第77話 進化? いいえ。変色です。


 徐々に光がおさまってくると、中から1匹の鳥が現れた。

 一回り大きくなった足、鍵爪までついて凶暴になっている。

 緑、青、茶、黒、白等の様々な色合いのコントラスト。それに頭部には赤の差し色まで入っている。


「なんか見たことある柄だなぁ」


 ピィーーー!!

 凄まじい音量を出している。


「なんて禍々しい色合いしてやがるんだ」

「声までおぞましいぞ」

「やはり本当に悪魔だったか!」

「オレらが成敗してやる!」


 怖気付いていたチンピラ共も、やる気を取り戻すが、すでに鳥は動き出していた。

 鮮やかな羽を振りかざし、敵を斬っていく。

 そう、斬っている。


「なんて凶暴な……」




 騒がしくしてると、街から続々と野次馬がやってくる。


(どうした?)

(新しく来た奴らと争ってるみたいだ。)

(いつものか。)

(それが、今回は街道の悪魔とやりあってるらしいぞ!)

(そういえば最近そんな奴もいたな。)


 門の前で集まっていると、急に人が押しのけられていく。


「どくにゃ! 騒がしくし過ぎだにゃ! 門の前で何やってるにゃ!」


 ミーアが部下を連れてやってくる。


(魔鴨団だぞ!)

(目をつけられるとやっかいだ。)

(早めに離れよう。)

(もうちょっと見ていたかったが)


「何の騒ぎだにゃ!」

「どうやら街道の悪魔が現れたらしいよ。そいつとゴロツキが戦ってるみたい」

「さっき話してた奴かにゃ。あちき達が成敗してやるにゃ」

「見てくるだけって言ってなかった?」

「まだ会議も終わってないのに……」

「良いから行くにゃ! かかれー!」


 魔鴨団も参加して、ごちゃごちゃ。乱闘会場には総計100人程が入り乱れている。


「街道の悪魔はお前かにゃ!」

「ち、ちが! うわぁ」

「お前かー!」

「べつの……ぎゃ」




 新手がやってきたか。


「ジャン君! 何か来たから気をつけるんだよ!」

「でも、そのおかげでこっちは楽になったぞ」

 話す余裕が出来たみたいだな。


 そこに地鳴りを伴って、何人かやってくる。


「うにゃぁぁぁ!」

「どけどけー!」


 むむ!

 こいつらは勢いがあるな。


「ジャン君。相手は強そうだぞ!?」

「了解!」


 先頭の奴が俺に来たか。


「お前が悪魔かにゃー!!」

「悪魔じゃない!」

「む。これまでの悪魔とは違うようにゃにゃ?出来る悪魔にゃ」

「俺はただのおじさんだ!」

王子おーじとは大きく出たにゃ。ここではそんな階級も意味にゃいことを教えてやる!」

「話を聞かない奴だ。猫耳小娘め! かかってこーい!」





「首領と戦ってるやつうまいな」

「同じ棒術使いか」

「僕らが教わったのと似てるから、近い流派かもしれないな」


 そこに遅れて、白い魔鴨に乗った少年エルフがやってきた。


「なかなか戻ってこないと思ったら、結構苦戦してるね。相手は誰?」


「リンドルさん! 街道の悪魔らしいですよ?」

「うまい棒術使いで、良い勝負してるんですよ」

「棒術ね。どんな相手かな?」


 リンドルが目をこらすと、見たことある服が目に入った。確か作務衣とか言って、服のうまい奴が何着か作ってたっけ。


「見たことあるはずなんだけど、誰だっけなぁ?」

「リンドルさんの知り合いですか?」

「たぶんそうなんだけど……」

「じゃあ止めないと!!」


 そこに斧を持った少年がやってくる。


「なんで、ノールさんと首領が戦ってるの?」

「それだ! ノールさんだよ!」


 む?


「え? 呼んだ?」

「隙ありにゃ」

「……あふん」


 残心する少女の映像を最後に意識が途切れる。




 ◆◆◆



 なんと清々しい目覚めだろうか。


「良い朝だな。しかしここは?ブレーメンの探索者ギルドだな」


 最悪の印象を植え付けた場所だ。

 忘れるはずもない。


「今は魔鴨団のアジトの一つだよ」

「誰だお前?」


 エルフの知り合いは何人かいるが、もっと大人ばかりだしな。


「僕ですよ! リンドルです」


 そう言われても記憶に無い。

 手帳を取り出して探してみること15分。


「あぁ。ここにあったね。確かに知り合いだ。元気してた?」

「えぇぇ。思い出してすら無いよ」

「お前も忘れてただろ。おあいこだ」


 斧持った子がいる。


「オーインです……」

「ちょっと待ってね」


 再び手帳を見ると書いてあった。


「あった。んー? なんか覚えてるかも?」

「数ヶ月前会ってますからね。なんで首領2人揃って他人の顔覚えないんだ……」


 ふむ。

 苦労しているようだが、ちゃんとストレス発散しないと、体に来るぞ?


