第110話 マイナール国 西部森林地帯1

「ピース。ちょっと地図見てくれ」

「どれどれ。現在地で言うとここら辺だな」

「ちょうど1/4位か。確か中間あたりに村があるんだっけ?」

「そうだな。寄り道した時に一度行ったことあるが、あまり歓迎はされないぞ」


 ピースの渋い表情でもわかる。最低でも、何か交渉材料が必要かもしれないな。

 4人にも聞いてみるか。


「みんなにも聞きたいんだけど、どうやったら食料譲ってもらえるかな?」


 少し考えた後に1人ずつ答えてくれた。海野さんは、持っているお金で買えないかと思っている。トモエとカオルは物々交換。あおい君は仕事の対価。ピースはそこで補充しなかったので、わからないと言っている。


「結局どうするんですか?」


 海野さんの言葉だけど、全員気になっている。


「全部と言いたいけれど、法外な報酬を求められたら断ることにしよう」

「「「「「了解(です)」」」」」


 対価を集めるために、森の中で採取しつつ進んでいく。


 それにしても、ピースの従魔が居てくれて良かった。アイアンブルは予想以上の力持ちで、背中に載せてる分で5人分は軽く超える大きさだ。カオルも気になっているみたいで、よく話しかけている。


「ピースさん。初めはどんな従魔が良いと思いますか?」


 ゆっくりだが、確実に話せるようになってきた。ピースが参加してくれたのは大きい。


「そうだな。やはり一番おすすめなのは運搬出来る従魔かな」

「戦闘系よりもですか?」

「戦闘か。あっちは難しいんだよな。カオルの戦闘スタイルに合わせて補うタイプを選ぶんだが」


 ピースは、カオルを再び見ると首を降る。


「ちゃんと動けるようになる方が先かな」

「そうですか。ノールさんは、どんな従魔を使役してたんですか?」

「うぇ?俺の?」


 いきなり振られてビックリ。


「確か浮きくらげだろ?あれ使役してる奴すごく少ないんだよ。どうやって飼ってたんだ?」

「飼ってたというか。付いてきてたというか。とりあえずこれが好きだったかな」


 ふところからニンニクを取り出すとピースが後ずさる。


「うっ。そいつがニンニクか! 獣人族が無理な意味がわかったよ。早く仕舞ってくれ!」

「はいはい。これ目当てで来てたかな。あとは毒を食べるから、毒持ちの動植物を集めてたかも」

「カオルは諦めた方が良いな」

「いや、私も採取がんばればなんとか!」

「残念だけど、俺と一緒にいた浮きくらげは命令はよく無視してたよ?」


 その言葉に2人とも絶句する。


「そんなのよく使役してたな?」

「まぁ、たまに頼み事は受けてくれたから助かってはいたかな」


 ピースはむず痒そうな顔をしながら聞いてくる。


「そうか、もう一匹居たよな?」

「あぁ、そっちは普通だったな。魔鴨から進化して花鳥になったんだよ」

「進化! 魔獣は進化するんですね?」

「いや、普通は進化まで行かないぞ。やっぱりお前も従魔もおかしい」


 そんなこと言われてもな。メサは良いけど、オスクは元気してるかな?今度教授に手紙出そうかな。ここから手紙出したら、いくらかかるのだろうか?どこに行っても金金金金。それが嫌で山に入ったのに……。


「ノールさん。すごい顔ですけど大丈夫ですか?」


 カオルの言葉で意識が戻ってきた。いかんな。昔から考えると思考のツボにハマる。それがわかってから、あまり考えないようにしてたのに。気をつけよう。


「ごめんごめん。ちょっと考え事してた。俺もピースの言う通り運搬系は良いと思うぞ。花鳥も運搬してたけど、確実に移動が楽になる」

「なるほど、そうとなるとどんな魔物が良いか」


 あとはピースが教えてくれるだろう。俺もここら辺は詳しく無いから、2人で相談してくれい。

 他の3人はどうしてるかな?


「私たちのスキルは良いけど、先生の指導って何かしらね?」

「私も考えていたのですが、やっぱり教えることでしょうか」

「スキルの発動する感覚は無いの?」


 はぁ。スキルは俺もわからないんだよな。1つわかってるのは魔力を使うってことだけか。だとすると、覚え始めた気を沈めないといけないな。


「ちょっと良いか?」


 そう言って3人の意識をこっちに向ける。


「まだ言ってなかったが、気と魔力は打ち消し合うんだ。スキルは魔力を使うから、気を沈めるところからやった方が良い」


 3人とも弱い賦活が出来始めてから、明らかに体力がついたので、気を沈めるのは難色を示している。森の演習以降の成長率が高いので、やってよかったと実感する。

 それはそれとして、魔力が消える感覚だけでもわかると覚えやすいかもしれない。


「ちょっと賦活してみてくれ」


 3人の賦活を確認して、魔力を押し当てる。

 ジリジリと対消滅していく、気力と魔力。


「なんか減ってるような」

「なんとなく」

「背中あたりが薄くなってるかもです」


 海野さんが一番感覚良いな。他のこともだけれど、海野さんは物覚えが良いな。他のみんなも、今の覚えるペースなら孤児達より早い。これがスキルを得るってことなのか。


「その感覚を少しずつ覚えておこうか。まずは気の強弱が出来るようになろう」

「「「はい」」」




 採取や野営の準備も4人に任せている。時間もかかるし下手だけど、日に日に成長しているのがわかると、微笑ましい。


「まるで先生だな」

「かもしれないな」

「否定すると思ったんだが……」


 ピースが苦笑いしている。そんな顔するなら言わなければ良い。

 俺は半人前だから師匠にはなれない。それなら先生の真似事をするくらいさ。


「それより、体術覚えたいんでしょ?」

「そうだった! さっそく頼む!」


 やっぱり獣人族は筋肉が発達している。通常の人族とは才能の違いがあるよな。

 でも、それ以上の人族も知っている。帝国の軍人は凄かった。力だけなら、一兵卒でも勇者君と同じくらいか。


「この打ち付けた時、手先が痛すぎないか?」

「痛くてあたりまえでしょ?」

「えぇ? お前普通に使ってたじゃないか」


 なるほど、お手軽拳法と勘違いされたのかな。

 手を鍛える方法から教えれば良かった。


「えっと、砂はないから、土で良いか。土に手を打ち付けて鍛えていくんだ。するとだんだん強くなって耐えられるようになる」


 土に打ち込んで様子を見せる。


「砂とか土とか柔らかいものでやるんだよ」

「なるほどな。どのくらい練習すれば良いんだ?」

「とりあえず毎日少しずつやれば良いと思う」

「武術だから仕方ないよな。とりあえず練習するか」


 そう言って土を叩き始める。

 その様子を見ていた4人は、自分たちも覚えた方が良いかと話し合っていたが、気の鍛錬が先だと納得していた。


「晩御飯出来たよ!」


 今日も変わらず野草やキノコの鍋。味付けも変わらないけど美味しい。

 だけど、1つだけ食材を追加。

 作ってる最中、気づかれないように弱毒の野草の粉末を入れている。これに気づいたのはピースだけだ。


「毎日飽きないことだな」

「ふふ。これで体が強くなるんだから良いでしょ?」


 俺の師匠はもっとハードだったからな。気づかない程度の毒で鍛えられる上に、賦活で回復させてるんだ。優しいと思うけどなぁ?


「念入りに解毒薬まで作って……それも教えてくれよ」

「良いけど、採取は自分でやってよ?」

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