第88話 博物館


「夜はピョンピョン飛んで、朝になったらパタパタ飛んで、屋敷の中まで……本当に騒がしい街だよな」

「何が騒がしいだ。お前がいないって騒いでるのはこっちだって」


 見知った狼耳の男。


「やぁ。ゲイル」

「久しぶりだな。なんでこんな所にいるんだ?」


 案内された部屋のことを伝えると溜息をつかれた。


「最高の客室に案内して、逃げられたのは初めてだろうな」


 話していると、下に人が集まってきて、バートの家族や使用人達がザワついてる。

 ゲイルの話だと、使用人が起こしに来たらいなかったので、屋敷中を探し回っていたらしい。それでも見つからないので、みんなで探していたらしい。

 ちょっと申し訳なさを感じる。


「じゃあ、早く戻ったほうがいいね! 行こうか」

「行こうかって、そこから飛び降りるのか?」


 屋敷という場所では、あまり褒められた行為では無いのかもしれない。それでも、早く説明したほうがいいだろう。


「大丈夫。なるべく埃立たないようにするから」


 屋根から一歩を踏み出し、歩くようにゆっくりと降りていく。重さに任せて降りると砂埃が舞うなら、体を軽くして着地をゆるくすればいいんだ。

 着地もふわりとさせて、なるべく優雅に見えるように意識する。


「「「「「……」」」」」


 みんな大口を開けて絶句している。


「やっぱり屋根から降りて来るのは良く無かったか。綺麗に降りたら良いと思ったんだ。ごめん」

「あ、いやぁ。良いんだぁ。だが…降りてくる時の……フワッとしたやつもお前の言ってた『気』かぁ?」

「そうだね。技の名前とかは無いんだけど……簡単に言うと体を軽くするんだ」


 間の抜けた返事をされて、なあなあになってしまったが、おかげで怒られることは無くてラッキー。部屋に慣れなくて外で休んだことも謝罪した。小市民だから広い部屋はダメなんだ。

 屋敷の人達からは逆に謝られてしまった。客に合わせたもてなしをするべきだったと言う。こんな奴も俺くらいだろうから、申し訳ないな。だが、これ以上は謝罪合戦になりそうなので止めておいた。


「世話になったね。博物館に寄ったら帰るよ」

「俺が案内しよう。バートもそのほうが良いだろ?」

「ゲイルが行くなら安心だぁ」


 来てくれるなら俺も助かる。何しろ博物館の場所すら知らないからな。

 じゃあ行こうかと、歩こうとしたら、妹さんに止められた。


「また、いらっしゃいますか?」

「え? いや……わからないです」

「そうですか」


 なんかうつむいちゃったな。


「まぁ、しばらくこの国にいるつもりだから、用事があればパロ教授のところに連絡ください」

「わかりました」


 納得してくれたか。嫌われてると思ってたから、うまく反応出来なかった。

 屋敷を出たら中心街の大通りへ向かう。

 ゲイルの後ろだと、するする行けるから楽で良いな。


「ここが博物館だ。」


 俺は白塗りの建物かと思ってたんだが、予想が外れて小さめの城だった。この城の奥にもっと大きな城がある。そっちが王族の住む方で、小さい方は獣王国が最初に作った城だと言う。


「細かい説明は展示品を見ながらの方がわかりやすいだろう」


 中に入る時、ゲイルが警備員に何か言ってたが、気にするだけ無駄だろう。素直におもてなしされちゃおう。

 後ろで警備員がどこかに走って行ったが、俺は建物の作りが気になってしょうがない。


「この城作った人って結構曲者だな」

「やはりわかるか」


 外側だけなので、詳しくはわからないが、ところどころ壁が二重構造になっているようだ。昔見たからくり屋敷を思い出す。

 中は部屋数を増やしたりして、広さを誤魔化している。狭いわけでは無いが、面白いな。


「ちなみに内側は従業員しか入れないから、無駄に調べようとするなよ」


 壁に近づこうとしたのがバレたようだ。

 さすがはゲイル。

 大人しく展示品を見てまわろう。


「武器と防具が多いね」

「ここら辺は戦争の歴史品が多いからな。装備が進化しましたってだけだから、あまり面白く無いぞ。最新武器ならちょっとは良いけど」


 武器に関してはあまり興味無いかな。こんなのあるんだ程度しか思ってない。だって適正が素手と棒ですからね!


 次の部屋は道具類に変わった。今の製品よりも劣化してる程度なので、代わり映えもしない。木製から石製、金属製に変わりましたってね。

 ちゃんと繋がりがあるのはわかるよ?ただ、昔見た博物館と比べるとちょっとね……。


 次は種族の部屋だった。ここは面白かった。

 肉食系が偉いかと思ったが、そうでも無かった。草食、雑食関係なく8つの種族が『最初の8種族』と呼ばれているらしい。獅子人もそこに入っていて、バートの屋敷のでかさに納得したよ。


「でも、昔のことでしょ? 獣族はいなかったの?」


 それを言うと周りの人が一斉に振り返った。

 俺、まずいこと言っちゃったかな?


