第111話 マイナール国 西部森林地帯2

 採取や訓練を続けていても、スピードは落ちていない。

 予定だと今日中に到着のはず。


「あそこが目的の村だよ」


 森の中にしては、似つかわしく無い防壁が見えてきた。

 隙間は埋めてあるが、表面がササクレ立っていて荒さが目立つ。


「誰だ」


 防壁の上から声を掛けてきたのは、不健康そうな男。

 顔は青白く明らかに血色が悪い。声に覇気も無く、ただ声をかけたような音量だった。


「すみません。ちょっと食料とか分けてもらえないかと思いまして」

「あたしは前に来たことあるんだ」

「待ってろ。今開けてやる」


 こんなに簡単に開くのか?

 ピースは警戒が強いって言ってたよな。

 当人もお手上げでわからないと言った表情をしている。

 村の風潮が変わったのか、良く無いことがあるか。


「ちょっと警戒したほうが良いね」


 みんなが頷くのを確認して、扉へ向かう。

 ギシギシと重みのある音が響く。


「待たせたな。小さい集落だから人手が少ないんだ」


 驚くことに、この重さの扉を1人で開けていた。


「あんた凄い力持ちだな」

「良く言われるよ。見た目に合わないだろ?」

「失礼だけど、その通りだよ」

「気にして無いさ。それより入りなよ。一応食い物はあるつもりだ」


 男の案内で中に入ると、中は予想より広かった。

 外観では想像出来なかったが、奥行きが広く、畑まで内包されている。


「何度驚かされれば良いのやら」

「あたしも入ったことなかったけど、こいつは驚いた」


 男は気にせず先に進むので、後についていく。

 辿り着いたのは少し大きめの平家。


おさ! 人が来たぞー。食料くれってさ」

「うっせー! なんだよ。まだ昼だってのに」


 奥から出てきたのも青白い中年男性。

 ピースを見ると知らないという顔をしている。

 前に来た時と人が変わったのか?

