第119話 救出作戦2

 あとはナイトを待つだけ。

 だったのだが、一向にナイトが動く気配は無い。その代わりに警備の兵士が増え、他の気配も感じる。


 ちょっと良く無い状況。このままだと悪化するだけか。

 最近作戦考えて良い気になっていたが、こういう時に案が出てこない。

 いや、案は出てきたが、考えなしの案なだけ。


「よし。強行突破で逃げ出そう」


 こういう時になると、思考を放棄して動き出すのは悪い癖だ。


 すると、外の様子が変わった。兵士2人が離れて別の気配が3つ。

 下手くそな警戒でラッキー。

 そう思って出てみると、例の3バカが居た。2人はヌボーっと見ているだけだが、1人が目に魔力をまとっている。

 そいつの目線が俺のところで止まる。


「そこがおかしいぞ。何かいるように見える」


 はっきりとは見えないが、何かいるとはわかるようだ。

 見分けるスキルだろうか?

 良いスキルだが、こちらにとっては良く無いぞ。


「そこね。私の投擲見せてあげるわ」


 アホ女がナイフを投げてきた。方向もスピードも甘いから簡単に避けられる。

 そう思ってたが、避けようとするとその方向に軌道が変わる。

 追尾まではいかないが、命中の補正が掛かるようだ。


「ナイフの動きが変わったわね。やっぱり何かいるわ」

「それなら俺が止めを刺してやるか」


 今度はアホ男2が、持っていた槍で突いてくる。

 訓練で見た時を覚えているが、かなり成長しているな。

 3段突きの真似事までやってくるレベル。担いだままで相手にすると当たりそうだ。

 やはり逃げるが勝ちだな。体を軽くして跳ねながら華麗に離脱。お土産に胡椒爆弾をあげるよ。


「ぐぁ。ごっほごっほ」

「の、のどが」

「目に入った! 見えねぇ」


 当たりどころが良かったな。

 周囲を警戒しつつも、素早く城壁に寄り、外の気配を探る。


「もう少し門側で待機しているな。そこで渡すか」


 気配の位置に向かうと、勇者チームがいやがった!

 意外と鼻が効くじゃないか。だけど、ここ以外は受け渡し無理そうだし…。

 勢いでやるしかないか。

 自身の最速で、駆け抜け田中君を壁の外に放り投げる。


「なんだ!?」

「そこに誰かいるわ!」

「おらぁ!」


 その動きは予想してた。

 とりあえず攻撃するの止めて欲しい。

 どいつもこいつも頭に魔力乗せやがって。

 心の中で愚痴を吐いていると、奥の少女が使う魔法に出遅れてしまった。


「聖域展開!」


 弱い光がドーム状に広がると俺達を包み込む。


「覆面野郎! 現れたな!」


 やっべ。

 姿を引き出されたか。


「覆面なんてつけやがって! 誰だお前は!」


 昔の特撮ドラマで聞いたセリフ。

 まさか、お前。見た目に似合わず特撮マニアか?

 よかろう。

 話にのってやろうじゃないか。


「ふっふっふ。よくぞ見破った。さすがは勇者だ!」

「そっちじゃない! こっちだ!」


 見えてはいる! だが、直視したく無いだけだ!


「おい! こっち見ろ!」

「嫌だ! お前! その格好恥ずかしく無いのか!?」


 目の端っこに映る勇者は、ピッカピカの鎧に、ゴテゴテに装飾された剣と盾を持っている。


「これのどこがおかしい?」

「そんなにキラキラ光らせて、目が痛くなるだろうが! おいたん大人として恥ずかしいぞ!」

「覆面までつけた奴に言われたく無い!」


 それはもっともな話だ。

 仕方ないから見てやろう。


「ぷっ」

「今笑ったろ?」

「いや」

「笑ってたぞ!? なぁ?」


 仲間に同意を求めるが、同じチームの奴もその周囲も笑いをこらえている。


「そ、そんなことより捕まえた方が…っぷ」

「そうだぞ! そいつの言うことなんて効く必要ない。ぶふ!」


 思いっきり吹き出してるじゃねーか!