「諸説あるが、当時から獣人が主流だったと言われている。種神を見つけたのも、有能な獣人だったらしい。次の部屋へ行くか」


 ゲイルも勧めるのでついていく。


(本当は獣族だったんじゃないかとも言われててな。壁画もわかりやすいように獣っぽくしてると言っているんだ。あれに反応する奴らは煩いから、ノールの苦手な奴らだぞ。)


 頷く。この問題は面倒そうだな。だが、気になっていたので1つだけ聞く。


(獣王国なのに獣族が少ないのも。)


(獣人族が下に見ているからな。多少いるのも他国よりマシだから程度だろうな。一応同等の扱いと言ってるが、同じにはなってないだろう。他国に行って考えが変わったよ。獣族と同じ扱いを味わえばわかる。)


 この問題は根が深いな。時間をかけてやってくしかないだろう。

 こそこそ話しながら進んだので、あまり見ずに2部屋ほど飛ばしてしまった。


「この部屋は?」

「ここから、神と英雄の部屋だな」


 なんとも大層な部屋だ。

 牙、くちばし、角。3種の特徴を持つ獣人?獣族っぽくもある人がいる。


「今見てるのが3英雄と言われる者達だ。『最初の8種』の中で建国に大きく貢献した者だ。この3人にも名前が無く、それぞれ『力』『知識』『繁栄』の象徴とされている。8種自体にも名前は無い」


 なるほど。名前が無いから余計に想像を掻き立てるのか。

 奥にあるのは、左から鳥・羽付き鱗人・最後に人。


「この鳥は、吉兆の神とも、不死とも言われている。この鳥が飛んだ方向に向かった祖先が、この獣王国の地を見つけた。真ん中が龍人と言われている。大地が生まれる前から存在し、獣人を作った神と崇められている。そして、最後が種神だな。龍人が『狩猟』で種神が『豊穣』とも呼ばれている」


 長髪で端正な顔立ち、背も高く威厳がある。それで惜しげもなく知識を与えて助けるなんて。こんな人がいたら完璧超人だな。


 端っこの方にも何体か石造がある。ツルハシ持った髭モジャと杖を持つ女性。


「土着の神だな。髭が地の神アズ。杖が空の神ズガイ。獣族の信仰が強く、一応置かれてるんだが……」


 後ろから視線がある。さっきの奴らか…たしかに面倒な人達だ。


「ここは良いかな。次行こうか」


 それで後ろからの視線も無くなった。

 次の部屋は、今までの部屋と違って警備員も多く、内装が特に綺麗にしてある。

 中心にガラスのケースが4つ。


「ここにあるのが神の遺物と言われている。左手側から見よう」


 鳥の大きな羽が1枚。燃えるような赤色をしていて、1m程の大きさ。こんな羽を持つ鳥ってどんだけデカいんだよ。霊峰のロック鳥より大きいんじゃないか?


「こいつがさっきの鳥の神。その羽だと言われている。ここの部屋にある遺物はどれも古くから保管されているみたいで、羽と龍人の物は大地歴以前からあるという説だ」


 その龍人のを見に行くと、鱗の盾と兜がある。ただしサイズ感がおかしい。盾は3m程もあり、兜も上下だけで70cm程の大きさがある。巨人が使ってたのか?


「でかいだろ? 龍人はこの盾より2回りは大きかったと言われている。息をするように口から魔法を放っていたとか。もしいたとしたら、敵にしたくないな」


 むしろ出会いたく無いな。次は小さかった。汚れたただの本。俺が昔使ってたのに似てるが、ところどころ焼け焦げた跡もあって、ギリギリ残ったという感じ。


「これは、種神が譲ったと言われる本だ。かなり前から中身はボロボロだったし、戦時に焼けてしまって、今は外装だけ繕ってるだけだな。ここの注意書きにもあるだろ?」


 確かに書いてある。ホーめ。ちゃんと見ずに進んだな。最後が服。


「これがお前のと似てる服だな。種神が着ていたとされるやつだ。お前がこの中で注目されるのも、その服来てるからだよ。目立たなければ……」


 ゲイルが説明してくれているが、こいつが気になって仕方ない。

 見覚えあるんだよね。

 特に素材が気になる。

 もっと近くで見たら……。


「おい。あんまり近づくと」


 やっぱり天の糸じゃないか?

 師匠以外にも作れる奴がいたのか。


「そこの君! 離れなさい!」

「ぐぇっ」


 引き倒されたようで、上を見るとゲイルの顔があった。


「おい! ちゃんと聞けよ」

「すまん。あの服に見覚えあってさ」

「君! 次、近づき過ぎたら追い出すからな!」


 警備員にも怒られてしまった。まぁなんとなくわかったから良いか。


「さっき見覚えがあったって」

「あぁ。形もそうなんだけど、素材がね」

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