第112話 ベイリーフ・シナモン・セウユ

 目的地には到着したが、どこにあることか。


「じゃあ、あたし達は従魔探してくるから」

「行ってきます」


 夕方までに一度この場所へ戻ることにしている。

 カオル達を見送った後は、月桂樹探しだ。


 ダンピールの村周辺に比べると、ここら辺の森は、かなり見通しが良くなっている。

 パッと見ただけで、遠くに海が見える程、空も広い。

 探索を続けているが、月桂樹らしき木は無く、移動しようとした。その時、20m程前方に狼を発見する。

 俺がみんなに伝えようと振り向くと、海野さんが指して確認しあっていた。


「あれですよね?」

「先生早い」

「また先越された」


 海野さんの成長率が高い。やっぱりスキルの影響だろうか?早めに魔力を覚えさせたいが、足並みが乱れると教えづらいんだよね。


「実さん。迂回しましょう」

「ん? あぁ。今回は撃退してみようか」


 俺の言葉が信じられないのか、全員がなぜと疑問を投げかけてくる。

 今まで逃げろって言ってたから、その気持ちはわかる。だけど、他の方法も見ておいた方が良いだろう。


「今回はこれを使うよ」


 3人に木の実を渡し、効果を伝える。


「なるほど、嫌いな臭いで退治するんですね」

「じゃあ、321で投げましょう」

「私が言うわ。3、2、1。それ!」


 一斉に投げた木の実が、狼付近の木に当たり、粉が舞い散る。狼はたまらず逃げ出したが、当たりどころが悪かったのか、粉がこちらへ少し流れてくる。


「う。ちょっと臭います」


 顔をしかめているが、その程度で済んでいる。これが狼ならどれだけ臭かったことだろうか。


「相手の嫌いな物を使うのか」

「結構便利じゃない? 色々使えそう」


 関心してくれたが、使い所が重要な戦法なんだ。


「これは、相手が逃げる見込みがある時だけ、それ以外は基本逃げだね」


 今回の戦法は、相手を怒らせることもある。相手が強い程その傾向があるから、それも気をつけるよう言っておかないとな。




 3日程周辺を探したが見当たらない。やっぱり名前通り、海に近づいた方が良いか。

 ピース達も見つからなかったようなので、更に西へ向かうことにした。


 移動中に、前から気になっていたことをピースに聞いてみる。


「アイアンブル君さ。なんでそんなに大人しいの?」

「何言ってるんだ? 従魔なんてこんなもんだろ」

「俺の知ってる従魔と違う」

「はぁ? じゃあどんなのだよ」


 もっと良く話すし、やりたい事とか言ってくる。ブル君の性格もあるだろうけど、ちょっと静かすぎると思うんだよな。

 そんなことを伝えるとピースは考え込んでしまった。

 代わりにカオルが話しかけてくる。


「実さんの従魔はどうやって捕まえたんですか?」

「俺は、気づいたらいた? いや、違うな。従魔にした方法が聞きたいってことか」

「そう、そうです」

「相手に気を流すように、賦活してあげる。そう思った方がわかりやすいかな?すると繋がりが出来るんだ。それがきっかけになって、相手から思念が飛んでくるようになる。」

「はぁ。そうですか」


 たぶん、わかってないな。実際にさせてあげると良いんだけどな。

 その前に現地に着いちゃった。


「久しぶりの海ね!」


 トモエが嬉しそうにしている。


「海は結構魔物が多いんだ。気をつけた方がいい。あたしも何度か痛い目にあったからね」

「俺も、海で浮きくらげに捕まったっけ。あいつらはシツコイから注意が必要だ」

「実さん後ろ!」


 あおい君の声で振り向くと、噂をしていたくらげが1匹!


「ほほぉ、ちょうど良いじゃ無いか。試しにカオルが従魔にしてみなよ」

「え? どうやって」

「相手に気を流すんだ。このニンニクを食わせてな」


 そう言ってニンニクを渡すと、くらげがプルプル震え出す。


「それを投げるんだ」

「えいっ!」


 ニンニクをキャッチしたくらげがゆっくり食べ始める。その間に、カオルの手で触らせて、気を流させる。

 ちょろちょろとゆっくりだが、気は流れている。残念ながら賦活にはなってないな。


「かなり疲れる」

「もうちょっとだ」


 他の人達も固唾を飲んで見守っている。


「よし! もう良いぞ」

「はぁ、これは大変。一人じゃ厳しいよ。ピースさんも毎回こんな感じなの?」

「うんうん。あたしも従魔を増やす時は、誰かとやってるね」


 落ち着いた浮きくらげがカオルの周りを飛び回る。

 あの様子だと何か伝えているな。


「うーん。これ理解するの難しい。曖昧なイメージが送られてる感じ」

「だんだん慣れてくるよ」

「あ、でも一つわかった。この子、実さんを知ってる。いや、知ってる仲間を知ってる。かな?」

「うんうん。よくわからないね」


 とりあえず俺のやり方は教えた。

 このくらげを連れて行くかどうかはカオル次第かな。


「せっかくだから連れて行く。良い? 実さんの言ってた通り。餌を要求してきたわ」


 そんなことだろうと思った。ニンニクと毒草の瓶を1つずつ渡す。


「餌が採取出来なくなったら逃がせば良いよ」

「やっぱり、お前のやり方の従魔はおかしい。あたしが手懐けたら大体大人しくなるよ」

「何だろうなぁ? 気力と魔力の違いかな?」

「たぶん、それだろうけど、何でかわからないね。ブルはわかる?」


 ブォォ、ブフォオ。


「わからないか。でも従魔っぽく無いと言ってるよ」


 そんなこと言われてもな。魔力で手懐けた事無いからわからん。


「まぁ、次はスキルで手なずければ良いんじゃ無いか?というか、カオルはスキル使えるのか?」

「いや、まだ」


 そっちが先か!


「ふぅ。ベイリーフが見つかっても、ギリギリまで訓練して行くか」

「「「「はい」」」」



 ◆ ◆ ◆



 ベイリーフはすぐに見つかった。やっぱり海が近い場所であってたな。

 ついでに、シナモンの木も見つけたよ。皮も剥いだけど、少し匂いが強い。もしかしなくても中国のカシアシナモンだ。仕方ないが、何も無いより良いだろう。


「実さんは本当に詳しいですね」

「趣味を拗らせた感じだね。だけど一番欲しいのはこれじゃないんだよな」

「何が欲しいんですか?」

「やっぱり醤油が欲しいよね」

「あ、私も欲しいです! 大豆があれば作れるのですけど……」


 やっぱりみんなも欲しいよね。ん?


「作れるって言った?」

「え、えぇ。大豆があればですよ?」


 良いじゃないか。

 獣王国ではカビさせてしまったが、知ってる人がいるなら早い!


「海野さん!」

「はい!」

「あなたにこれを進呈する! おめでとう! 醤油大臣の誕生だ!」

「え? えぇ!?」


 とりあえず作ってもらうとしても、レシピは残しておいた方がいいな。

 醤油と味噌の用法書も作ってもらおう。

 あとは、人員もいるか。とりあえず俺も覚えておきたいな。

 あぁ。こんなウキウキするのは久しぶりだな!


「これでマシマシな夢が完成に近づいた!」


(先生。あの様子は面倒なやつよ?)

(うーん。でも醤油は私も欲しいし。)

(僕も久しぶりに醤油味食べたいな。)

(今回は協力しましょう。私も食べたいです。)


 全部聞こえているぞ!

 だが、君達は逃れられまい!

 醤油様の力は偉大なり!

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