第27話 探索者生活5

 今、俺とメサは下水道の通用口に来ている。

 メサの食糧調達の為だが、最初の一歩が進まない。


「思ったより広い通路だが……汚い。気は進まないけど入るしか無いか」

「そう言いながら半時もそこに居るんだが。仕事だろ? 一回は入れよ」


 煩い番兵だ。ちょーーーーーっと様子見てるだけなんだ。行くよ?


 よし。

 なんとか入り込んでみるが、至る所に汚れがあって最悪の衛生状態だ。

 いくら下水だとしても、なんの対策もしてないのか? これは害獣が増えてもしようがないな。

 入り口付近は、他の受注者が倒しているのか気配なし。

 皆んな頑張ってるんだなー。ありがたいことだ。

 入って数分もすると至る所に嫌な気配を感じる。ちょっと多すぎじゃないか?

 昨日見たネズミが50cm程だが、今感じる気配は1mから手のひらサイズまで。

 しかも動きが獣じゃない。


 最初に向かってきたのは獣っぽいな。


「メサ来る。初戦闘だが期待してるぞ」


 1本の触手を振りかざすと、鞭のようにウネリながら5m程も伸びるではないか。

 そのまま打ち込むのかと思えば、魔ネズミに巻きついて楽々捕獲。

 捕まったネズミは、メサに引き寄せられる最中も逃げようともがいていたが、次第にぐったりして動かなくなってしまった。


「良いぞ! なんというスマートな倒し方。グッジョブ」


 しかし、ネズミは問題無いだろうが、この数と下水という環境。

 例の奴いるよな。退治は出来るけど、嫌悪感はある。

 ちらりと見えてる触覚とカサカサと這い回る音が鳥肌を作らせる。


 あー。まとまって来ている。


「次は集団だぞ。気をつけろよー」


 棒を持ち、下段に構える。

 メサは、プルプルと自信ありげだ。

 が、体内で魔力を動かし始め、いやーな予感が巡る。

 そんなデカイ水玉は!


「あ。あ。メサ待て、あぁー?」


 気づいた時には波の弾ける音が響いていた。

 間に合わなかった。

 ずぶずぶに濡れた服に何かの体液も付着している。

 しかも、まだまだ這い寄る音は止まず、このままだと2波目が来てしまう。


「撤退だ! てったーい!」


 と下水から脱出。


「メサ! もうちょっと倒し方あるだろう!?」


 気にした様子もなくフヨフヨ。


「もっと綺麗に倒してくれよ……。びっちゃびちゃのヌメヌメ。何か対策しないと」


 鼻を摘んだ番兵が苦笑い。


「ビッグローチの体液は臭いからなぁ。次は汚れても良い装備で来るんだな」


 そういうのは先に言ってくれよ!

 予備の装備なんて持ってないので、汚れると困る。

 メサの水魔法で洗い流したが、関節部分が取りきれないな。臭いはなんとか耐えられる。乾かす方法が無いので濡れネズミ状態で小屋に帰宅。

 結構見られていたが、慣れているような印象がある。

 俺みたいに汚れたのが、それなりにいるんだろうな。


 森で最初に作った作務衣が残ってて良かった。

 戻ってわかったが、俺には色んな予備が無い。

 着替えの服も装備も無い。あるのは食い物だけ。

 これを機会に、ちょっとグレードを下げても予備が欲しくなった。

 武器に詳しいノーリに相談かな。ギルドにいるだろうか。


 よし! 下水駆除は一旦中止!

