第5話 閑話 ある仙人の話

 少し前に久米ちゃんから遠話で連絡があってのぅ。

 儂の鹿ちゃん達のおる山の近くに、龍脈があるんじゃ。どうやら、そこで瞑想しておる奴がおるらしい。鹿ちゃん達には害が無さそうだったから、放置しておった。その話ついでに久米ちゃんに会って、久しぶりに日本を見て回ろうかのう。


 日本漫遊して2年位じゃろうか。久米ちゃんからまた遠話があって、以前の奴が道士どうしに成り掛けておると言うじゃないか。ちょっと面白そうだから見に行くかの。


 件の奴に会ってみると、なかなかどうった瞑想じゃないか。やはり天然のほうが気のよどみが少なくて良い。最初、下手に教えを説くと気の淀が多いのが問題じゃ。多くの道士はそこから仙人へ足をかけることすら出来ぬ。

 2週程経つが淀まぬ。日本じゃから陰陽の家かと思ったが、まるで掛かっておらんな。終えたら少し話してみるか。



「ふむ。起きたか」

「どちらさんで?」

 こやつ瞑想中は澄んでおるのに、それ以外は冴えない顔じゃのぉ。あと失礼な念がビシビシ飛んでくるわ。初顔合わせじゃし、よかろう。


「儂は、寿老人じゅろうじんと呼ばれておる。道士どうしを育てることもあるのぅ」

 名前を言った後の驚きよう。儂を知っておるか。(ただの勘違いです。)

「ジロウジン! ドウシを育てると!? それは、よくこんな辺鄙な場所へおいでなさいました」


「おぬしには、仙人の才があるやもしれぬ。興が乗ったゆえ山のことを聞いてみるか?」

「私にセンニンに……の才が! ぜひ山の教えを」

 良き目をしておる。知識への欲か。まぁ、大丈夫じゃろう。


 しばし山のことを話してやると、熱心に聞きおる。特に山菜と薬に興味があるようじゃ。儂が菜食者と言うと驚いていた。日本では儂のことがどう伝わっているのか気になるの。


 とくと話してやると、奴は頭を下げ弟子になりたいと申してきた。天然と言えど、これから先は教えが必要か。少しずつ教え、仙に手が届きそうなら腰を据えて導いてみるか。太上老君に見せたら興が乗りそうだ。いづれ会わせてやるか。(後に会わせた時に本当に笑われてしまうことを、まだ知らない。)





 さて今日から修行初めだが。

「体内の気は感じておるが、自然はまだまだ時間が掛かるか。瞑想の才はある。ゆっくり知れば良い」

「はい」

「問題は、知識だが……。現代人は外の言葉を覚えぬのか。こやつが知らぬだけか」

「外国語に触れることが無かったので・・・。学び損ねてしまいました」(クソ! この爺さん何か国語しゃべるんだよ!?)

「これ! 邪念が漏れておるぞ!」

「はっ。失礼いたしました!」(真のジロリアンになる為には、海外も制覇せねばいかんのか! 何か国語でも覚えてやるぞ!)

「仕方ないか。言葉はどこかで書物を調達して覚えるが良い。音は……」

 こやつ、ちょっと頭があれゆえ・・・。術で手助けするか。

 ポコ♪

「いてっ! 杖で頭叩かないでください」

「ほほ、良い音じゃ。これで覚えが良くなるじゃろう」

 今までで一番覚えは悪いが、ゆっくりやるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る