第107話 異世界?

 今日が演習終了日。

 残りの4日で2度襲撃に会い、見事に全員負傷してしまった。

 治療はしているので、今ではかすり傷程度になっている。


 俺は、むくれてる4人を前にして何て言うか迷ってる。


「慰めた方がいい?」

「良い訳ないでしょ!」

「やっと1週間経ったのに、終わりの言葉がそれですか?」


 怒らせてしまった。

 でもなぁ。

 ちょっと覆面にアドバイスを貰おう。


「なんて言えば良かったと思う?」

「ボロクソに言ってやれ」


 珍しく覆面3号が喋ってくれた。


「1度怪我してから明らかに警戒は強まったが、それだけだ。音を立てて歩く。隠れられる場所があっても隠れない。食い物の臭いを撒き散らす。全部敵を寄せ付ける行為だ。今言ったのって、逃げ隠れするための最低限なのよ」


 更に沈んでしまった。


「訓練したら出来るようになるんですか?」


 カオルも良いこと言うじゃないか。


「出来る」


 4人とも目に力があるな。

 これで明日も訓練出来る。


「よし。じゃあ帰ろうか」



 森から戻る途中で覆面達とは別れた。

 これで、4人は俺の仮弟子みたいになっちゃったな。

 スキルは体力付けてから練習させるとして、言葉は継続しないといけない。

 木札増やして単語だけでも言えるようにしよう。


「ノールさんはどこでその技術を身につけたんですか?」

「どこでって言われると、最初は山守りの時かな。瞑想してたら気配をわかるようになって、熊とか避けてたら出来るようになった」

「参考にならないわ」


 こっちの森は異常に危険だから仕方ないよね。

 家に到着すると4人は泥のように寝入ってしまった。

 念の為、賦活で癒しておく。


「ふふふふ。お肉ちゃんを熟成させて、チャーシューを。ニンニクも植えておこう。魚醤もあるから、野菜と小麦の確保だ」


 町へ繰り出して、買ってこよう。

 肉待ちだけど、わくわくが止まらない。






「「「「おはようございます」」」」


 みんな早めに起きてきた。


「ご飯の前に走ってこようか」


 この日から早朝ランニングが追加された。

 午前に気の修練と体術、午後に言語と動植物の勉強。

 仮弟子達も忙しいが、俺もずっと張り付き状態。

 金が無くなりそうになると、全員で森の薬草採取をする。


 ここ1週間はこんな生活だ。

 気の修練のおかげか、言葉も話せるようになってきて、少しは自信がついたようだ。


「ハナセテマスカ?」

「話せてますよ」

「ワタシもイッテル?」

「カオルも言ってるよ」


 みんなカタコトだけど話せている。

 少し体力もついたし、そろそろ行っても良いかな。



「この建物って、最初にノールさんが入って行ったところですよね?」

「海野さんの言う通り。ここは探索…じゃなくて冒険者ギルドだよ」


 俺がそう言うと、ワイワイ騒ぎ出した。


「冒険者ギルドだって!」

「ちょっとワクワクする」

「まさか登録!?」


 登録だけど、あまり騒ぐと目を付けられるぞ。

 静かにしててくれよ。

 中に入ると、案の定視線が集まる。


 とりあえず、おっさんのカウンターに行くか。


「ぞろぞろ女ばっかり連れてきやがって。何の用だ」

「後ろの全員登録です」

「何が出来る?」

「みんな。採ってきたの見せて」


 各々が森で採取した野草を渡していく。


「なんだこりゃ。新人レベルか」

「そんなもんです。少しずつ教えていきます」

「10級だな。4人分持ってきてくれ」


 背後の空いてる受付に頼むと、一人ずつ名前を確認していく。

 紙に記入しつつ、言葉を投げてくる。


「お前ら召喚勇者か?」

「ノールさん今勇者って」

「海野さん、ちょっと黙ってて。追い出されたので勇者じゃないですよ」


 なんか良く無い雰囲気だなぁ。


「…先日やってきた兵士がお前達を探してた。一度城に顔出せとさ。ほら、ギルド証だ」

「困った人達です。出ていけと行ったり、来いと言ったり」

「なぁ。お前本当に召喚されたのか? 証を見た時、西端にある獣王国の印があったぞ」

「え? 獣王国は西にあるんですか?」


 異世界だと思ってたんだけど、違うのか?