 メサの餌は買えば良いだろう。魔ネズミなら燃やすレベルで探索者が狩っている。

 ビッグローチなんぞ食わせない! 俺が近寄れないからな。


 服を着替えると早速ギルドへ向かった。メサはお留守番。


 探索者ギルドの扉を開けて中に入ると。

 いつものカウンターは空席。セルジオさんがいないのは始めてだな。


 周りを見渡しても……。知り合いはいないな。

 改めて考えると、俺ってギルドの知り合い少ないな。こういう時は不便だ。


 とりあえず、セルジオさんが不在の時は、いつものカウンターに座って待つんだっけ。

 ガヤガヤと賑わっているな。


「この依頼良いんじゃねーか?」

「森熊? ムリムリ。最弱の熊系すら届いてないって。先にグラスボア行こうぜ」

「良いな。肉食えるし!」

「他に沼行きのパーティーいねーかー?」

「今日は北の街道調査だ」


 街の外の依頼受けるのかな。


「下水臭いし、あとどれだけやれば良いのよ!?」

「金欠なんだからしょうがないだろ」

「行くだけでも、最低報酬があるのはありがたいです」


 下水仲間がいた。お互い苦労しますねー。

 みんなパーティーなのか。羨ましいとは思わないが、いると助かるんだろうな。

 そんな風に考えていると高めの声がかかる。


「失礼します。ノールさんであっていますか?」

「あ。そうです。セルジオさんはいないんですか?」

「セルジオは、昨日から7日ほど緊急の出張となりました。引き継ぎの時間も無く出かけたので、空いてる職員が臨時で担当します」

「そうだったんですね。今日はちょっとした依頼を頼みたいのと、予備の装備を買おうと思って。良い場所知らないか相談しに来たのですが……」


 依頼の部分は真剣に聞いてくれたが、装備の場所を聞いた時は、一瞬嫌そうな顔をしていた。そういうの、気配でわかるんだけど。見なかったことにしよう。


「装備なら南大通りの『ボールズ商会』が良い物を置いてあって評判よ。私の担当もそちらで購入しているようだけど? 良いかしら?」


 うわー。言葉まで変わっちゃったよ……。


「アッハイ。アリガトウゴザイマス」


 そのまま依頼を伝えた。翌日から、魔ネズミを1日3体を3日間。ギルド付属の解体所で貰うことで受諾となった。依頼料が1日大銅貨2枚。

 態度はあれだが、ちゃんと依頼を受けてくれて良かった。


「次からは、セルジオが戻ってくるまで、他のカウンターに並んでちょうだい。そこの人が担当するから。まったく、全員個別担当なんて、セルジオとあと一人くらしかやってないわよ。じゃあねー」

「アリガトウゴザイマシタ」


 ふぅ。あれが普通の受付なのかな? 今までが厚遇過ぎたのかもしれないな。

 とりあえず、言われたお店に行ってみるか。


 _______________


 <その後のギルド内の一幕>


(あれってセルジオの草取りでしょ? どんな感じなの?)

(あれはダメそうねー。冴えない顔してるし、ちょっとおっさん臭い)

(服装も地味だものね。なんの話だったの?)

(従魔の餌を依頼してきたのと、装備売ってる場所聞いてきたのよ)

(このギルドに居て、装備店知らないって珍しいね)

(私の担当がよく行くっていう南大通りの店教えたわ)

(え? あそこ?)

(あ。人来ちゃった。また後でね)


(知らないのね……。まぁ、良いんじゃ無いかな)


 _______________


 ここがその店か。

 大通り沿い20mくらいの敷地だけど、店構えは結構立派だな。石壁で2階もありそう。見るだけでも楽しそうだ。入ってみよう。

 奥行きが結構あるな……。


「いらっしゃい」


 うおっ! 入り口にカウンターがあるのか。なんともやる気無さそうだが、軽くお辞儀をしておく。

 ちょっと店内を見てこよう。

 




 ところどころ素材が良さそうなのはあるが、微妙だな。棒と防具は無いのか?


「あの、武器用の棒と防水の防具はありませんか?」

「棒と防具が欲しいの? 見繕ってやろう」


 勝手に動き出す。

 良いの選んでくれるならと、後をついていくが……。


「こっちの棒はかしの木で作られているが、魔鉄のキャップ付き。この鱗鎧はスワンプリザードので、魔力付与もしているから、防水もばっちりだよ!」


 樫の木は確かだが、魔鉄ってなんだ? ただの鉄にしか見えないんだが……。鱗鎧も防水できて無いだろ魔力付与ってなんだ?


「君の装備だとこれからやってけないんじゃない? 今買わないと危険かもしれないよー。今なら合わせて金貨2枚!」

「たかっ! いや、今回はやめておきます」

「それなら棒だけでもどうだい? 金1で良いよ」

「ちょっと自分に合わなそうですし……」

「もう。しょうがないな。じゃあ大銀5で良いよ!」


 それでもいらないな。押しが強くてどう断ったものか。

 と考えていると。


「お前草取りだろ?」


 ニヤついたチンピラ風の男から声がかかった。


「どちら様ですか?」

「んなこと良いんだよ。こいつは良いやつだから買っておけ」


 厄介そうだな。どう切り抜けたものか。

 買わずに対応すると因縁つけてくるか。

 買ってなあなあにすると、ずっと鴨ってきそうだな。

 ネチっこそうな性格。今は買っておいて後で対応するか。


「では、棒だけ買いましょうか」

「じゃあ分割の契約書を」

「それには及びません。大銀5枚です。吐いたセリフは戻せません?」

「しょうがないな。はいよ」


 棒を受け取って帰ろうとすると


「ちょい待ちな。アドバイス料大銀1枚だ」


 ニヤつき男め。いや丁度良い。


「おかげでイイ物が買えたようです。大銀は2枚で。お名前を伺ってもいいですか?」

「へへ。わかってるじゃねーか。俺はバルザってんだ」

「では失礼します」


 ニヤつき男。右耳に傷、左手甲に斜線が入った盾のマーク。

 物が無いと思ってたけど、街の知識も無かったなー。


 どこに相談が良いかな……。やっぱ長命会かな。

 たどり着けなかったら、従魔ギルドに行ってみるか。


 忙しくなりそうだ。

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