが飛び出してきたからだった。
「貴様ら、なに奴っ」
「なに奴と聞かれて名乗る名は持ち合わせちゃいねーや!」
博希は身をひるがえした。
「出流、ここで戦うにゃ狭すぎて分が悪い。せめてもう少し広いところでないと……!」
「ひとまず退散っ、ですねっ! 五月サン、ちょっと我慢しててくださいね!」
『おっけー』
出流も博希の後を追って走り出す。計画は完全に崩壊したが、あちらから向かってきてくれるならそれは幸いというほかない。すこし行動が早まっただけだ、と出流は考えた。
執政官が呼んだのであろう、黒装束の男たちよりももっとガラの悪そうな男たちが屋敷のあちこちから飛び出してくる。囲まれた、と二人が感じるのに、時間はかからなかった。
「ふっふっふ……もう逃げられん。もはや袋のネズミ! 命はもらうぞ」
「追い詰められた悪役ってどこの世界も同じことしか言わねえのなあ」
「少しはバリエーションを持って欲しいものですねえ」
どこか呑気な二人の様子に、執政官のイライラボルテージが上がる。
「ええいっ、こやつらを生きて返すなっ! かかれえっ!!」
「やるしかねぇかっ」
「ですね!」
二人は素早く手に巻いていた布をはぎ、エンブレムをあらわにした。
「そ、そのエンブレムはっ……!」
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