「ちょっと待ってろ。」


 おっさんが奥に引っ込んだと思えば、すぐに戻ってきた。


「これを見ろ。」


 地図がある。

 真ん中にデカイ大陸があって、左に中位の大陸。


「このデカイのが俺たちの居る大陸だ。その中心部から下に行った場所がこのマイナール国。海を2つ超えて、さらに先へ行った端っこが獣王国だ。」


 マジか。

 ちゃんと霊峰まで書かれている。


「じゃあここは?」

「エスタ聖教国だな。」

「こっちは!」

「ノーザンド帝国だ。」


 まさか同じ世界だったのか。

 俺のワクワク異世界気分を取り返して欲しいものだ。

 一気に冷めちゃったな。


「ノールさん。ジュウオウコクってのは何ですか?」


 4人とも知りたそうにしている。


「時間かかりそうだし、帰ってから話そうか。」

「あ、うん。」

「おやっさん。一度帰ります。」

「おう。次来る時は、お前も薬草持ってこい。」

「はいよ。」


 帰り際に絡もうとしてきた冒険者は、おやっさんに捕まって怒られていた。

 その時何度もこっちを見ていたから、勇者とかでも吹き込んだんだろう。

 その称号もあまり覚えてほしく無いんだけどね。




 家に帰って一息つくと、先程のやりとりを知りたそうに見てくる。


「さて、どこから話したものか。とりあえず、前に話した国についてだけど」


 召喚される前に居た所が獣王国で、他の国の配置と名前が完全に一致していたと伝える。


「それならノールさんだけ、同じ世界で場所だけ変わったと。」

「それだけなら良かったんだが、獣王国で見つけたものが問題なんだ。」


 地下で見つけた遺跡のこと、地球が他の世界と融合してしまったこと。

 ゆっくりと話していき、異世界転移では無く、時間転移の可能性を伝える。


「じゃあ、未来だって言うの?」

「ちょっと信じられません」


 そうなるよな。

 明らかに変わりすぎている。

 魔法やスキルがある世界。


「未来に来たなら過去に行けないの?」

「そうよね。行けそうな気がするわ」


 カオルの言葉にトモエが乗っかるけれど、厳しいな。


「王女様の言っていた神様というのはどうでしょうか? 魔法があるならいらっしゃるのでは?」


 神様はもっと厳しい。


「絶対とは言えないけど、過去には行けないし、神様は力を使わない」

「なぜ!?」

「1秒間に宇宙全体でどれだけのエネルギーが使われているか。何秒それを繰り返せば元の時間に戻れるのか。それを考えると過去に戻るのは難しいな」

「神様は!?」

「神様については、力が強すぎるってことだな。弱い神様だとしても、存在するだけで世界が壊れていく。だから、神様になった者は昇天するんだ」


 それでもトモエは納得出来ないようだ。


「なんでノールさんに神様のことがわかるんですか?」

「神様のことはわかってはない」

「じゃあ、絶対じゃないですよね!?」

「絶対ではない。けれど、俺の神に昇天までした師匠が言っていたことだ。それは信じてる」


 4人の呆けた顔が見える。


「神にしょうてん?」

「え?」

「どういうことですか?」


 ちょっと説明が必要だな。


「ちょっと話はれるが、今4人に教えている気は何だと思う?」

「体の眠ってた力を」

「ちょっと違うな。常に湧き出し続ける生命力を使えるようにしたものだ。漏れ出ないようにすると、頑丈になったり、回復力を高めたり出来る。呪術として使う者も居た。それを使う者達は日本でも居たと言われてたよね?」


 少し考えるとアオイ君が答えてくれる。


「陰陽師」

「そう。俺の師匠は大陸の人だったから、仙人と呼ばれていた。結構有名な人だよ」

「仙人って、確かに気を使うと言うわね」

「だったらノールさんも仙人なんですか?」


 当然気になるよね。


「俺は出来が悪かったから、仙人にはなれないらしい。だから半仙人だね」

「よくわからないわ。何が違うの?」

「簡単に言うと死ぬか死なないかだね。俺は死ぬ方」


 しばらく黙ってたカオルが声を出した。


「ノールさんに教えてもらってる私達も、仙人になれる可能性があるってこと!?」

「え? 仙人になれるの?」


 そう考えたかだけど残念だったね。


「手短に言うと仙人にはなれない。理由は俺が気を教えちゃってるから」

「そんな」

「教わってなければ可能性が」

「トモエ。自力で気を覚える時間は無かったんだよ。仙人にはなれないけど、気を使えるようになると、長生きにはなるよ」

「本当!?」


 食いつき良いな。


「さっきも言ったけど、戻れないのは絶対じゃないからね。魔王が倒されたら戻してくれるかもしれない。期待しすぎず、ここでも生きられるようにする。いいね?」

「「「はい」」」

「え? はい」


 説明したから、こっちは良いとして、あとは城か。

 めんどくせー。

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