 説得力無いぞ。

 後ろでワーワー言っているところに新しい気配がやってきた。


「勇者様。その者が怪しい人ですか?」

「王女様! そうです。ちょうど捕まえるところです」


 勇者君がこちらに向き直ると、剣を構えて魔力を練り出した。

 こちらも応戦しようと腰を探ったが、持っていたのは枝が一本。

 手に持って何度も見てみるが、どこからどう見ても枝。


「お前巫山戯ふざけているのか!?」

巫山戯ふざけて出すわけあるか!」


 仕方がないから、こいつでやったるか。

 いつも以上に気で全身を包み、強化完了!


「いつでも掛かってくるが良い」

「今更大物ぶるんじゃない!」


 勇者が剣を振り下ろすと、閃光が地面を抉りながら近づいてくる。


「うぉぉぉ!」

「こっちがうぉぉだよ!」


 めっちゃこぇぇ。

 早くは無いけど威力半端ないな。

 だが、こいつには冷静に対応しているように見せないと。

 これ以上自信をつけさせたら面倒だ。


「ま、まぁやるじゃないか」

「当たると思ったのに!」


 遅いからさすがに当たらない。だけど連携をされたら負けそう。

 ナイト助けてくれないかな?

 1人で切り抜けるのは厳しいんだけど、目まぐるしく動く視界の中で、ギリギリ見える程度に首を振るナイトが見えた。

 やるしかないか。


「やっとやる気になったか」

「ふぅぅ」


 逃げるにしても、もう少し気を散らせないと難しいので、勇者君には疲れてもらおう。気合いを入れ直した勇者君が、再度光を放つ。


「うぉぉぉ!」


 地面を滑るように移動して、勇者君に近付き、枝で剣の腹を叩く。


「弾かれた!?」


 弾いた剣の同じところを何度も叩くと、次第にヒビが入っていく。


「えぇ!?」

「うっそ?」


 こっちも驚いたよ。

 なんで枝で剣が折れるの?

 その剣ボロ過ぎでしょ。


「うそ? 聖剣にヒビが入るなんて、仲間の方々も助けを!」


 王女の声で仲間も混ざってきて良いタイミング! 持っていた煙幕と唐辛子爆弾をあたりに撒き散らし、被害を拡大させる。いたるところから、助けの声と痛みの訴えが聞こえても俺の知ったことではない。


「ほっほっほ。未熟者共め」


 奥にいた3人組が何か気づいたようだ。


「この痛みと臭い」

「この前は痛みなかったけど、似ている気がする」

「こいつが異臭騒ぎの犯人か!」


 異臭とは失敬なことを言う。


「そんなに好きならいくらでも嗅がせてあげるよ!」


 厳重に密閉していた臭気爆弾。

 蓋を開けたら即退散の危険兵器だ。


「せいぜい香りを楽しんでくれい!」


 城壁に投げつけると、一足飛びで壁を超える。

 去り際に、ナイトが鼻を摘みながら、俺が渡した小瓶を振ってる様子が見えた。それなりに良い材料使ってるから、捨てられたら泣くぞ。


 外に出たら即座に精霊魔法で消えて、振り返らずに森へ一直線。




 そこから半日はひたすら走り続け、気づくと先行組に追いついた。


「海野さん、まだここにいたの?」

「実さん? そっちが来るの早かったんですよ」


 良く見ると、結構な人数で護衛している。

 カオルとトモエが更に前方を進んでいるようで、両方に2人ずつ要救助者がいる。

 容態は落ち着いているが、時々賦活してあげたほうが良いだろう。

 海野さんにそれを伝え、前方にも伝えるよう頼んだ。

 それから、1人立ち止まってアオイ君を待つ。


 今頃、城は大変なことになっているだろうが、あれを使わなかったら俺が捕まってた。

 生徒達だけなら良かったけれど、兵士達が動き出したら軽くやられてしまう。

 謎メイドも居たけど、ナイトの横にいた巨体の男は特に怖かった。どこの国も化け物を飼っているから、動きづらくて嫌になる。


「あの勇者君。もっと強くなるんだろうな」


 力の制御も上手くなってるし、足の運びや膝の使い方まで、短期間で急成長している。チームの他の子も出だしの動きが良かったので、教えてる奴が上手なんだろうな。


「やっぱり才能ある奴とは、戦わないのが良いな。うん」

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