第116話 王弟と依頼完了

 ギルドへ行くと、普段と違って閑散としている。

 いつものハ……おやっさんのところを見ると、むくれた顔で頬杖をついていた。

 誰も得しない状況で近寄りたくない。


「どうしよう。帰りたくなってきた」

「いやいや。せっかく来たんだからダメですよ」


 海野さんになだめられながらカウンターへ向かう。


「ようやく帰ってきたか」

「予定通りですよ。それより査定お願いします」

「はいはい」


 仏頂面ぶっちょうづらは変わらず、俺たちから受け取った採取物を、ぶつくさつぶやきながらと査定している。


「久しぶりに戻ったと思えば、種類多過ぎだろ。くそっ、他に人いねえし面倒くせえな」


 聞こえないフリしながら、壁際の依頼表を見ておく。

 討伐は範囲外だからパス。

 あとは護衛依頼か。これもパスだな。

 ん?これって勇者とか書いてあるけど…。


「その依頼が原因でこんな人いねぇんだよ!」


 おやっさんが怒りながら話しかけてくる。

 良く見ると頭部に血管が浮き出して、顔まで赤いぞ。


「ステイステーイ。落ち着けハゲ」

「ハゲじゃない! 剃ってるんだ! 殺すぞ!」

「いまのは実さんが悪いです」


 他の子もうんうん頷いている。

 まぁ、失言だったな。


「ごめんごめん。ところでこの依頼は何?」

「勇者達が魔物倒すから案内しろってさ」

「兵士達がいるじゃん。教官もいたよ?」

「だからイラついてんだよ! 勇者が冒険者に会いたいとか言ってたらしいが……。全員に付ける必要ねーだろがぁ!」


 そんなにテーブル叩いたら壊れるよ。

 あっ、ヒビ入ってる……。


「それでいないわけね。ふーん」

「ふーんじゃねぇ。ほら、査定終わったぞ」


 怒りながらも手は動いてたけど、査定してたのか!?

 器用なことをするなぁ。


「そっちの4人は、まぁまぁだな。状態はかなり良かった。あとは種類を覚えれば十分だろ」


 その言葉にハイタッチしながら喜んでいる。


「で、お前のは……どうするか」

「え? 変なの入ってた?」

「確かに変なのだが、金額がなぁ。なんで寄生植物を2種類も持ってくるかねぇ」


 寄生って言うと、魔蔓まつると冬虫夏草か。


「たまたま見つけたからだよ。いらないなら自分で使うけどさ」

「いや、買い取る! 滅多に無いからな。これを逃したら何年後になるか」


 そのままうつむいて数秒考え込むと指を2本立てる。


「これでどうだ?」

「良いですよ」

「よし! ちょっと待ってろ!」


 値段で迷ってたから、金貨くらいにはなるかな?

 それだったらかなり楽になる。

 ウキウキしながら待ってると、おやっさんがパンパンに膨らんだ巾着を持ってきた。

 銀貨で持って来るとか気が効くじゃ無いか。

 そのまま受け取る。


「中身見ないのか?」

「必要ないよ。へへ。まいどあり!」

「……小物臭がするから、その言い方やめろ」


 小物で良いんだよ。

 大物になれないんだから、小物界の大物を目指すんだ。

 他のメンバーもそれぞれ受け取ると、笑みをこぼしていた。


「これからどうするんだ?暇なら仕事していくか?」

「俺は城の依頼があるから届けてくる。それに、そろそろ国を出るから依頼は受けない」

「マジかよぉ! 採取出来る奴あんまりいないんだよなぁ。新しい奴探すか……」


 しおらしい顔してもダメだぞ。

 そういうのに同情すると後が面倒になるんだからな。

 4人にも受けないように、念押ししておく。


 ギルドから出た後、他のメンバーと別れて1人で城へ向かった。


「あんまり良い思い出無いから、城に向かう道すら嫌になる」


 そんなことを呟きながら、鈍る足を前に出していく。

 しばらくすると見えてくるのは、代わり映えのない門番。


「またあんたらなの? それともずっと門番?」

「またとか言うが、門番はそれなりに重要箇所だぞ」

「おうとも。俺達は誇りを持ってやっている」


 確かに、城の一番最初だから重要か。


「それよりも依頼は終わったんだな?」

「ちゃんと依頼の品を持ってきましたよ」

「よし。上から話は来ている。そのまま向かって良いぞ」

「俺が伝令を出しておくか」


 門番の片方が近くの詰所に行くと、従者が駆け出していった。


「そんなに急がなくても」

「そう言ってやるな。王弟様の依頼なら張り切るもんさ」


 そんなに怖い人なのか?

