Chapter:4 「日本とか地球でいいじゃねえかよ」
博希は重いまぶたに光を感じた。
「……う」
「気がついたようだな」
「……え……?」
優しい男性の声がした。そこでやっと、博希は目を開けることができたが、まだ、自分が一体どこにいるのか、判然としなかった。
その部屋はとても暖かだった。学校の保健室でもないし、自分の家でもない。五月や出流の家でもなさそうだった。とすると……?
「ここは、どこだ」
起き上がる事ができる。痛いところは特になかった。隣には、五月が寝かされていた。
「五月。五月」
「……んーんん……」
五月は少しむずかって、目を覚ます。
「ヒロくん……ここ、どこ……」
「さあ……。人がいるみたいだから、そいつに聞こう」
博希はさっき、自分に声をかけた人物を捜した。台所とおぼしき所に立っていた男性の背に向かって、博希は言った。
「ここはどこだ?」
男性は静かに博希たちのほうへ歩み寄って来た。腰まである長く白い髪。そして、ゲームやテレビでしか見たことのないような服。ああそうだ、神官とか賢者とかが着ているような服だ……博希はぼんやりとそんなことを考えた。その白髪に似合わない、若々しい顔。自分たちより少し年上……だろうか。
「ここは私の家だ」
「そりゃあそうだろうよ! ここは円角のどこかって聞いてんだ」
「マルスミ……?」
「知らねえのかよ。K県円角市」
「ケーケン?」
K県円角市とは博希たちの住む街である。
「じゃあここはどこなの? 日本じゃないの?」
「ニホン……? ここはコスポルーダだが……ニホンとは聞き慣れぬ都市だな」
「なんだと……?」
五月が、博希の服の裾を引っ張る。
「ね、ね、ヒロくん。『コスポルーダ』って、ぼくが今日、授業中に見た夢の中の人が言ってた」
それを聞いて博希もハッとした。
「そうか、ニホン……君たちはアイルッシュから来たのではないかな」
白髪の男性が言うのを聞いて、博希も五月も、首をかしげる。
「おい五月、アイルッシュなんて国、聞いたことあるか?」
「ぼく、地理の授業は寝てたから……。イーくんならわかるかもしれない」
「! そうだ、出流は……?」
「知らないよう」
博希は白髪の男性に聞いた。
「俺たちの前に、もう一人、来なかったか。眼鏡をかけた奴なんだけど」
「髪の毛がサラサラしてるの。頭よさそうな顔してるの」
博希と五月の説明で、話の腰が折れたが、白髪の男性はふむ、とうなずいて言った。
「昨日、家の前に倒れていた少年を保護したが、その者かな」
その時、ガタン……と音がして、よろよろと、出流が現れた。頭に手をやって、少し苦しそうに、博希たちを見た。
「博希サン……五月サン……?」
「出流! 大丈夫か?」
「ええまあ……。ところであなたは……」
「こいつ、変なんだ。俺たちがアイルッシュとかいう所から来ただの、ここがコスポルーダってトコだの言うんだぜ」
「変とは心外な言われようだな。私は事実を話しているだけだが」
「イーくん、アイルッシュって国、知ってる?」
出流はまだ回りきらない頭の中で、自分の辞典をめくっていた。
「僕の頭の中には入っていませんね。初めて聞く国名ですよ」
そこまで聞いた白髪の男性は、だろうな、という顔をして、言った。
「多分君たちが自分の世界を呼ぶときは、別の言葉なのだろうが」
「いや日本とか地球でいいじゃねえかよ、なんでアイルッシュなんて名前なんだよ」
「ここが、君たちの世界ではないからだ。ここはコスポルーダという世界。君たちの目から見れば、異世界ということになるのかもしれないな」
「異世界だぁ!?」
「そう。この世界にやってきた君たちは、異世界人なのだよ」
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