第115話 マイナール国 西武森林地帯(帰)

 4人とも、行きに比べるとかなり斥候技術が上達してきた。

 俺が直接教えているというより、海野さんのスキルに寄るところが大きい。海野さんが上達し、コツやポイントを伝えると、すんなり覚えられるようだ。


「トモエちゃんは、もう少し目線だけで確認した方が、相手に伝わりにくいと思います」

「じゃあ、次はそれでやってみましょ」


「あおい君は、変装もしてるのでもう少し大胆で良いかと」

「動きをつけた方が良いのかな」


「カオルちゃんは、トカゲさんと連携ですね。まだ慣れてない感じがします」

「わかりました。キラちゃんお願いね」

 グワァ。


 こんな感じで、ほとんど手がかからない。おかげでブル君の上で楽出来て良いね。


「お前、もうちょっと手伝えよ」

「ノンノン! これも訓練なのだよ!」

「なのだよ! じゃない。人の従魔に乗っかってないで働けって言ってるの!」

「やーだよーん! やっと掴んだ休暇なんだから。精一杯楽してやる!」


 俺の行動に白い目を向けてくるが、知ったことでは無い。これまで大変だった分返してもらうぞー。

 もちろん、空いてる時間に色々教えているよ?

 ピースの鞭打や調合。海野さんには、グルマン語も教え始めている。


「そこはもっと唸るように言うんだ」

「ぐるるがぁん」

「そんな感じ。街に戻った後、俺がいない時はピースに聞いてね」


 またも白い目が見つめてくる。


「あたしも仕事でいない事が多いぞ」

「わかってるよー。というか、そろそろこの国にいる理由も無くなったんだよね…」


 俺の言葉に4人が不安がっている。だけど、俺にはそれがわからない。


「前から気になってたんだけど、なんで国を出たく無いの?」

「なんでって、クラスの子と離れるし…」


 他の子達も同じような事を言っている。

 ただ、最近わかってきたのは、その話をする時だけ頭に小さな魔力が掛かっている。

 だから、その一瞬に合わせて弱い気弾を当てることにした。


「だけど、みんな君達を下に見てるんだよ?」

「それでも…」


 ここだな。

 4人いっぺんは難しいが、まずは2人。


「「いたっ!」」


 海野さんとトモエはこれで良い。


「どうしたの?」

「急におでこが弾かれたような」

「私もです」


 額を押さえながら不思議そうな顔をしている。

 後は、あおい君とカオルだな。


「2人は特に戻る必要無いでしょ。あそこに戻るのはかなり危険だよ?」

「確かにそうなんですけど」

「「イテっ!」」


 あおい君はモヤが消えたから良いかな。

 でも、カオルのモヤは、一瞬消えてもっと大きくなって出てきている。額を押さえてうつむいているけど、口角を上げて何が面白いのか。モヤが引いていくといつもの表情に戻っていく。ちょっと危険かもしれないな。


「私は国外に行こうかな」


 カオルが1人先に答え出した。


「それなら、あたしの国に来るか?」

「いや、その前にドラちゃんのところに行こう。ピースのところはその後に戻っても良いだろ?」

「あたしは問題ないけど、何かあるのか?」


 もう少し様子見したいんだけど、なぜかと言われると答えづらいからな。色んな国を見て見識を広めてほしいとでも言っておく。

 この言葉で外国旅行気分になったのか、他の子もついてくることになった。ピースのスピカ国は進行経路にあるし、戻ってくるのも簡単だ。

 そうと決まれば準備しないといけないな。鉄トカゲの運搬力も頼りになるし、スピカまではピースのブル君もいる。食料集めるだけで良さそうなので、準備が終わり次第出発することにした。


「ところで、ドラちゃんのいる国ってスピカ国の隣でしょ? 名前は何て言うの?」

「ブルンザ国だな」

「ぶっほ。く、くるしい」

「大丈夫か?」


 思いっきり趣味で名前つけただろ。チーズ国でも良いんじゃないかと思えてきた。


「首都の名前はママリガとか?」

「いや、首都はサルマーレだな。ママリガは海の名前だ」

「あいつ偉くなったからってふざけ過ぎだろ…」

「何をさっきからブチブチと言ってるんだ」

「いや、何でもない」


 両方食い物の名前だし、面倒くさくなってテキトーに言ったんだろうな。すぐに想像できる。


「実さん。サルマーレってもしかして…」

「もしかしなくても、海野さんの思ってる通りかと」

「やっぱりそうですか。なんとなくですが、食事は期待出来そうです」


 俺もそれだけは期待している。そして、お酒も作り方を知ってたからあるはずだ。

 期待をふくらませるのはここまでにして、訓練の再開。


 ブル君の上に寝そべっているとわかるんだけど、なんで逃した浮きくらげがついてきているのか? 微妙に離れつつも、カオルからギリギリ見えない位置にいる。そろそろニンニク増やさないと、無くなってしまうな。携帯の植木鉢でも作ろうか…。


 時々質問されるので、それには答えている。


「実さん。町で変装する時はどうしたほうが良いですか?」

「俺も町は好きじゃないからなぁ。基本は住んでる人と同じ格好だと思うけど、仕事に合わせても良いんじゃないか」

「女装もありですか?」

「良いと思うけど、声と動きを練習しないとバレるよ」

「なるほど」


 あおい君のスキルは、体型まで誤魔化せるので、他の部分が重要になってくる。ゴリマッチョになっても実際の筋力は少ないし、女性になっても声は低いままだ。俺もさすがに声の変換はわからんからな。これ以上はプロに聞いてほしい。


 トモエは海野さんに相談しつつ、独自に伸びていて一番良い傾向。先生も教えるのが上達するから、互いに良い影響になっている。


 カオルはピースに強そうな魔物について聞いていた。


「ドラゴンとかの使役は難しそうですね。キマイラとかはいませんか?」

「いやいや、出会ったら死んでるよ。もっと使い勝手の良い奴をすすめたい」


 カオルの質問は、どれも伝説や神話レベルの魔物ばかりで、ピースも困り顔だ。

 ちょっと助け舟を出そう。


「カオルの欲しい魔物は強すぎる。同じくらい強くならないと使役出来ないぞ」

「やっぱりそうですか…。今の私だとどのくらいでしょうか」

「あたしの見たてだと、戦闘系ならパンサー系とかどうだろうか。もしくはイーグル系とかかな」


 どちらも肉食で餌が大変そうだ。そういえば虫型はすすめないのかな? 気になってので聞いてみる。


「ピース。虫はダメなのか?」


 俺の発言が相当気に食わないようで、2人して梅干し顔を見せてくる。


「冗談でもやめてくれ。あいつらは怖すぎる!」

「そうですよ! 虫は苦手です!」

「そ、そうか。ごめん」


 世の中には巨大な蜘蛛もいるんだけど、言わない方が良いか。というか、そういう奴に出会したらどうするんだろう? 気にしてもしょうがないな。出会ったら考えよう。


 残りの道中も4人の訓練に費やし、止まることのない成長で、たくましくなっている。


 短い旅だったけど、それなりに楽しかったな。というか町に入るのが億劫だ。やること早く終わらせて、そっこう町を出よう。


「荷物置いたら、すぐにギルドへ行くよ」

「「「「りょうかい」」」」

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