第113話 スキル訓練1

 必要な物は見つけたし、気も使えるようになってきた。

 あとはスキルが使えるように練習だ。


「ということで、スキルの練習をしようと思うが!」

「が?」


 どうやって練習するんだ?


「やり方がわからない!」

「知ってた」


 だよな。

 前からわからないって言ってたし。

 とにかくやってみるしか無いよな。


「おそらく魔力が関係してると思うんだ。賦活みたいに流してみるから、感じてみてくれ」


 まんま受け売りの内容を、さも俺がわかったように伝えて行く。

 横でピースが白い目で見てるが気にしない!

 気の練習と同じように、1人ずつ魔力を流す。


「前に1度試したのですね」

「やっぱり先生早い」


 海野さんは、すぐに感じたのか理解している。

 気も弱めて魔力が通りやすくしている。


「あぁ! わかりました!」


 嘘だろ!?

 俺はわからないんだけど?


「そ、そうか。じゃあ皆んなに言ってあげてくれ」

「お前が知ったかぶりなのは皆んな知ってる。ダサいからやめとけ」


 ピースめ!

 わざわざ言わんでも良いことを。


「とりあえずわかったことを伝えますね」


 海野さんの話では、魔力を巡らせると自動で発動するタイプらしい。その状態になると、記憶に焼き付けられたスキルを感じられ、念じると使える。


「おぉ!」

「わかる!」

「私も!」


 わからん。おじさん置いてけぼり。前に孤児院で魔力を教えてもらった時もこんなことがあったな。いつの時代も取り残される者はいるものだ。

 それよりも、どんな能力なんだ?


「みんなのスキルは何が使えるの?」


 カオルの従魔術は、魔力を使った使役。気力と違って主従関係がはっきりする。試しに使役中の浮きくらげにやってもらったが、力が足りずに使役できなかった。むしろ、返って怒ってしまったらしい。

 ピースのやり方も魔力の方で、基本的に魔力が優位の状態じゃないと使役できないと言っていた。

 ただし、ただ使えなかったわけじゃなく、生物の弱点や魔物の言葉がはっかりわかるようになっていた。


 トモエの絵師。絵を描く能力が向上し、魔力を込めると動くようになる。さっそくやってもらうと、小さなウサギが飛び出して、トモエの頭に乗っかっていた。飛び出した絵は、ある程度意識が共有できるみたいで、使い勝手が良さそう。ただし、弱めに魔力を入れたようで、5分もたたずに消えてしまった。


 あおい君の変装士。なんとなくイメージがあったので、いくつか予備の服を渡していた。それに変装してもらうと、気づけば一瞬で服が変わっている。隠れることもなく変わっているし、微妙に柄を変えたりも出来るみたい。更に、魔力で化粧したり、多少なら体型も変更出来ている。


