第118話 救出作戦1
俺達は、ナイトの先導で巡回経路を歩いていく。
直接向かうと、他の兵士達の動きがわからないので、こちらから頼んでいた。
「夜間任務の時は、巡回経路がある程度決められている。ただし、階級があがるごとに自由裁量が増えて、横道を歩くことも増えてくるんだ」
ナイトがメイド君に説明しながら進んでいくと、前から別の兵士が歩いてきた。
「副長! 巡回お疲れ様です! 珍しいですね。……そちらの従者は?」
「ご苦労様。初任の子に、巡回を教えてるんだ。今日は私も回るから気にしないでくれ」
「
「うん。夜だから小さな声で良いよ」
「はっ!」
兵士は、デカイ声で返事すると、綺麗な後進で去っていった。
「なんだか良い人そうだけど、残念な人ですね」
「あれでかなり強いんだよ。気が利くなら俺の補佐に欲しいんだけど」
配慮したつもりだけど、方向はあさってを向いていたな。友人にはいても良いけど、仲間にいると疲れそうなやつだ。
その兵士で終わりかと思ったら、結構出会う。先程の奴よりまともだけど、予想通り警備は厳重だ。少し前に異臭騒ぎになってから、夜間警備を強化。犯人を探しても見つからず、心配した王女様が命令した。という話を聞いた。
心配性な
メイドさんとも何度かすれ違ったが、その度に首を傾げている。気のせいかとスルーしていたが、もうすぐ目的地というところで、メイドの班長という者が現れた。
「話に聞いた通りですわね。副長殿、そちらの従者は新人ですわね?」
「そうだが、どうかしたか?」
「新人だから多めに見ても良いですが、足元の」
言われて足元を見てみるが、何が悪いかわからない。
「何が悪いんだ?」
「綺麗な肌だと思いますよ?ですが、従者として肌を晒すのは問題があります」
「忘れてた。君には言ってなかったが、王女様の命令でタイツを履く決まりになったんだ」
「と言うわけで、近くの部屋で履いてくださいまし」
そう言ってメイド班長があおい君を連れて行ってしまった。バレないか心配だが、こうなってしまったからには、あおい君の演技力にかけるしかない。
「では、私はしばらくここで待とう(お前は先に行って準備しておいてくれ)」
ナイトは、班長から見えないように口元を隠し、小声で俺に話しかける。
こっちは声を出せないので、地面に軽く埃をたてて合図する。ナイトの頷きを確認し、目的地へ歩き出す。
怪我を治した時に、部屋の位置を確認していて良かった。寝入っている下位組を起こさないように忍びこみ、眠り薬を嗅がせる。
仕事人も真っ青の効き目。これからはイア様と呼び直した方が良いかもしれないな。
力の抜けた男子を扉前に転がし、次の部屋へ。
先ほどと同じように薬を嗅がせて転がすと、ちょうど通路の手前から歩く音が聞こえてきた。
「普段はここに来ないが、新人の案内として来ている。緊急時の為に一応覚えておくように」
「はい。わかりました」
この会話は合図だ。扉を開けて様子を見ると、2人が通路のど真ん中で辺りを見ている。
もう少し演技出来ないのか……。大根役者どもめ。
「こっちの部屋だよ」
2人が隙間から中を覗くと、眉間にシワが寄る。
「この方が確実なんだよ。今、精霊魔法で消すから待ってね」
2人の返事は待たずに精霊を踊らせていく。
重みのある重量物を、俺とナイトで
出発時に、ナイトが倉庫から荷物を引き出し、空いてる反対側にも担いていた。
何か聞いても「良い物だ」としか話さない。
途中で他の兵士に荷物のことを聞かれたが、片方が詰所への差し入れだと言うと、喜んでいた。
なるほど、この為か!