「んー。何してたんだっけ?」

「こっちが聞きたいくらいですよ!」

「付き添いの子は、先に南村へ行きましたよ?」

「南村だ! 調子も良いからすぐに行こうか。じゃあね!」


 長椅子からぴょんと降りて扉へ向かおうとするが、止められる。


「ちょっと待った!」

「何?」

「ノールさんのクラゲと鳥も連れてってください!」

「そういえば居たな」


 メサとオスクを迎えに行く。

 大通りに出たが、1本丸々静けさが漂っている。


「こんなに閑散としちゃったんだね。ブルーメンも大変だ」


 ピッピィィィ!

 ブルブル!


「メサか。それと君誰?」


 鮮やかな色合い、確かあれだ。


「オーシドリ!」


 ピピピィ!


「え? オスクなの?」


 そこで、バシっと拱手を見せてくれた。

 確かにその音と傾きはオスクだ。


「進化したのか! おめでとう! それでどんな種類なんだ? わからないの? そのうち詳しそうな人に聞いてみようか」


 オスク本人もよくわからないみたいだ。

 下半身は強化されているけど、足から上はほとんど色しか変わってないな。多少飾り羽増えたかな? これだと進化というより、変色だな。

 ブルブル!

 メサが早く行こうと急かしてくる。


「ここ飽きたの? 仕方ないな。ちょうど出発しようと思ってたところだよ」


 屋台に乗っかり、オスクに出発の合図をする。


「2人ともまたねー」





「主人より強い従魔なんて……、ノールさんはどうやって捕まえたんだ?」

「いやいや、主人を守らない従魔捕まえてどうするんだよ。まだ、僕らの魔鴨は従順だよ?」

「そうだな。それよりも、やっと店を開けられるな」

「あいつら出て行ったぞー!!」


 その声を合図に、建物から人がワラワラと出てくる。


「やっと行ったか」

「何でか知らねーが、ゴロツキ見分ける感がパネー」

「ここにはチンピラとゴロツキばっかりだからな」

「俺なんて、貴重な毒草全部食われちまったよ……とほほ」

「街道の悪魔はクラゲの方だったな」

「鳥は屋台で水出してきたぞ」

「俺も飲んだがうまかったな。その後クラゲに捕まったんだ」

「完全に罠だったんだよ。俺も騙されたぜ」

「しかし聞いたか? あの鳥」

「確かに聞いた」

「「「怨死鳥おんしどり」」」

「危険生物に2匹追加だな」



 _______________




「メサもオスクも機嫌が良いな」


 ピィィ!

 ブルブル!


「街の人に遊んでもらったのか。良かったな。ふむ。意外と犯罪者いないのかな?」


 道すがら2匹と色々話してると、寝ている間のことを教えてくれた。

 日が10回昇ったらしいので、10日も寝ていたことになる。その間にジャン君が出発して、先に南村へ向かって行った。それで、暇になったメサ達は街で遊んでもらっていたということだ。

 猫耳小娘も何度か見にきたらしいが、俺を見るたびに『誰こいつ』みたいなことを言ってたらしい。記憶力の乏しい小娘だ。

 知り合い?あんな奴いたかなぁ…。

 メモ帳を探ってみると、ミーアという名前をメサが指す。そんな子もいたような気もするが、猫耳娘の顔もオボロ気だ。次会ったら思い出すだろう。




 やっと半亜人村へ到着すると、俺に待ってたのは、怒涛の依頼完了サインと愚痴だ。

 来るのが遅いとか、目立つことするなとか色々言われたが、全部不可抗力だって。

 そんな俺の発言は誰も聞いてくれない。

 探索者達は足早に出発し、獣族達に夜まで叱られていた。


 やっと解放されたかと思ったら、ここの村長さんから言われる。


「アルゲン様に手紙を書いて欲しいのです。今日中に」


 やれやれ。

 モテる男はつらいぜ。


 ***********

  <オスク成分表>


   真鴨真

 鴨真鴨真鴨真鴨

  真鴨真鴨真

     鴨真

     鴨真

   鴨真鴨真鴨真   鴨真

  鴨真鴨真鴨真鴨真鴨真鴨

  真鴨真鴨真鴨真鴨真鴨

    鴨鴨鴨鴨鴨鴨鴨

      ダ

      チ

      ョ

      ウ

    オスク


     ↓進化↓




       オシ

      ドリ

   オシドリ

 オシドリオシドリ

  オシドリオシ

     ドリ

     オシ       ドリ

   オシドリオシドリオシドリ

  オシドリオシドリオシドリオシ

  ドリオシドリオシドリオシドリ

   オシドリオシドリオシドリ

       ダ

       チ

       ョ

       ウ

     オスク

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