第149話 対策会議2

「実さんはワイト知りませんか?」

「聞いたことはあるような気がするんだけど、それが何かと言われると」


 やっぱり知らないな。


「カオルは知ってるのか?」

「モンスターを調べたことがあるので、少しだけ知ってます。私が覚えている内容だと、死体に悪霊が乗り移り、ゾンビを増やそうとします」


 ゾンビか。

 直接戦ったことないけど、触るの嫌だな。


「さらに付け加えるとすれば、生前に強力だった者程、取り憑かれた後の力も倍増する。マイナール王はなかなか強かったからな」

「ピンと来ないんだけど、生前と同じくらい強いの?」

「生前を遥かに超えるほど強くなっているという話だ。本当に厄介な奴に目をつけられたもんだ」


 ドラちゃんでも厄介な相手なら、俺たち何も出来ないぞ?

 そう思ってたら、苦笑いするドラちゃんが続きを話す。


「みんなの言いたいことはわかる。ワイトの相手は私以外出来ないだろうから、任せてくれ。その代わり他の者共は頼みたい」


 俺以外は物分かりが良く、全員了承している。

 返事をしない俺が目立ってしまい、視線が集まる。


「ミノちゃんも頼むよー」

「いやぁ。頼むって言われても何すれば良いのやら」


 その言葉を待ってましたと言いた気に、作戦を話し始める。


「それなんだが、まずは足止めして欲しい」


 1人で足止めなど難しいと考えていたら、続きを説明してくれた。

 マイナールから来る者達は、北方の森林地帯を通ってくる。その途中で、魔物もゾンビにしつつ増加させるつもりだと予測した。それをチマチマ止めるのは難しいので、俺に雨を降らせて欲しいと頼んできた。


「雨降らせても良いけど、リスク大きいよ」


 そこかしこから「え?」「降らせられるの?」というような声が上がる。

 これでも一応仙人の端くれなんだぞ。


「自然を操るのだから仕方ないだろう。戦闘になったら、各所の救助を頼みたい」


 危ない奴らの治療や逃走を手助けするのか。

 そういうのは得意だ。


「それなら引き受けよう」

「ありがとう。雨は明日にでも準備を始めてくれ」

「了解」


 俺の役割は決まったけど、他の人たちはこれからだ。

 ここからは宰相や、軍の司令まで参加し、戦略を決めていく。




 大事な会議ということで、長く続いている。

 それも、そろそろひと段落というところ。


「では、我々が死人どもの相手ということで良いですな?」

「あいわかった」


 宰相と王弟様の間でも話は決着したようだ。ずっと横で聞いていたが、話に入る余裕は無かった。軍の配置や規模、そこにどう外部の者達を組み込むかという内容だったが、なかなか上手くいかない。

 どのくらいの戦力で、どういった特徴があるのかわかりづらいということと、命令系統の難しさがある。特に王弟様を指示する人物に悩む。司令のそばに居れば良いが、本人は前線での戦闘を望んでいる。実際に強く、戦力としてかなり期待出来る程だが、扱いづらいという一点が問題だ。なので、王弟様を独立の友軍として扱うことになった。城の外にいる少数の兵士達と、召喚された数人、さらに傭兵たちが何十人か組み込まれることになった。


 さらに内容を詰める為、日を改めて軍略会議が行われる。俺たちは参加せず、王弟様やナイトに任せることにした。


 城からの帰り道は足取りが重い。様々な情報を詰め込まれ、すでにパンクしている頭では、何も考えることが出来なかった。


「大変なことになっちゃったね。みんな頑張って」

「実さんが一番大変ですよ?」

「……わかってるよ。雨は疲れるんだよな」


 トボトボと家に向かって4人は歩く。

 そう4人だ。

 海野さんと明石さんも、城から我が家へ移動することになった。


「それで、明石さんと言ったっけ?」

「はい」

「それで、どうするの? 戦うの?」

「私は……」


 そこから言い淀んでしまった。

 これは俺が悪かった。特に何も考えておらず、話のネタが無いから聞いてみただけなんだ。正直どっちでも良いと思っている。


「なんかゴメンね」

「まぁまぁ。これからどうするか、もう一度考えてみましょう」

「海野さん。……先生っぽいね?」

「これでも先生ですよ!」


 あんなに弱々しかった海野さんが逞しくなって、感慨深いね。

 実際のところ、明石さんがどれくらい動けるのかわからないと、王弟様たちも使いづらいと思う。


「王弟様は明石さんの実力はどれくらい知ってるの?」

「それは、かなり理解されていると思います。ここに来るまでに回復を何度も行いました。城に居た時も兵士や従者たちに掛けていました」

「ほうほう。それならかなり仲が良さそうですね。むしろ俺らの方が知られて無いか」


 近いうちに、多少話をしておいた方が良いかもしれないな。


「雨を降らせたら話に行きますか」

「それまで私たちは何をすれば良いでしょうか?」

「カオルはいつもの修行をするとして、2人はどうしましょうか? 一緒に修行する?」

「ぜひ! 明石さんも! ね?」


 やる気まんまんな海野さんと違い、明石さんは迷ってるみたい。カオルの様子を伺っている。


「カオルはどうだ?」

「私は……大丈夫。でも、面倒まで見切れないかも」

「そこはメサにでも頼むよ」


「メサというのは?」と海野さんが気にしているので教えてあげた。

 以前話していた浮きくらげが見れるということで、少しばかりテンションの上がった大人少女は、キャイキャイと跳ねながら家に着くのを楽しみにしている。


「そんな可愛い奴では無いと思うんだけど」





 海野さんと対峙しているのは7体のくらげ。


「わわ! 1匹じゃなかったんですか!?」


 威風堂々と漂うくらげたち。


「その一番前にいる奴。鉢巻してるのがメサだよ」

「この子がメサさんですか。よろしくお願いします」


 その様子が気に入ったのか、長い触腕で海野さんの手を掴み、ゆっくりと上下させる。


「この子頭いいですね。スピカ国でも色々な従魔を見ましたが、握手までする子は初めてです」

「こういうこと、どこで覚えてくるのか謎なんだよな。聞いても教えてくれないしさ」

 ブルブル!


「ほらね?」

「えっと、私には何と言ったかわかりませんので」


 俺の知らないところで、人間とやりとりしてるんだろう。獣王国に住んでた時、モール族から金を貰ってたのを見たことがある。それで思ったのは、魔物をあなどるべからずだ。


「メサにも紹介しておこう。こちらが聖女の明石さんだ」

 ぷるぷる。

「ど、どうも。明石鈴奈あかしすずなです」


 メサと握手すると、明石さんの魔力が展開される。


「え!? なんで勝手に?」

「ん? この感覚は前にもあったような」


 浮きくらげたちは、咄嗟に魔力を纏うも変化無し。不思議そうに境目を突いている。


「これって、どういう時に出るの?」

「聖域展開と言って、自分の意思以外で出す時は、危険が迫ってる時でしょうか」


 危険が迫ってたの?


「メサが危険だったのか?」

 ブルブル!


 違うと抗議しているが、そう判断されたと言うことだろうか?

 魔物だと勝手に反応するとか?

 それも検証しないと使いづらいな。

 自分の意思で使えないと、従魔を扱うカオルと相性悪そうだ。

 明石さんにそのことを伝える。


「確かに、勝手に出てくるのは困りますよね」

「それも要検証だね。海野さんと調べておいてよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る