第4話 閑話 ある狩人の話
俺の名前は
最近この村がちょっと有名になっている。と言っても、村ネットワークと農林関係者の中だけだがね。
何で有名になったかと言うと、山に天狗が住み着いたとか言うホラ話だ。笑えるだろう。面白そうだから、その山にいる奴に会いに行ったのさ。
会ってみれば何てことはない。作務衣を着た冴えない兄ちゃんだったよ。
ただ気前が良くてね。熊退治の後に、兄ちゃんが作った山小屋を猟友会に貸してくれるって言うんだ。結構しっかりした作りでさ、中に囲炉裏はあるし、20リットル位の密閉箱があって床下に埋めてあるんだ。しかも二重底で缶詰があるんだぜ。食料の匂い対策から、遭難まで備えてあるんだから魂消たもんよ。
あと一番良いのが、地図に熊と猪の目撃情報が乗ってるんだ。日付が入ってないから後で俺らが確認した日を書き込むんだけどな。
狩猟って始めるまでも大変だから、結構前からどんどん人が減ってるんだ。そのくせ高齢化で引退しちまうし、下が育たないわけよ。
そんな中、便利な山小屋が出来るし、初心者から中級者まで教えられるってんで、人が増えたわけさ。
今では「高橋さん」で「タカさん」の家にお参りしてから行くのが入山ルートだな。
そんなことがあって、この村がちょっとした人気なんだ。古民家の宿しか無かったんだけど、人が来るってんで、村の若手集めて猟友会も協力して旅館を建てたのさ。温泉も沸いて、皆んな天狗さんのおかげだって喜んでるよ。
ただ、ここの所ちっと雲行きが怪しいんだよな。去年から都心に何回か害獣が出て、怪我人も居たとかで、山の国有化とか猟友会の公務員化とか話が上がっているらしい。
その話を聞いてから、数日後に俺に話が来たよ。タカさんを最初の公務員として雇って、様子を見ようとさ。公務員の悲しい性か、省庁からの命令には逆らえないのよね。ただ猟友会の政治に関わってる人に相談して、出来るだけタカさんを守ってやろうってことになったんだ。
後日、タカさんと面会する人ってのが、農林水産省の官僚さんと陸将さんとか言うじゃない。かえってヤバいの来ちゃったかも!
山林や小屋の現地見学してる最中も、陸将さんは終始ご満悦。多過ぎず少な過ぎず、最低限なのが良いらしい。隊の訓練にも使いたいと言っていた。ただ本人は年齢と内臓が悪くて近々退役なさるそうだ。
官僚さんも前向きな意見なんだけど、小屋の管理を心配していた。犯罪者に使われないようにしないと、ヨソから突かれそうだとか。結局タカさんと話さないと決まんないってね。
家に着く手前にタカさんに会ったんだけど、何か若返って無い?しかも何かオーラが違うんだよね。怖い感じじゃないんだけど、深い森に入ったような空気感があるの。相変わらず顔は冴えないんだけどね。
話はとんとん拍子に進んだよ。土地は国に渡して、タカさんが住みながら管理する。農林と陸自で相談しつつ使うことで犯罪も防ぐっていう。
自分で使う分は採取自由になったから、手続きやら面倒が無くなって本人喜んでるし、結果オーライ!
帰り間際、タカさんが陸将さんに「胃薬です。良く効きますよ」と言ってニコニコしながら渡してるのが見えた。
タカさんって、たまに気が利くよな。
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