第76話 街道の悪魔

「どこ行きやがったんだ! 良い獲物だと思ったんだがな……戻るか」


 俺たちの追いかけっこは丸1日続いた。

 夜になっても見えているのか、全く離れず追いかけてくる。何度か魔物をけし掛けてみたが、轢き潰すという言葉が合っているな。まさにダンプカーだ。

 一度距離を縮められかけたが、以前作っていた唐辛子パウダーのおかげで、なんとか突き放すことが出来た。

 それも夜が明けてつい先ほどのことだ。

 それほど遠くに行けて無いが、さすがにもう見えてないだろう。


「やっと撒けたか。やったねジャン君」


 遠くの草場からバレない様に覗き込む。


「う゛えぇぇぇぇ」


 どうやら気にしてるどころでは無いらしい。これだと、ジャン君が落ち着くまで動けないかな。


 太陽が真上に来るまでは動けなかった。

 さすがに、ジャン君は疲れていたのか眠っちゃってね。


「あれ? あいつは?」


 起きたみたいだね。


「ちゃんと逃げ切ったよ。危険な奴だったねー」

「まさか街道にあんな奴がいるとは……みんなは大丈夫かなぁ?」


 正直言うと分からない。


「まぁ、行ってみればわかるだろう。それよりここまで戻ったら南の街道超えていくしか無いよね」


 現在地は平原の南よりやや元王都側。

 そう言えば、トーマスが居た村が近かったな。


「ジャン君。俺の知り合いがいる村に寄っていこう」

「やった! 久しぶりの人里だ!」


 喜んでもらえたようだな。


 ……

 …………



 少しゆっくり歩きすぎたのか、近くの村に辿り着くと、夕方前になってしまった。

 村の門番も人手を増やしたのか、3人程で守っている。

 その内の一人が気づいて声をかけてきた。


「何者だ!」


 槍まで構えなくても良いと思うんだが、腕を広げて何も無いよアピールしておこう。


「旅の者でっす。今晩泊めてくださいー。あとトーマス君いますか?」

「なに? トーマスだとぉ?」

「あいつならつい先日ニールセンに帰ったぜ」

「おい! 勝手に言うなよ!」


 何か揉め事か?

 だが、ここにはいないのか。

 泊めてくれるかなぁ?


「ちなみにこの村の宿は全部埋まってるからね。野宿なら良いけど?」

「だから勝手に! まぁ良いだろう」


「ジャン君よかったね。村で寝て良いってさ!」

「いや……野宿だろ?」

「そんな細かい事気にするなよ」

「細かくねぇよ!!!」


 ジャン君の言葉は気にせず、寝床を探すか。



 少し広めの場所を貸してくれたので、一角に満天の星空を拝める簡易ベッドをこさえた。


「ここって厩舎の横じゃ」

「良い夜空だねぇ。僕は屋根上で星を見ながら休むよ! オヤスミ!」

「あ! おい! 逃げやがった」


 久しぶりに静かな夜になりそうだ。



 ……

 …………



「起きてんのか? 立ったまま目瞑って、どうなってるんだ?」


 ジャン君の声だ。


「やぁ。起きてるよ」

「うわっ! 起きてたか。そろそろ日が昇るよ」


 今日から、また半亜人村へ向かわないとね。

 日が昇ると同時に村を出発する。


「どうやって行くんだ?」


 それはごもっともな質問だな。


「街道を少しだけ進んだら、南に外れてから、目的の村へ向かおう」


 俺の想定だと、村2つ分進んで、そこから街道を外れると丁度良い。その先になるとゴロツキが増えて、絡まれるのが面倒になる。以前はそうだったから、最近のことは知らないけどね。




 だけど、想定通りにはならなかった。

 村1つ超えた辺りから、ガラの悪い奴が増えてきて、チラチラと見てくるんだよね。それも気になるんだが、そのガラの悪い奴らが、道端に倒れてるから困る。

 頬に赤い筋がついてるけど、鞭で打たれたのか?

 別の奴は3本線の入った紅葉腫れがある。


「さっきから、変だよな? これ大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないだろうけど、後ろからゾロゾロ付いてきてるのもなぁ」


 倒れている人が増えるのと共に、後ろを付いてくる奴が出てきたんだ。

 しかも後ろで、悪魔が出たとか言ってるし。


(あいつらの後ろなら大丈夫だろう。)

(俺らの代わりに餌食になってくれる。)

(良いか? 例の奴が出たら全力で走れよ。)

((おう。))


