第87話 バート邸2

「そろそろ外行くかぁ」

「そもそも、そんな大事な話でも無いのに、良い部屋使っちゃって。尻の位置が一向におさまらないよ」

「ダンテがここにしろって言ったからだな」


 親父さんの言葉がわからない。

 俺の頭の上には?が飛び交ってるだろう。


「さっきの弟だよぉ。客を迎えるなら、ここが良いとさぁ」

「そんなことはもう良いから、薬草畑見せてよ。あれは見応えあるね」


 じゃあ行こうと、早速向かった。






「これこれ! ソルトリーフ。やっぱり土が良いのかな? 土見て良い?」

「ちょっと待ってくれぃ、庭師に聞いてみるぅ」


 バートが使用人に申しつけると、数分で犬耳爺さんを連れてやってきた。


「坊ちゃん用事ですかい?」

「こいつが……。客が畑の土見たいってさぁ」

「はぁ。別に構いませんが……」


 それを聞けたらもう良いだろう。

 おもむろに土を手に乗せて見る。

 少しキラキラしているな。

 俺の予想通りなら……ちょっと味見。


「「「え?」」」


「ほうほう」


 庭師以外が驚いている。


「やっぱり塩入れてるんだ。他のやつに害は…。無いように囲ってるんだね。地下水の流れも……」

「土食ってたぞ!お前の知り合い大丈夫か?」

「うーん。変わった奴だからなぁ」




「何かわかりましたかね?」

「あなたが庭師であってる?」

「そうです」


 それはもう褒めちぎった。薬剤を一切使うことなく、ギリギリ枯れないように水の配分。塩分濃度で育てている。

 他の薬草は何度も見たことあるが、ソルトリーフは枯れたのしか知らなかった。イアさんからも貴重品と言われていたので、尚更感動したよ。


「ですからここの時期にちょっと薄くし始めて」

「それなら、虫が沸きそうだけど対応は……」








 気づくと夕方になっていた。


「ノール。泊まってけよぅ」


 バートの言葉に親父さんも頷いている。

 帰っても良いんだが、何度か言われてしまったので泊まることにした。


「今日は料理人が気合い入れてんだぁ。この国の料理を食わせてやるってなぁ」


 それなら楽しみにしておこう。


 案内された部屋には、すでに女性2人とダンテがいた。


「なんだ帰ってなかったのか」

「お2人から是非にと言われまして……」


ダンテはひと言多いやつだな。


「自慢の飯を食って貰いたかったんだぁ」

「獣王国の飯の良さを教えたくてな」


 2人がそう言うとダンテは黙った。


「そちらはまだでしたね。探索者のノールです。よろしく」

「バートの母です。よろしくお願い致します」


 とっても優雅な挨拶をされてしまった。

 バートの家も良家と呼ばれるんだろうな。


「妹のメルロです。よろしくお願いいたします」


 女性2人は俺より頭半分小さいくらいの身長。

 獅子というより、彪っぽいな。

 オーバさんが彪人だったっけ。


 それと、メルロさんにはもう一つ気になることがあった。

 水色の物体が多数、体の周りをぐるぐる回っている。

 良く見るとクリオネっぽい。

 羽虫の仲間かな?