 海野さんの指導士。何もしない状態で物覚えが良くなる。覚えた内容を教える時に、魔力を使うことで、相手の上達を促進出来るという。地味に良い効果を持っている。


「こうやって聞くと、あおい君のスキルが怖いな」

「そうだな。この子ならあたしの国でも欲しがるよ」


 4人はイメージがわかないようだ。


「でも、戦闘能力は無いですし、カオルさんとかトモエさんの方が強そうですよ?」


 城の様子が印象的だったのか、良い能力だと思ってない。


「勇者君みたいに強くてわかりやすい能力は、確かに目立つしシンプルに使える」

「だったらそっちのほうが良く無いですか?」

「強いのは他にもいっぱいいるんだよ。それに、強い人は他の強い人と引き合うからなぁ」

「はぁ……そうですか」

「とにかく使い方次第だよね。みんな良いスキルで良かったね」


 褒められて嬉しかったのか、飛び跳ねている。


 スキルもわかったし、すぐに戻っても良かったんだが、時間もあるので練習していくことになった。

 期限は1週間。


 カオルとトモエは、ピースと行動。カオルは従魔探し、トモエは魔物のスケッチ。

 あおい君には、隠れる技術を教える。海野さんには、その様子を見てもらいつつ、魔法を練習してもらう。

 うまく行けば俺が教えてなくても、海野さんが指導してくれるようになる。そうなれば、ようやく余裕が出てくるから、ここは気合いの入れどころだ。


 遠くに海が見える位見通しの良い木々の中で、俺たちから少し離れた木の影に猪が見えている。


「気配を消す時もタイミングがある」

「はい。前に言ってたことですね。相手に気づかれている状態だと、返って違和感を与えてしまうという」

「そう。今は気づかれているかどうか、どっちだと思う?」

「鼻息が荒くて少し興奮気味?これは気づかれているかな」


 確かにフゴフゴ鳴きながら興奮しているのがわかる。

 だけど、あれは気が立っているわけではない。


「あれは食べ物を見つけて喜んでいるんだよ。試しにゆっくり気配を消してみよう」


 3人で、気配を弱めていき、最終的に遮断する。

 猪は変わらず穴掘りして気づいていない。


「本当だ。なんでわかったんですか?」

「まずは目線が一点に集中していることだね。警戒をしている時は、全体を俯瞰するように見るようになる。見られているけど、相手の位置がわからない時ってどうする?」

「周りの様子を見ます」

「そうだね。加えて相手を刺激しないようにするんだ。だから、体は強ばるし、5感をフルに使っていつでも動けるようにする。野生動物は特にそれが強い。試しに相手に気づいてもらおう」


 気配を強めたり弱くしたりを繰り返す。


「あぁ。それやられたら嫌ですね」

「これは気持ち悪いだろうね。目の前でカメレオンが点滅してるようなもんだから。ほら、気づいたよ」


 首を上げて一度周りを見渡しすと、今度はジッと動かず息を殺している。


「あれが警戒状態だから、あの様子を覚えておいて。頭の良い奴は、意識的のこれを無くそうとするんだけど、若干は出てしまう。うまい人間はそれを極限まで減らすんだ」


 しばらく動かなかった猪が、こちらを見つけると後退りして去る。


「襲ってきませんでしたね」

「野生が強い動物程、理解していることがある」

「何ですか?」

「よくわからない者に接触しない」


 これには納得してくれたみたいだ。


「じゃあ、変装士のあおい君はどうすれば見つからない?」

「色で背景に混じるかなぁ? あ! あと匂いだ」


 優秀で良いことですな。

 鼻が効く猪だったのが良かったかもしれない。


「良いね。まずはそれからやってみよう」

「はい。それは良いんですけど、実さんは隠れる時どうしてたか気になります」

「スキルを使わない方法ってことか」

「はい」


 これは実際に見せた方が良いかな?


「ちょっと隠れるから探してみて。海野さんも一緒にね」

「は、はい!」


 近くの木に飛び乗った後、気配を弱めて隣の木へ移り、更に見えないように降りる。そこから背の高い草に隠れながら、2人の背後にある岩に溶け込んだ。


「あそこの木に移った後からわからない」

「私もそこまでですね。気配を探ってみましょう」


 最初は前方ばかり見ていたが、次第にこちらへ向かってくる。やっぱり優秀だなぁ。

 小さなトカゲがいるので、そいつを突っついて2人の方へ向かわせる。


「やや! こっちだと思いましたがこの子でしたか」

「いや、当たってるよ」

「本当にこっちだった!」

「こんな風に、あらかじめ誤魔化せる方法も用意しておくと隠れやすい」


 2人とも理解するのも早くなったな。

 もう1つだけ教えておくか。


「ちょっと面白い隠れ方もある。やってみよう」


 魔力を指に集めて精霊達を呼び寄せる。


 ”隠れさせて。”


 それだけ伝えると、俺の周りを周りだし、精霊の魔力が薄く包み込んでくる。


「見えてるよね?」

「は、はい。一応? 見えて……ます」

「そこに……居るんですよね?」


 海野さんが目を細めながらこちらを見ている。精霊の魔力を散らしながら、2人のもとへ歩いて行く。


「ちゃんとこっちを見ていたよ」

「今のは何ですか?スキルじゃないですよね?」

「精霊魔法だよ。前に教えてもらったんだ」

「やっぱり凄いなぁ。あれで歩いていたとしても気づかないですよ」


 やっぱり精霊魔法が一番わかりづらいよね。だけど、気配だけでも近づけることはある。


「精霊魔法は自然だから、ほとんど同化するんだ。それを気で近づけると似たようなことも出来る。あくまで似たようなだけどね」

「僕の目指すところはそこなのかな」

「それは、あおい君が1番合う使い方を探せば良いよ。さて、海野さんどうだった?」


 いきなり呼ばれて驚いたのか、すぐには返答がなかった。


「はい。その精霊魔法はわかりませんでした。スキルの感覚だと、まず覚えられないです。理解も出来ませんでした」


 精霊を見ることも出来無かったのかな。

 今日は遅くなるから、今度見せやすいのを出してみようか。


「これは仕方ないかな。じゃ、今日は戻ろう」

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