第89話 霊峰へ帰還

「もっと見とくか?」

「いや、怒られそうだし良いよ」


 博物館はここで最後で、ゲイルと外に出て、食事をしながら話すことにした。

 中心街はどこも居心地悪かったので、『爪と穴』まで行く。







「やっぱりここは落ち着くね」

「ふーん。首都着いたばっかなのに良い場所知ってるな」

「たまたまね。それであの作務衣だけど……」


 俺が昔着ていた奴を思い出しながら伝える。素材が特殊で通常では採取することも困難。俺の故郷や知り合いでも、持ってる人はほとんどいなかった。


「種神は人とは言え、神が着ていたと言われる服だからな。しかし、それだとノールの故郷ではあの素材のがいくつかあった訳だ。採り方とかわかるか?」

「いや、師匠がやってたの見てたけどわからなかった」


 教えてもわからないと思うが、万が一ってのもあるからな。


「ちょっと動きだけ真似するぞ。見ててな。ここでこうやって紡いで、巻いていくんだ」


 空中で紡ぐ動きをする。


「いや、それって動きだろ? どこにあるとか」

「だから、ここでこうだって」

「いや、空中掴んでも……」



 その空中から糸を紡いでいくんだよ。


「そうだよ。それで出来た糸なんだ。だから無理だって」



 本当にどうやってたのかわからん。

 気を込めてたのはわかるが、さすがに空気から糸は作れないぞ?やれやれ。


「……お前の師匠ってのは何者なんだ?」

「獣王国に来る途中にちょっと思い出したんだ。仙人と言われていた」

「思い出したのは良かった。だが、仙人ってなんだ?」



 わからないよな。

 俺もここら辺で聞いたことない。

 一応説明してみる。


「なるほど。だとすると長命種になるか」


 あれを長命と言って良いのだろうか?

 不老不死だろ?

 師匠達には悪いが、言ってはなんだが、化け物の部類だぞ。


「ノールもそれで長命になったのか?」

「ん? うーん。たぶんだけど違うかな?」


 前に何か言ってた気はするけど、はっきり思い出せないな。師匠としか出てこないし、顔も名前も微妙。だけど教えられるとダメだったような……。


「俺のやり方になるけど」

「おう」

「確か人に教えられると、ダメって言われたと思う。その前提で、ずっと瞑想してたらいつの間にか長生きになってた」

「教えられるとって、瞑想のことか?」

「いや、瞑想のやり方かなぁ? 瞑想自体ではないと思うよ」


 ゲイルは試してみるのかもしれないが、あまり期待しない方が良いと思う。

 それだけは言っておいた。





「じゃあね。バートにもよろしく」

「わかった。帰りも気をつけてな」


 門で別れると、ちんたら歩きながら帰っていく。

 行きは馬車に乗ったままだったから、採取も出来なかったからな。

 ちょっとした息抜きだ。


 ちなみに、首都の露店で色々買ってきた。

 ガラス玉を巾着ごとと、育てられそうな果物と野菜。

 雑貨も色々。

 そして、なんと醤油を見つけた!

 魚醤だったが全然良い!

