第74話 従魔2匹の小旅行

 *今回もおじさん不在回です。



 高橋とジャンを残し、逃げる時まで遡る。


「最速で行くぞ!」

「くわー!」(了解!)

 ブルブル(ちょっと置いてかないでよ。)


「くわっく。くえっくえ」(大事な屋台に傷がつかなくて良かったっす。)

 プルプル(本当にそれが好きなのねー。)

「くわわー。くっくわ」(初めて見た時からビビビッと来たっす。これだって。)

 プルプル。(その感覚はわかるわ。)




 **以後(副音声)でお送りします。**



「ところで、オスクちゃんは仲間と一緒じゃなくて良いの?」

「今は仕事中みたいだから良いんす。それより技術を磨いて、不足の事態に備えるっす」


 羽に気を載せながら素振りすると、一振りごとに、周りの草が切れていく。


「それって、当たったら結構痛そうよね。あたしの触手切れちゃうかも」

「いやいや、それは無理っす。姉さんって相当頑丈だから、オレ程度じゃ歯が立たないっすよ」


 そう鳴いて首をかしげる。


 コッコッコッコ!


「オスクさんの羽綺麗ですねー!」

「この羽が? そうかな?」


 バッサバッサ開きながら眺めてみる。


「食べてる物が良いからじゃない?オスクちゃんは、ミノールと同じのいっぱい食べてるでしょ?」

「いっぱいじゃ無いっすよ。それを言うなら姉さんだって」

「メサさんも良いの食べてるんですか?」

「あのニンニクってのは良いわね。食べると体が痺れるのよ。プツプツと何かが弾ける感覚がたまらないわ」


 触手をウネらせ悶えている。


「ニンニクはダメっす。臭いが危険っす」


 オスクは、羽でバツを作って猛抗議する。


「あぁ、ニンニクかぁ。うちらもリーダーしか食べられ無いんですよ」


 他愛無い会話をしつつ、足早に進んでいく。





 あたりも暗くなり、人々も野営の準備を始めだした。

「おつかれさまー」

「みんな良く走ったねー」

「後ろから結構押してくれて助かったわ」

「でも、なんで急いでたのー?」


 コッコ達も一日の疲れを癒しつつ、団欒だんらんしている。

 ベン達も野営準備に参加しているので、魔鴨達も休んでいるようだ。


「おつかれです!」ビシ!

「「「おつかれです!」」」ビシ!


 見事な敬礼で返す。


「みんなもやっと休めるっすねー」

「オスクさん!おつかれです!」ビシ!

「「「おつかれです!」」」ビシ!


 オスクも敬礼。


「それも板についてきたっすね」

「いやー。面白くて始めたら癖になっちゃって」

「街の仲間も人気が高いんですよ。ちょっとしたブームですね」

「行くとやり方教えろってうるさいんです」


『ブルーオルファン』の魔鴨達が、一度ブルーメンに戻った時。

 魔鴨団の前で敬礼したのが気に入られたようで、大鴨から小鴨まで敬礼を覚えていた。魔鴨達が覚えた後に、それを見た孤児達も敬礼を真似するようになって、挨拶の時は敬礼するブーム到来だ。


「この前教わった。これ」


 片羽を反対の羽で包む。


「あぁ!それもあるなぁ」

「これもブーム来ちゃうんじゃないですか?」

「ありえる!」

「ぼくらもまだ、主人に見せて無いよね」


 まだせわしない状況なので、後日落ち着いてから、主人に見せることとなった。



◆◆◆



 5日後、偵察に行ったりと忙しく、なかなか集まれなかったので見せられなかった。今日になってやっと集合できた。

 他の探索者と一緒に偵察し、報告のため『ブルーオルファン』が戻ってくるのを繰り返す。夜も入れ違いになったりで、大変だった。


「ぼくんとこの主人いないんだけどさ。いつまた忙しくなるかわからないから、居る主人に見せちゃおうよ」

「なになに?面白いことやるの?あたしにも見せてー」


 とメサがやってくる。

 この中でメサの行動だけはわからない。

 ふよふよと浮き上がったり、フラフラとあちこち飛び回ってるせいか、どこにいるかわからないのだ。


「メサさんの行動って首領と似てるよね」

「そうだねー」


 そう言われても気にした様子は無い。相変わらずフヨフヨしてたかと思うと、急に触手を伸ばして毒草を口まで運んでいく。


「時間無いかもしれないし、見せに行こうよ」


 ぞろぞろと魔鴨達が1列に並び、主人達の元へ向かう。

 一糸乱れぬ動きで、主人達の前に綺麗に整列し、息を整える。


「まずは敬礼!」(くえ!)

