第3話 灰かぶり姫②

 白一色の診察室。

 空調は完全に制御され室温23.5度、湿度55パーセントを一定に保っている。


 診断用ベットや医療器具などはない。

 あるのは数種類の薬剤が棚の中にあるだけで、あとは椅子とデスクとモニターが三台。

 診察室というより、オフィスに近い。


 白壁に投影されたモニター映像には、今日のスケジュールがまとめられ、事細かに映し出される。


 九時から、陸軍検診 2名

 十時から、陸軍カウンセリング 1名

 十時半から、外来予約 3名 、内2名は薬のみ


 午後から回診

 オンコロジー委員会への出席

 執務規定委員会への出席


 時間外で児童相談所よりコンサルト1名


「時間外ですけど、、、。如月先生、どうします?午後に回しますか」


 如月は「うーん」と唸る。確かに何でもない患者なら、彼女の言うように午後でも構わないだろう。食前で互いに空腹で苛立せながらの問診を避ける事ができる。


 ただ、今回は児童相談所からのコンサルト。尚且つ朝一。親から逃げてきた可能性がある。


「詳細をお願いします」


 早乙女は如月の言葉を聞くと、素早くキーを打ち、詳細をモニターに映しだす。


 青山 南(あおやま みなみ) 七歳 女性

 住所 メディエト北区 C35−A1C

 血液型 B型、、、


 その他にタブを開けば、身長や体重、親の情報から友人関係、成績、性格、特徴。あらゆる情報が網羅されている。


 住所は北区。建設予定地が大型ショッピングモールに変わり、児童相談所の建設の話は進展せずにいる。児相が出来ていれば、此処に来る事もなかっただろう。


 親の目を盗み電車を乗り継いでやって来た。こんな小さな子が、どんな思い出を抱えていたのか。考えるだけで憂鬱になる。

 大人とは何のためにいるのか分からなくなる。


「昼に入れましょう。早乙女さんは休憩をとってもらって構いませんので」


 如月の申し出に彼女は首を振る。

「私は大丈夫です。午後の私の勤務は病棟だけの予定のはずです。午後の回診のスタートを少々遅らせれば、互いに規定以内の休息をとれるかと思います」


 有能な秘書に導かれ、午前の診察は予定時間より早く終わった。昼前には飛び入りの少女の診察に当たる事ができた。

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