第75話 ジャン少年の修行
俺とジャン君は、平原を修行しながらゆっくりと行進中だ。
ジャン君たっての希望で!
「兄ちゃん! この修行だと全然進まないんだけど!?」
「君が言い出したんじゃないかー。我慢しなよー」
「そうは言っても1日のほとんどが瞑想じゃないか!!」
「君が覚えたいのはそういう修行だよ?」
ジャン君は気の使い方を覚えたいと言っていた。
ブルーメンの子達も分担して瞑想してたなぁ。なんて思い返すと感慨深い。あの子達も、気の感覚がわかったら瞑想と戦い方ばっかり練習してたよな。
ベン君達は覚えたのが早い方だったから、最初に探索者になったんだろう。
「ベン君もやってたことだよ。本当は感覚を掴むのが一番難しいんだぞ?」
ジャン君もムッスリとしながらも瞑想に戻る。
「集中しないと意味ないぞ」
一瞬ビクリとしつつ、やっと瞑想に意識が向いた様だ。
俺は瞑想だけだったので、気の感覚がわかるまでかなり時間がかかっていたな。
こんなにマンツーマンで教えたのは初めてだな。いつもテキトーだったから、ある意味俺の成長になるかもしれない。
帝国人も気を使うみたいだし、覚え方をもっと聞きたかったな。教えてくれないだろうけどな。
しばらくはチョビッと進んで瞑想する日々が続いた。
見ていると段々瞑想したくなるが、ここは我慢だ。
日々の飯だが、食料は野草と持ってきた穀物だな。縮小化が役にたっていて、巾着にたくさんの野菜類が入っている。それを、ジャン君に多めに渡している。
渡す理由は、俺が飯を忘れるからだ。
瞑想に関わることをすると、どうもそれ以外の意識が薄くなるようで、1日飯を取らなかったことがある。ジャン君が目眩を起こしてしまったので、タイミングは任せることにしたのだ。
◆◆◆
10日程で、気配がわかってきたようだ。彼も優秀な人らしいな。
俺は昔から容量が悪くて、覚えるのに時間がかかっていたから、教えるの大変だったろうな。
「なぁ。今どのくらい進んだんだ?」
そう言われて記憶を探ってみる。
「たぶん……半分くらいだと思うよ」
「3分の1から半分まで10日って、倍以上かかってるよ?」
「そうか? 全体で1ヶ月で」
ちょっと考えてみたが、確かに時間食ってるな。
「3ヶ月くらい超えるか? その程度なら大丈夫だよ。」
「オレも仲間が待ってるんだけどー?」
「確かにそうか」
瞑想ばっかりしてたせいか、オツムが働いてなかったようだ。待たせるのは申し訳ない。だが、自分の足で進むならジャン君が耐えられない。だから、ジャン君の足を強化することにした。
「今日から修行を変えよう! 気を使った強化の訓練だ」
「うほほーい。やっと次のやつだ」
やる気があってよろしい。
まずは賦活を覚えてもらう。それだけでも、体力が上がるはずだ。その後に気の操作を教える。
「賦活は体の内側に気を巡らせるだけなので、簡単な方に入る。ただ最初は弱くやるんだ。徐々に体を慣らして行くと、だんだん気を流す量が増えても耐えられるようになっていくんだ。瞑想は弱い賦活状態に近いからな。みんな瞑想しているのは、それが理由だろ」
「なるほどなー」
「じゃあ、一回賦活かけてあげるから、その感覚でやってみるんだ」
試しにやってあげるが、体内で気が動かせていないな。歩きながらゆっくりやるしか無いか。一応こっちで操作してやることも出来るが、違和感が半端ない。俺もやられた感覚はあるが、その後に吐いてしまったよ。
夜になってジャン君が疲れているように見えた。
「大丈夫かい?」
「賦活って結構大変なんだな。軽くやってもらってたけど、これはキツい」
「いやいや、それは賦活出来てないからキツいのさ。出来る様になると楽だよ? ほら」
そう言って賦活してあげる。
「おぉぉぉ! めっちゃ疲れ取れるー!」
「じゃあ、ごはん食べたら少し瞑想ね」
「鬼かーー!」
瞑想は大事なんだよ?