 それも大豆っぽいのも見つけたからだ。

 うまく行けば味噌と醤油も作れる。

 それまで魚醤を楽しみつくそう。

 3壺の魚醤に、大樽を荷車に乗せながらの帰り道。


 久しぶりに1人なので、誰気にせずニンニクを食った。ペペロン風にしたり、鍋に入れたり、麦飯と炒めたり。

 初日は周りに人の気配があったので、飯に誘ったが反応なし。

 次の日から毎食ごとに人が減っていき、3日目には、10人いた人が消え去った。

 おそらく違う方向だったのだろう。

 こっち側って例の検問村だからな。


 俺が通る時も通行料を取られると思って、お金を準備してたんだが…。


「誰もいないな? 今日は休みかな?まぁ良いか」


 村に用事もないので、そのまま通り過ぎる。





 道中で新しい植物を見つけたり、小動物を観察したり、結構楽しい帰りだった。

 隣村でしかめっ面されたが、物々交換してくれたので、機嫌が悪かっただけかもしれない。




 ◆ ◆ ◆





「みなさん。戻りましたよー」


 モール族に声をかけておく。




「この臭いはノール君だな」

「帰りにしこたま食いやがったな」

「今回は強烈」

「ホーは慣れてるだろ? 行ってきてくれよ」

「良いけど一番欲しいのはもらうよー」


「「「わかったわかった」」」





「おかえり。帰りは楽しんだようだね」

「わかる? 自由したって感じ。それとお土産ね」


 荷車の紐を解いて、見せてあげる。


「これだけあれば欲しいのあるでしょ? 持ってきなよ」


 毎回行くドリー達は、必要な物を買ってくるが、余計な物まで手が出ない。その点俺は自由だから、とにかく色々と言われていた。


「やっぱりノールは野菜とか多いな。これは面白いね」


 ホーが手に取ったのはゴーグル。

 ガラスがあるから、置いてあると思ったんだよね。

 高かった……みたい。

 というのも、購入費をゲイルに払ってもらったから。

 博物館と酒場で話した内容だけで、全額払ってくれた。

 むしろ足りないと言ってたくらい。


 モール族は洞窟掘るから、あると便利だと思ったんだよね。

 案の定ゴーグルは人気があって、すぐに無くなってしまった。


「「「もっと無いの?」」」

「すまんな店の全部買ってそれなんだ」


 あと分厚いガラスだけど、割れたら危ないから注意するよう言っておく。

 次に人気だったのはホルダー付きのベルト。

 サイズ調整出来る6つの留め具がある。

 取り付けた奴がスコップ吊り下げて喜んでた。


 爺さん達は畑をやってるので、キャベツの種をあげる。

 名前は知らなかったが、見た目も味もほとんどキャベツだったので、そう言ってる。





「ドリー達はまだ?」

「今回は色々頼んだから、もうちょっとかかるかもね」

「そっか。じゃあ教授のところ戻るかな」




 いつもの山道を通り、登っていくと見慣れた家が見えてくる。


 ピィィィ!


「オスクただいま。先にお土産」


 梨みたいな果物を放り投げると上手くキャッチ。

 そのまま食べていく。



 そうなるとアイツが出てくるだろう。

 俺が教えたおかげか、ずいぶん気配を断つのが上手くなっている。

 おそらくいるだろうと思って、空に向けて毒草を投げる。


 シュバ!っと風切り音を鳴らして、一瞬だけ触手が見えた。


「お前のお土産はこれだー!」


 通常の露店で見つけたんだが、まさかと思った。

 薬草に混じって毒草がある。

 しかも猛毒に部類されるが、薬の材料になる高級品。

 イアさんに教えてもらった名前はただ『凍える』草とだけ。

 食べると体から熱が消え体が凍る。

 本当に氷になる。

 使い道は何千倍にも希釈すると、どんな高熱でも抑えられる解熱剤になる。


 メサが飛びつき貪ると冷気を振り撒き出した。

 体の前に氷柱を作ったり、氷で遊んでいる。

 気に入ったのか、体を揺らして喜んでいるのが伝わってくる。



「そうだろう。今回は俺のお土産センスが光ったな」




 あとは研究者共だ。


「帰ったよー」





 と言っても返事が無いのは分かっている。

 正直こいつらのお土産がわからなかった。

 だから、作ってしまうことにした。


 白地の布だけ買ってきて、ゲイルお墨付きの店で最初に頼み、帰りには完成。

 型が簡単ですぐに作れたと言う。

 だとしても神業の早さ。

 ボタンでは無く紐で締める形だが、見栄えは悪く無い。


 やっぱり研究者と言えば。




 白衣でしょう!


「これがお土産、着てみて」


 2人に着せるとイメージに合う。

 似合ってるかは知らん。


「なんとも変わった服だ。ですが、この小物入れは便利ですね」


 ジールが片手をポケットに突っ込み、メガネをクイッとあげる。

 わかってるジール。

 俺は心の中でガッツポーズだ。


「ノール氏のことですから、面白い記憶でも思い出したんでしょう」


 教授も置いてた果物をポケットに突っ込み歩き回る。


「良いですね。ん? いつの間に果物が、いただきましょう」


 収集癖があるから気づくと何か持っている。

 教授にポケットはまずかったかもしれない。

 ゴミが増えるか……。


 すまんがモール族達よ。

 掃除がんばってくれ。

 それがお土産代だ!

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