 気になったので1匹釣ってみる。

 人差し指に魔力を貯めて、ちょんちょん飛ばす。


 反応したクリオネが動き出す。

 あとちょっと、1m程。



「何してんだぁ?」


 遊んでて周りに気づかなかった。


「ちょっと面白いのを見つけてね。バートの家系って魔法得意そうだね」

「母上の方はそうだが……。良くわかったな?」

「なんとなーくね」


俺の行動が気になるのか、ダンテが声を出す。


「兄上。やっぱりこいつ……」

「まぁまぁ。とりあえず飯食ってからだぁ」


 席に向かおうとすると、お母上とメルロさんがこっちを見ているのに気づく。

 紹介の時に遊んじゃったからなぁ。

 これは嫌われても仕方ないか。


 そして、出された料理は、なんと宮廷料理だと言う。

 バート達も久しぶりだと驚いていた。

 なんでも、料理長と庭師が仲良く、俺と庭師がよく話し込んでいるのを見てやる気になったとか。


「うちの料理長。腕は良いんだが、気まぐれでなぁ」


 とりあえずみんな機嫌が良さそうなので、良かった。

 弟くんも飯が気になって、俺に構ってる暇は無いのだろう。



「お待たせしました」


次々と料理が運ばれてくる。


「こりゃ、魂消たまげた」

「TAMAGE?わからんけど、喜んでるみたいだなぁ。」


 最初はテーブルでかすぎると思ったが、小皿が大量。しかも全部違う料理ときたもんだ。中国で何度かもてなされた満漢全席を思い出す。


「驚くのも良いが、温かい方がうまいのもある。食べよう」

「狩猟と豊穣の神に祈りを」


「「「「……」」」」


両手を組んで祈りを捧げている。


「さぁ、いただこう!」


 どれから食べようかと思ったが、こういうのってマナーがあるよな。

 後ろの使用人に小声で聞いてみる。


「すみませんすみません」

「何かありましたか?」

「この国のマナーを知らないんですけど、何かありますか?」

「でしたら、右手側の物から召し上がって、終わったら左に寄せてください。それ以外は内内なので細かくありません」

「ありがとうございます」


 聞いておいて良かったかもしれない。

 たぶんだけど、左から右にやったら相当失礼なことになるぞ。

 それはわかったから、早く食べよう。


 最初は味付け薄く、10皿ごとに少しずつ濃くなって行ってる。

 海山畑全部を一食に詰め込んだ料理達。数えること小皿の数50。

 一番のお気に入りは渡蟹の蒸し焼き。

 拳サイズの甲羅に、カニの身とカニ味噌が混ざっていて、炙ってあった。

 香ばしさと、濃厚なカニの甘み、ちょっと磯の香りも混ざったカニ味噌。全部が程よくマッチしている。

 途中から薬草類を混ぜて胃に優しいのも気に入った。


 全部食べ終わって、至福の時間。

 クリオネが数匹近づいてきた。

 お前達も飯食いたいのか?


 空いたコップに魔力を垂らすと、クリオネ達が飛び込む。

 あとは好きにしてくれ。


 メルロさんが、またこっちを見ている。

 もしかして、クリオネ返せってか?


【俺も満足した。お前達も飯食ったら戻れよ?】


「その言葉は初めて聞いたなぁ。何て言ったんだ?」

「あぁ。満足したって言ったんだよ」

「へぇ。それも故郷の言葉か」

「いや? ただの精霊語だよ」


「バートも面白い方と知り合いましたね」


 お母上の褒め言葉と受け取っておこう。

 そこで料理長がやってきた。


「お気に召しましたか?」

「もちろん。庭師さんと仲良いと聞いてましたが、納得の料理です」

「今日は私も楽しめました。バート様が詳しくなったのも、あなたがきっかけでしょうね」


 それは何を言ってるかわからない。

 むつかしいことは、ほかのひとに、きいてください。

 ニカっ。

 とりあえず笑っとけ日本人スマイル舐めんなよ。


「何かお礼したいんだけど」


 巾着をまさぐると、バートと親父さんに緊張感が駆け巡る。


「あった。これを」


 取り出した茶色の物体を見ると、2人からため息が出ていた。


「これは?」

「王国の一部栽培されてたドライスターです。香辛料に使うと良い香りになりますよ」

「似たような物をみたことありますが、それは食用では無かったかと」


 食べれない物を渡すつもりかと、1名から言われたので説明した。料理長も鱗人族の店で見かけていて、食べられないと言われたようだ。俺の時もそうだったが、食べれる種類は、言わないと見せてすらくれないことを教える。


「そんな物があったんですね」


 約1名、まだ怪訝な顔をしていたので、料理長の手のひらにあるドライスターを摘む。

 そして、指で小さく割って、噛んで飲み込む。

 こういう食べ方してもそこまで美味くは無いんだが。


「ほら。大丈夫だって」

「食べれることはわかりましたね!香りも良いので、使い道次第でしょう。これは料理がはかどります」






 その後は、ティータイムを挟んで泊まる部屋まで案内された。


「ふぃー。久しぶりにベッド見たけど」


 キラめしい部屋に華やかなベッド。

 天幕まで降りて、お姫様みたい。

 横になってみるが、寝れる気がしない。


 ソファに寝てみるが、覚醒したままだ。


 そこでふと思い出した。

 睡眠をずっと取っていないから、寝てたのは、気絶させられた時だけだった。




 結局、邸宅の屋根上で自然に紛れつつ、瞑想まで行かない程度に心を沈めていた。


 そこから見える景色は、屋根上で戦闘する者達。

 中心街の夜中は屋根上も騒々しい。

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