ジャン君は疲れて眠っている。
完全に無防備だが、平原の中間超えてから、魔物の気配が増えている。夜中は意識向けてないと、寄ってくるから困る。
そこで従魔のことをふと思った。
「メサは警戒してくれたし、オスクも良く運んでくれていた。2匹とも結構役に立ってたんだなぁ。今回だけは逃げたの許してやるか」
呟きつつ、向かってきたウルフに丸めた土を弾く。
ちょっと強くやりすぎたか、キャンキャン鳴いて逃げてしまった。
そんな風に、敵意のある奴を追い返していたせいか、小動物が寄ってくるようになってしまった。
昨日はウサギだったが、今夜来ているのは……良くわからない生物だな。
手のひらサイズで、キツネっぽくあるが、もっと鼻は短い。猫っぽくもあるが、もう少しスマートな体型。
「お前の種族がわからんな。とりあえず『キツネコ』だ」
そいつらは2m程離れた場所で、10匹程で団子になっている。こういう新種を見かけると生態調査をしたくなるんだが…ここは我慢だ。
夜明け前になると、キツネコ達は起き出して近場の虫を食べ始めた。
その内の一匹が寄ってきて虫を渡そうとしてくる。
「俺は虫食わないからなぁ」
と言ってみるが離れないので、一応もらっておくか。
「ありがとう」
そう答えると、ピョンコピョンコ跳ねながら仲間の元に帰って行った。
「生態調査として、食事も確認しておくか、どれどれ」
綺麗な透明の羽だな。体はスマートで、意外と虫っぽく無いぞ?腕と足は2本ずつ。頭に髪のような…。
「羽虫じゃねーか! お前何してんの!?」
「ふぁ? もう朝か?」
俺とジャン君の声に驚いたのか、キツネコはそそくさと逃げて行った。
「なんだ? 手を広げて何かあるのか? 何もねーぞ?」
「見えない? 風精霊だよ。手の上で寝てるな」
ジャン君は俺の手を凝視するが見えない様だ。というか顔近づけすぎじゃないか?
羽虫が起きて目を擦ってる。
その羽虫がジャン君に気づくとビックリして、ジャブを繰り出す。
「うっわ! 目が!」
何だか記憶にあるな。
昔、目の検査をした時に、風を当てるやつがあったよな。
「眼圧検査だ。羽虫のその技は『眼圧検査』だな」
おぉ! 一個思い出した。
ちゃんとメモしておこう。
『眼圧検査』と書いて……。
その言葉が気に入ったのか、空中をくるくると回りながら、キラキラと魔力をこぼしてくる。
「痛く…は無いけど何だったんだ」
「だから風精霊だよ。顔近すぎてビックリしたんだな」
「確かに何かいたな。オレも見えるようになるかな?」
そんな疑問を言ってくるが、わからんな。
「どうだろう? 俺も瞑想してたらいつの間にか見える様になったしな」
「やっぱ瞑想かぁ。時間見つけて続けてみるよ」
やる気が蘇ったようだ。
「見える補償は無いから、期待しすぎるなよ?」
「わかった」
そこからはジャン君も修行に集中している。時々、気を流してあげているが、最初に自分で動かす感覚までが難しいんだよな。
やっぱり子供は覚えるのが早いのか、3日で動かし始めている。そして、街道に辿り着いた時には、賦活を覚えるまで至っていた。
「見慣れた道に出たね」
ジャン君もほっと一息ついている。
「仲間と何度も通った道だ。この街道に大農園を見ると落ち着くよ。それでここからどう行くんだ?」
何をわかりきったことを言ってるんだ?
「そりゃ。ブルーメンの横を通るんだけど?」
その言葉にジャン君は
「いやいや。人に会わないようにしてたんだから、そんな道通れるわけないでしょ。で、本当のところはどうなんだ?」
そういえばそんな話もあったな。
「ふむ……」
「まさか!? 何も考えずに通ってきたのか?」
人を指差すんじゃない!
「仕方ないだろ! 急に足止めなんてさせられたら、覚えたものも全部吹っ飛ぶわ!」
「最初から考えてなかったんだろ!? 孤児院いた時から、ちょくちょく考えなしに動いてたろ!」
街道のど真ん中で、お互いを
(なんだなんだ?)
(喧嘩か?)
(馬車通りたいんだけど……)
「一度その頭を叩いて記憶力を復活させてやる!」
「なんだと!? そんなことが出来るならとっくにやってるわ!」
とうとう取っ組み合いにまで発展すると、そこに男がやってくる。
「おいおい。殴り合いはやめとけよ」
2人して振り向くと、鎧を着た屈強そうな奴がいる。
「帝国から治安維持だと楽な仕事だと思えば、あちこちで喧嘩。この道はどうなってやがるんだ? しかも弱え奴ばっかりだ。くそっ」
そいつの通ってきた道を見ると、ゴロツキやらボロ服の野郎どもが、転がっている。
その癖、そいつの鎧には埃1つなくピカピカ。
ビンビンとアンテナが立ってしまった。
こいつはヤバい奴だ!
掴み合ったまま、ジャン君と顔を見合わせる。
「「お勤めご苦労様でーす!」」
脱兎のごとく走り出す2人。
ジャン君も、賦活を使って見事な走行。これなら着いてこれ無いだろう。
そう思って後ろを振り向く。
「ひゃっひゃっひゃ! 久しぶりの獲物だぁーーーー!」
嬉しそうに言ってるが、表情はまさに鬼。
俺らと同じ。いや、それ以上のスピードで走ってくる。
「ぎゃあああ」
ジャン君も発狂寸前。
しかもこのスピードじゃダメだな。
「追いつかれる! 運ぶよ!」
「ぶへぇ」
ジャン君を抱えてるが、衝撃が強かったのか少しえづいている。
しかし、止まったら捕まってしまうので、そのまま平原へ走り出す。
「人抱えてその速さかよ! 良いの見つけたぜぇ!」
「ぎゃああああ!」
俺は走って見えないが、ジャン君には何か見えていたようだ。
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