 何回か依頼受けてるけど失敗したかな。

 まぁ、もうこの国出るから良いけどさ。


 勇者達に出会わないように、気配を消しつつ前回と同じ部屋へ向かう。

 訓練場には生徒の半数ほど居たが、下位だった5人がいない。

 こっちのメンバーと比べて、どのくらい違うか見たかったが仕方ない。確か話したことある男の子が下位だったよな?帰りに寄ってみよう。


 目的の部屋に着くと、中に3人の反応がある。料理長と謎メイドはわかるけど、もう1人は知らない。

 わからない人がいるならノックと挨拶した方が良いかな?


「料理長からの依頼品を持ってきました」

「入って来なさい」

「失礼します」


 言葉の雰囲気からして、挨拶して正解かな。

 中に入るとパッと見、小綺麗な服装だと思ったが、よく見ると作りが凝っていて素材も良い。


「突然で驚いたかもしれないが、会いたくなってね。私が君に依頼した者だよ」


 この人が王弟様か。

 穏やかな気をまとっているが、内に秘める強さと溢れ出る聡明さで納得してしまった。

 こういう時の対応が面倒なんだけど、あれだけ従魔に見せていたからな。今こそ拱手見せるべきだろう。


 この作法が面白かったのか、詳細を尋ねてきた。


「見たことない所作だが、自然と不快感が無いな。どのような意味があるのかな?」

「はっ。私が行った『拱手』は、相手に対する敬意を表します。この度のお辞儀は高位の方に向けたものを行いました」

「なるほど、その敬意受け取った」

「ありがとうございます」


 その様子を見ていた料理長が驚いていた。


「もっと雑な奴かと思ったが、意外としっかりしたものだ」

「俺は相手に合わせるぞ。面倒な相手には会わない主義だけどな」

「もういつも通りに戻っちまった。王弟様。こんな奴ですよ」


 その王弟様は、俺達のやりとりが面白いのかクスクス笑っている。


「なかなか面白い奴だな。さて、さっそくだが依頼の品を頼む」


 持ってきたベイリーフの枝をいくつも取り出して見せる。

 1つ1つ手に取り確認すると、ゆっくり頷きこちらを見つめてきた。


「良い仕事だ。使い道も考えて採取してきたのだろう。長さから形まで最適だ」

「ありがとうございます。そちらもですが、料理長からの希望の品もあります」


 横から歓声が上がり、料理長が早く出せと急かしてくる。


「やっぱり見つけてきたか! おぉ! ん? 匂いが少し濃いな」

「全く同じの種類は無かったが、同じ系譜のシナモンを見つけてきた。これも返すぞ」

「渡した地図じゃねーか。ん? この丸はシナモンか?」

「そこで取った奴だよ。俺はそろそろこの国を出るからな」


 謎メイドの気配が一瞬殺気立ったが、それを王弟様が止めた。


「止めなさいナターシャ。残念だが仕方ないだろう。シナモンの地図だけでも、十分な収穫だよ」

「そういうことなら引きますが、あまり調子に乗らない方がいい」


 ナターシャちゃん怖ロシヤ!

 これだから強い奴ってのは……。

 さっさと国を出よ。


「ほら、ナターシャのせいで更に寄り付かなくなるじゃ無いか」

「申し訳ありません。お前、たまに遊びに来い!」


 本当にありがとうございました。

 二度と会うことは無いでしょう。


 シナモンの加工方法も伝えると、更に喜んで報酬を弾んでくれた。でかいコインが入ってるから大金貨かもしれない。さっきの報酬と合わせるともう仕事しなくて良いんじゃないかな?

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