 ビシ!

「「「敬礼!」」」(((くえ!)))

 ビシ!

「3、2、1!」(くわっくわっくわ!)

「「「「拱手!」」」」(くわわー!)

 バサ!


 これには主人達もご満悦な様子。魔鴨達も成功を喜び、お互いに讃えあう。


「その羽の動き良かったよ」

「そっちこそ!」

「ちょっと羽音出した方がかっこいいね」

「今度はもう少し大袈裟にやってみようか?」


 わいのわいの鳴きながら、次々と案を出していく。教えるのがどうとか言いつつ、自分たちが一番楽しんでいるのであった。


 これを見たコッコ達もザワザワし出した。


「あれカッコイイ!」

「私たちも覚えてみようよ」

「リーダー! どうです!?」

「良いんじゃ無いか? やってみよう」

「早く教えてもらわないと」

「そうね。移動が終わったらすぐ出て行っちゃうかもしれないしね」


 コケコケ鳴きながら、教えてもらう算段をしている。

 その様子を見つつ、メサも少し楽しそうにプルプルしている。


「この前ミノールが教えてたやつね。みんなでやると面白そうね」

「姉さんも気に入ったんすか?」

「ちょっとね。でも、今は近場の毒物が気になるわ」

「相変わらず毒物が好きっすねー」

「これは種族の好みね。ニンニクが最高なのよ。早く次に育てる場所見つけなきゃね」


 そこにコッコリーダーが寄ってきて鳴いてくる。


「彼らは主人に褒められて嬉しいようだな」


 オスク達からは、魔鴨達は主人に撫でられて喜んでいる様子が見える。


「ところでお前さん達は、主人と一緒にいなくて良かったのか?」


 2匹して首を傾げる。


 ベン達の魔鴨もそうだが、気を通わせての従魔だと正式な主従関係は無い。ただ意思疎通がしやすくなっている為、同族の感覚に近くなっている。その為、オスクもノールと同じような関係で、命令されても聞く必要は無い。


 コッコリーダーの従魔契約だと、魔力の繋がりになる。そちらはもっと強い結びつきで、お互いに多少の制約がついてくる。それは人それぞれだが、あまり離れられないという内容の物も多い。感覚の違いは、そこにある。


 2匹は、ノールと一緒に居たことで、危機を感じやすくなっている。逃げ足と避けも一緒に訓練し、何かあったらすぐ逃げるという感覚が身についていた。それに一番の理由が、何も言われなかったから集団に従ったという、流れに身を任せた結果である。

 それを伝えると、コッコリーダーの太い眉にシワが寄った。


「そいつは、主人の教えに従ったということになるか……変わった奴の従魔になったんだな」


 コケッシャーという前後からの鳴き声が絶妙に残念な感じだ。


「そんなことを話に来たわけじゃ無いんだ。メサに用があってな」

「あたし?」

「うむ。実はついさっき小耳に挟んだ話でな」


 そう言って教えてくれる。

 南の街道には盗賊が多くいるらしい。ここまでは以前からあった話だ。ここからが本題になるが、実は盗賊というのは毒を扱うことが多いという。

 そんなことを言われてしまうと、メサは止まれない。


「オスクちゃん! 全力で街道まで行くわよ!」

「ラジャ!」ビシ!


 メサは魔力で強化し、オスクは気力を纏う


「あたし達は先に行くわね。みんな! じゃあね!」

「みんなにヨロシクっす!」


「目指せ街道! 獲物は盗賊!!」

「姉さん。どんなやつか知ってるんすか?」

「怪しい奴よ! 毒持ちの怪しいのは全部盗賊よ!!」


 破裂音と砂煙を残し、2匹と屋台が消え去った。

 1本のわだちが行き先を教えてくれる。

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