1度目の運搬は問題なく到着。
壁裏で待機する協力者に、生徒2人を投げ渡すと草むらに消えていく。
「良い仕事するだろ?」
「ナイトも含めてね。報酬出した
自慢げなナイトだが、全く警戒は解いていない。さすがはプロですな。
そして、2度目の巡回は、別の経路で行く。
今度はあおい君も止められること無く辿り着き、同じように2人を担ぐ。
「今回は君がこれを持ってくれ」
あおい君は、ナイトから袋の荷物を渡されると、両手で抱える。
持った様子ではそれなりの重量があるのか、腰を落としている。
「これは?」
「先ほど私がやったのと同じだよ。これをやっておくと動きやすい。さぁ、メイドの控え部屋に行こうか」
そう言われても俺達はその部屋を知らない。あおい君が目を細めると、ナイトは「今の経路の途中だから」とだけ言って、背中を押していた。
ちょうど中間あたりにある大きめ扉に辿り着くと、ナイトがノックする。
扉の奥には3人のメイド達がいて、その内1人はさっきの班長だった。
「どうされましたか? あら。先程の新人ね」
「ほれ、お土産持ってきたんだろ。渡してやれ」
「は、はい。班長、先ほどはありがとうございました」
あおい君が中のテーブルに荷物を置くと、袋から果物とパンチェッタが顔を出す。
それを見たメイド達が色めき立つ。
「いったいこれは?」
「今日は下見のつもりだったんだが、私の不注意で迷惑かけたからな。さっきの礼と口止めってことで、よろしく」
ナイトの言葉で、後ろのメイド達は顔を赤くする。
濃い系の顔だが整ってるからな。モテても当然だろう。一瞬、髭生えた白人俳優を思い出した。
「あの程度で貰いすぎですが……いただきましょうか」
「「やった!」」
メイド達からお礼を言われ、運搬に戻る。
後ろから、メイド達の黄色い声が飛び交っているが、気にしないでおこう。
「ナイト。わかってやってるだろ?」
「何のことかな?」
「色男ですね。僕には真似出来ません」
あおい君の変装なら出来ると思うんだが、セリフが出てこないか。君の努力次第だが、稀代のジゴロから絶世の美女までなりたい放題だぞ?
そんなことは言わないけどね。
2度目の運び出しも警備に見つからず行えた。
「気配とか見てるけどさ、ちょっとザル過ぎないか?」
「俺が
それは聞いていた。2回までは新人を案内しても良いが、3回やったという事例は無い。というか3度も案内するようなメイドは雇わない。
残念だけど、あおい君はここで離脱だ。残ってると返って怪しい。
それでも、あおい君がいた功績は大きい。ナイトだけの巡回だと1回しか通れないし、ゆっくり進めないので、回収する暇は無い。
「まぁ、あとは俺達でやるよ。先に4人を進ませておいてくれ」
「わかりました。気をつけてください」
あおい君は、準備していた送り用の兵士と一緒に、町へ帰っていく。
帰る家もダミーで、レンジャーの仲間が住んでいる家だ。アリバイも完璧に用意している。あとは、あおい君が城での様子を伝えて、脱出するだけ。
ナイトと小声で話しつつ、これからの動きを再確認する。ナイトは今まで通った経路を素早く確認し、詰所に戻ったら報告書の作成。俺は最後の1人である田中君を救出する。
「じゃあ行くぞ」
「おうよ」
競歩レベルの速さで逐一確認していくと、1箇所小さな水溜りを見つける。恐らく運搬時に、誰かがヨダレを垂らした跡だろうが、俺達以外にも見つけていたのが不味かった。ナイトがそいつに呼び止められてしまったので、俺1人で田中君の部屋に向かう。
「ここら辺は前に騒ぎがあったからな、2人いても良いだろう」
全然良く無い。水溜り1つでこんなに警戒するなよ!
なかなか視線から田中君の部屋が外れない。幸い俺の姿が見える奴はいないが、それでも扉が開いたら動くだろう。
時間はジリジリと過ぎていくが、こちらも動けない。
数分たったかと言うタイミングで、ナイトの気配に変化があった。
軽くしゃがんで何かを拾うと、こちらに投げてくる。それが、通路横の草をガサガサ鳴らすと兵士達の気が逸れた!
素早く中へ滑り込み、扉をストッパーが掛からないギリギリで開けておく。
ナイトも危険な賭けだったはず。こちらも失敗できないな。
中に入ると、田中君は寝ている。というか、またかなりのアザを作っていて、起きられないんだろう。
他の子はまだマシだったが、このアザは今治療しないと動かせないな。
「この短期間でどうしてこんなになるかね?」
ぼやきつつも手早く治療し、精霊魔法で隠していく。こちらの準備は整ったので、あとはナイトを待つだけ。
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