第3話
死体はおろか、船の残骸すら一つも見つからないのできちんとした葬式もできないままに、俺は海に出た。
しばらくは何事もなかった。
しかし父が行方不明になって一ヶ月ほど経ったある日、母のもとに連絡があった。
工藤さんの奥さんからだ。
「うちの人、知りませんか?」
もうすぐ夜になるというのに漁から帰ってこないのだとか。
母は知らないと答えた。
父と同じだと俺は思った。
母も同様なのだろう。
その顔は不安に満ちている。
そしてその日、工藤さんは帰ってこなかった。
翌日、大規模な捜索が行なわれたが、工藤さんは朝には別の場所で見つかっていた。
漁港から数キロ離れた海岸で倒れていたところを、散歩していた近所の人が見つけたのだ。
すぐに隣町の大病院に運ばれたが、工藤さんは病院に着く前に亡くなったそうだ。
発見者はそのときの様子を警察も含めて幾人にも尋ねられたが、全員に同じことを言った。
浜に人が倒れていたので近づいて声をかけると、その人は「怪物が……」と一言言って目を閉じたそうだ。
――怪物?
その怪物と言う言葉は、猟師の間でたいそう話題になった。
こんな小さな漁港で、一ヶ月の間に二人が漁に出て生きて帰らなかった。
その前の遭難事故と言うと数十年も前のことだ。
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