 色々考えていたが、村人同士で話が進んでいく。


「そっちの嬢ちゃんが来たことあるって?」

「そう言ってたよ」

「まぁ、来たけどさ。2人には会ったこと無いかな」


 村人が顔を見合わせるといきなり笑い出した。


「ぶははは!そりゃそうだ!」

「ここは譲ってもらったんだよ」

「じゃあ前に人達は?」

「もっと南側の開けた場所と交換したんだ」


 ほぉ。そんなこともあるんだな。

 それにしてもこの人達は、面白い体してるな。

 生命力が無くて、魔力で生きてるみたい。


「あんた、半仙人だろ?」

「え? あ、はい」


 突然当てられると反応が遅れるな。


「どうして知ってるんだ?」

「あんたの友達と繋がってるからだよ。ほら、俺らの種族わからないか?」

「青白くて力持ちで」


 ニィと笑った時に鋭い犬歯が見える。


「もしかしてアンデッド?」

「大枠では合ってますが、もうちょっと言って欲しかった。ダンピールだよ」

「へぇ。ダンピールは初めて会ったな」

「だけど、もっと上を知ってるんじゃないか?」

「へ?」


 頭を捻っても出てこない。

 周りは呆けたままで会話に入ってこないし。


「わからん」

「あの方の言う通りだな。教えてやれ」

「長が言えば良いのに。……昔ヴァンパイア様と仲良かったんだろ?」


 言われても記憶が。


「ヴァンパイア様は友達だって言ってたぞ。ほら、どこかの島で一緒にゴーレム作ったって」

「ノールはゴーレム作れるのか!?」

「いや、作れないよ」


 そこで長が間に入ってきた。


「ゴーレムじゃないだろ!ロボットを一緒に作った。って……書いてある」


 カンペあるなら先に使ってくれ。

 だけど、ロボットか。


「んー? 島でロボットを一緒に!」


なんだか思い出してきたぞ。青っ白い顔でトマト啜ってる変な奴。


「どうだ? 思い出したか?」

「ドラちゃん!」

「やっぱり知ってるじゃないか」

「ドラちゃん元気してる?」

「ここから西側に行った国にいるよ。まさかと思ったけど、似顔絵通りだったな」


 見せてくれたカンペに俺が描かれている。


「まんまノールさんだね」

「でも、名前違くない?」

「本当だ。高橋実だって」

「偽名だったんですか?」


 一気に言わないで欲しいな。


「ノールは間違えて覚えられたのを、そのまま使ってたんだよ。そっちでギルド証作ってるし、変えるのは面倒でな」


 それよりもダンピール達と話を進めないとな。


「俺は聞きたいことあるから、ピースは青年と食料の交渉しててくれない?」

「え?ダンピールだぞ。大丈夫なのか?」

「ドラちゃんの知り合いなら大丈夫でしょ。ね?」


 長に向かって言う。


「もう人の血は無くても大丈夫だ」

「ということだ」

「わ、わかった」


 やっと納得してくれたか。

 さて、話を進めよう。


「ドラちゃんのことはわかったけど、そのロボットはどうしてるの?」

「いや、詳しいことは俺も知らん。ただ、自由にさせているという話は聞いたな」

「ゴンの奴。どこに行ったのやら」

「あまり文句言わん方がいいぞ。ヴァンパイア様も気楽に言ってたが、一部から機械神と呼ばれている」


 あいつが神様?

 まさか?


「ぶふ。神様は無いでしょ」

「実際神様かどうかわからんが、そう言ってる奴らが煩いってことだよ」

「む。確かにそれは面倒だ。気をつけよう」


 話がひと段落して、後ろを向くと4人が疲れた顔をしていた。


「疲れたなら賦活しようか?」

「ノールさんの話についていくだけで疲れました」


 海野さんの言葉に全員頷いている。

 話に疲れたなら、頭に賦活すればいいのか?

 どっちにしろ、もうすぐ夜だから泊まらせてもらおう。

 長も2つ返事で許可をくれたし、更に空いてる小屋まで貸して貰った。

 久しぶりの宿なので、ゆっくり休めそうだ。


 長との会話を知りたそうにしていたので、ドラちゃんとSK-ゴンのことは、夜に伝えてある。

 それでも、良くわかってなかったけど、理解してもしなくても変わらないんだよなぁ。



 翌朝は皆起きるのが遅かったので、ゆっくり目に出発する。


「あんたらに早くしろとは言わないけど、一度は顔出してあげてくれ」

「わかってる。ドラちゃんにはその内行くって言っておいてよ」

「伝えておく」


 ゆっくり休んだおかげか、進行スピードは早くなっている。

 遅れた分はすぐに取り戻し、1ヶ月の予定が3週間程で到着しそうだ。


「私達もかなり体力ついてきたわね。賦活も前より出来てると思うの」


 トモエの言う通り、かなりのペースで成長している。気の強弱も多少出来ているので、もう少し上手くなったら、スキルの訓練に入れるだろう。


「到着したら、カオルは私と従魔探しだな」

「良いの?」


 従魔に関してはピースに任せることにしたから、わざわざ確認しなくて良いのに。


「前にも言ったけど、従魔はピースの方が詳しいんだ。任せるよ」

「そういうこと。現地には数種類運搬タイプがいるんだよ。こういう機会はあまりないからな?」


 採取はこちらでやるとして、ベイリーフを覚えてもらわないとな。

 スケッチした絵を見てもらう。

 各々感想はあったが、一応見たことはあったので良かった。


「先に言っておくけど、覚えた野草とかは、量を守って取ってくるんだよ?」

「「「はい」」」


 個人で採取したものは、あとでそのまま報酬の上乗せになる。みんなが自立する時の資金になるから大事だ。

 あとどのくらいで独り立ちできるのか。

 初めの様子から考えると、予想以上の成長だから、早く自立出来るかもしれないな。

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