 ほうほう。

 それなら俺も注意しておこう。


「んー。何か出るかも知れないから、ジャン君も注意しててね」

「わかった」



 ……

 …………



 何事もなく、次の村まであと少しの所に来た。


「心配して損したな。何も無かったじゃないか」

「そうだね。まぁ、後ろの人たちが動きそうだけど」


「へへ。良くわかってるじゃねーか!」

「ここまで来ればこっちのもんよ」

「悪魔が居なけれ怖くねえ!」


 見た目も装備も貧相だが、度胸だけは自信があるみたい。

 だけど、詰めが甘いよ。


「君達には横から聞こえる音が分からないのかな?」


 そう言って平原を見る。

 ストーキング3人とジャン君も釣られて平原を見ている。

 豪快な地響きを鳴らしながら何かがやってくるが見えない。


「音だけか?」

「何もいねーぞ」

「騙しやがったな!」


 そこに2mサイズの影が南の林から飛び出し、3人に蹴りをかます。

 3人は、奇妙なうめき声と共に吹き飛ばされていった。


 くわぁぁぁぁ!

「やるじゃないか! さすがはオスクだ! タイミングをわかってるねぇ」


 30分程前からオスクとメサの気配は感じていた。

 ただ、動きが奇妙。あっちへ行きこっちへ行きと2匹ともフラフラしていたので、なかなか追いかけることは出来なかった。


「こんなところで何してるんだ? みんなはどうした?」

 くわっくわ!くぇぇ。

「そうかそうか。獲物を探してたんだな」

「兄ちゃん、それでよくわかるな?」

「なんとなくな。それよりオスクの屋台があるから水飲もうよ」


 そう言って荷物を下す。

 歳をとると体が硬くなってしまうな。

 肩や首回りがゴリゴリ鳴る。

 俺の後ろからもゴリゴリ鳴っている。

 ん?


 そこには半透明な軟体生物が、俺の背嚢から小瓶を出して削っている。


「おい。それ……」


 黒い粉を体に漂わせながら、ご満悦なメサ。


 あぁ…。


「大事なシワ茸がぁ」


 しばらく立ち直れないかも知れない。


「おい! この後どうすんだよ!?」


 何か聞こえるような気もするが、どうでも良いや。







 気づいたら、空に浮かぶ建造物が見えている。


「あれが、空飛ぶ城か」

「なーに言ってんだよ! ブルーメン着いたぞ! この後どーすんだよ。」

 あれ?

 屋台の上で仰向けになっている。

 誰かが乗せたのかな?


 くわわ!

「オスクが乗せてくれたのか? 良い奴だなぁ」

 ブルブル。

「なんだメサもいたのか……」


 んー?

 ん!?


「お前! 俺の大事なシワ茸をぉぉぉ!!!」


 屋台から飛び降り、すぐさま臨戦態勢。


「お前もやる気か! ここらで一度上下関係わからせてやる!」

 ブルブルブル!


「兄ちゃん、やめてくれよ! またヤバいの来たらどうするんだよ!? それに、全力出したら道も壊れるぞ!」


 一度休んだ俺は少し冷静なのだ。


「確かにあいつは危険だった。勝負はお預けだ」


 小心者の俺には、あの苦労をすぐに味わいたく無かった。

 プルプル。

 小馬鹿にしてるような感覚はあるが、今は無視だ。


「あれもこれも、帝国と聖教国が戦争なんぞするからだ。ふん!」



 街へは行かずにそのまま南に向かうが、近場の野盗共が寄ってくる。


「変な馬車あるぞ?」

「なんだぁ?」

「おい! こいつら街道の悪魔だ!」

「なんだと!」

「よくも仲間をやってくれたな」

「こんだけ入れば倒せるぞ!」


 どこかで恨みを買っちゃっていたのか。

 面倒なことになったが、全員で逃げるのは苦労するな。


 くわぁぁぁ!


「とりゃー!」


 なかなか良い勝負をしている。

 ここらのチンピラは、ベン君とオスクに任せれば良いだろう。

 そう思って俺はまた休もうとしたんだが…。

 なぜか魔物まで襲ってきて、乱闘状態になってしまった。

 俺は避けてれば良いんだが、1人1匹が少し劣勢だ。

 メサも乱闘に混じって蹴散らしてるが、1匹で大量に相手してるので、助けにくるのは無理だろう。

 ちょっと余裕作ってやれば勝てそうかな?

 助けに行こうとした時。


 くわっくわぁぁぁぁ!

 オスクの体が急に輝き出した。


「オスクめ! そんな新しい技を覚えていたのか!?」


 敵も味方も目がくらんで、動けない。

 いや、メサだけは今も倒し続けている気配がするな。


「くそ! 目が痛え」

「いきなり何だよ」

「何も見えねえ」

「完全にとばっちりだ!」


 最後のはジャン君だね。



 ようやく見え始めてくると、まだ若干光ってる物体がある。

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