第114話 スキル訓練2

 一日の終わりに、お互いの成果を教え合っている。3日目になると、カオルやトモエも着実に成長していることがわかる。

 その証拠に、2人の隣には見慣れない奴が付いている。


「私の描いたピーちゃんだよ。かなり上手くなったせいか、動きが良くなってるんだよね。まだまだ精度を上げられそうだから、もっと動ける子になりそう」

「私は新しく鉄トカゲを使役しました。かなり手強くて、みんなに助けてもらってようやく。だけど、力も強くて頼りになる子です!」


 鉄トカゲはどこかで見たことある気がするな。

 そんな風にしげしげと眺めていると、ピースが説明してくれた。鉄トカゲは岩石トカゲの一種で、岩より鉄を好んで食べていた偏食家がそう呼ばれている。同種だけど、パワーが段違いなので、区別するようになったとか。


「ところで浮きくらげは?」


 俺が尋ねると、3人は困った顔をしている。


「鉄トカゲを使役したら、どこかへ行っちゃったんです。捕まえる時一番協力してくれたのに」

「強かったんだけどね。フヨフヨと本当に掴みどころがない奴だわ」


 どこの浮きくらげも似たようなものなのかな?


「俺が使役してたのと似てるなら」

「なら?」

「考えるだけ無駄だね。あいつは、毒集めとニンニクしか興味無かったし。食い物無くてもしばらく生きてられるよ」

「ほえぇ」


 試しに毒草でも撒いてみるか?もしかしたら釣られてやってくるかも。

 近くの枝に強めの毒草を吊っておく。これで明日どうなってるか。




 早朝にカオルと仕掛けを見に行く。

 枝がガサガサ鳴っているので何かしら掛かっているようだ。


「実さん。あれは、ちょっと丸くないですか?というか魚?」

「なんだろうな。フグっぽく見えるけど…」


 俺達が思案していると、後ろから声がかかる。


「ありゃー。スカイパッファーが掛かったか」

「ピースも来たのか」

「それは気になるさ。それよりあいつも強力な毒を飛ばしてくるぞ」

「やっぱり神経毒か?」


 皮膚に当たっても掛かるタイプみたい。


「どうしましょう?」

「そんな時間は無いな。こっち見てるぞ!」


 カオルを抱えて飛び下がると、俺達がいた場所に液体がかかっている。

 せっかくなので、カオルに対処させてみることにした。


「従魔は先に下げておいてね。他にどうすれば良いと思う?」

「えっと、遠距離で戦うか、餌で気をそらすかな」

「じゃあ、パッと見で餌になりそうなのはあるか?」


 見つけられないのか首を振っている。その間にも、空中を泳ぎながら、フグが毒を飛ばして会話を邪魔する。


「それなら遠距離攻撃!」


 おもむろに掴んだ石を投げるが、全く見当違いの方向へ飛んでいく。一瞬気を逸らすが、すぐにこちらへ向き直り、液体を飛ばしてくる。


「戦いは教えてこなかったからね。投擲だけでも覚えさせた方が良かったかな?」

「わわ! 実さん! そんなこと言ってる場合じゃ」


 ピースも俺も、危ない時は動けるようにしているが、遅めのフグは丁度良い相手なんだ。お互いわかっているから、手を出していない。


「あたし達が見てるから、とりあえずやってみなよ。ミノールは薬も強いぞ」


 そろそろ呼び方慣れないかな…。それか難しいならノールでも良いのに。


「避けるだけでいっぱいいっぱい!」

「一旦隠れてみなよ」

「そうでした!」


 カオルが木陰に隠れると、狙いを俺たちに向ける。本能でわかっていたのか弱い奴を狙っていたな。


「30秒あげるから、何か探してみなよ」

「はい!」


 木陰から周りを見渡し、何か無いかと探している。


「直接攻撃してきたぞ。毒が尽きたのか?」

「いや、そいつは毒が半分程になると噛みつきに変えてくる。油断してると、また飛ばしてくるよ」

「やっぱり魔物は頭が良くて面倒だ」


 今の俺は、他人から見たら相当口がひん曲がってるだろう。

 それよりもそろそろ30秒経つ。

 カオルを見ると、毒キノコを見つけている。問題はそれを食べるかどうか。ギリギリ攻撃してないから、ヘイトは低いと思うんだけどなぁ。


「えい!」


 お? 止まったぞ。


「気が散ってる間にゆっくり引くぞ」


 小さめの声と手で合図する。

 俺たちがジリジリと後退するのを見つつ、キノコに集中している。


「ふぅ。何とかひと段落着いたか。ゆっくり離れよう」

「あ!」


 ピースが上空を見ると、空飛ぶイカがフグに突撃していった。

 餌に集中してたフグは、あえなく捕獲され、体にクチバシを突き立てられる。

 これも弱肉強食の世界だと思っていると、更に飛んでくる物体。


「あ、私のくらげ!」


 飛びかかった浮きくらげが、イカに一撃ビンタを入れると痙攣けいれんする。更に、捕まえてたフグも横取りして食ってしまった。

 俺たちは、只々ただただその様子を遠巻きに見ているしか出来ない。最終的に、イカはくらげに捕まえられ、海に引きずられて行った。


「世知辛いですなぁ」

「おい! 浮きくらげってあれが普通なのか!?」

「俺の知ってる奴はこんな感じだ。そうだ、ちょっとは成長したなら使役できるか?」


 カオルは数秒考えると、「やってみる」とだけ言って海辺へ向かう。

 到着した時、浮きくらげがイカを海に投げ入れるタイミングだった。


「よし! やります!」


 明らかに魔力量が増えている。更に魔力の練り込みが多いのか、凝縮されている風にも見える。その凝縮した魔力を手に、くらげに触れると浸透していくように見えた。


「やった! 成功した!」

「おめでとう!」

「やったな。それで何か変わったか?」


 カオルとくらげが動かないので、しばらく様子を見ることにした。そのまま5分程も立ったまま、魔力のやりとりをしている。


「わかりました」

「どうだ?」

「何も変わってません」

「おい!」


 カオルの話だと、魔力の繋がりは持てたが、支配出来ていない。鉄トカゲは問題なかったが、浮きくらげは魔力の使役が嫌いだと言う。今回はなんとなく受け入れてやった程度のこと。今後の従魔も、餌をくれるなら着いてやっても良い。そのくらいしか思っていないようだ。


「まぁ、そうだろうな」

「一度戻ろうや。たぶん、みんなも待ってるよ」


 ピースの一言で拠点に戻ることにした。

 残った人たちで朝食の準備を終わらせてくれたようだ。


「どこ行ってたんですか?」


 気になってただろうと思い、朝の経緯を伝える。


「くらげちゃんね。あの子は、葉っぱあげると高いところの採取を手伝ってくれるのよ」


 トモエの爆弾発言。使役の意味が無いとわかってしまった。


「カオル。こいつを飼うなら、常に毒を持ってる必要があるみたいだ」

「逃そうかな……」

「従魔ギルドには報告しておくか。餌の調教可能と使役困難」


 朝から疲れてしまったが、今日もスキルの訓練だ。

 ところで、俺のスキルはいつになったら使えるようになるんだ?

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