第41話 潜入! 特殊連携研究部
「お姉様が、そう仰るなら……そういうこと、だと思います」
話を聞いて、マリア嬢は少なからず動揺していた。
だが、それを押し隠そうと目を伏せる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいマリアさんっ! そういうことって、なんでそんな、他人事みたいにっ」
ソフィア嬢は真正面から攻め込もうとする。
逃れるようにマリア嬢は頭を振って。
「だって、ユリアお姉様が、仰ったんでしょう? あの方の言葉は――必ず、正しいんです。デイブレイク家の者として、現“
「でも、マリアさんも一緒に部活するの楽しみって仰っていたじゃないですかっ! ルシアさんやジェーンさんとも、もっとお話してみたいって!」
「……ど、どの部に籍を置いていたって、皆さんとお話はできますよ。それに、じょ、女学院では、実力を、磨くことを……第一に、考えないと」
取り付く島もないとはこのことか。
ソフィア嬢は唇を噛んで、言葉を継げずにいる。
……ユリア嬢との遭遇を終えて。
連れて行けと騒ぐソフィア嬢を伴って見舞ったマリア嬢の私室。
部屋の主は己の運命を受け入れていたように、溜め息をつく。
先日、俺がチョーカーを取り上げたときは、あれほど激しく抗ってみせたというのに。
偉大なる“
ふと気になって、口に出す。
「……ユリア様が率いているのは、特殊連携研究
俺の問いかけに、マリア嬢は小さく頷く。
「ある――その、
もしやと思ったが――そういうことか。
(ユリア嬢が、チョーカー使いの指揮や訓練を行っているから……マリア嬢にも、同じことを)
マリア嬢が言葉を濁したのは、ソフィア嬢に気を使ってのことだろう。
(あのチョーカーは帝国騎士団の機密だ。一度知ってしまえば、彼女も後戻りできなくなる)
なんだかんだで情に流されやすいソフィア嬢のことだ。
最悪、義憤にかられて俺の復讐を手伝うなどと言い出しかねない。
それだけは避けなければいけない。
俺が復讐を遂げた時、彼女はあくまで
(それにしても……マリア嬢だけならまだしも、他の学生にもチョーカーを渡しているとはな)
わざわざ機密漏洩の危険を侵すからには、何か理由があるのだろう。
チョーカーに対する適性の検査、あるいは使いこなすための訓練か。
いずれにせよ、アラステア大佐の目論見がどこにあるのか……それが分かれば、懸案だったチョーカー使い達への対処方法が分かるかもしれない。
「……家庭教師として、一つお願いをしたいのですが。よろしいでしょうか、マリア様」
「は……はい」
いかにも平然とした表情を保ちながら、俺は続けた。
「一度、特殊連携研究
迂遠な言い回し。
だが、二人は俺の言わんとするところをすぐに理解したようだった。
「それは……あの、構わない、と、思います……けど」
「もうっ、カズラ先生ったら、もうもうっ! そういうとこですよっ! そうやってすぐわたしを甘やかしてくれるんですからっ」
別にソフィア嬢のためにやるのではない。
部活の良し悪しなど、もののついでに過ぎないのだから。
それよりも、この機会にどれだけの情報が掴めるか。
場合によってはプランを早める必要があるかもしれない――
「それで、いつ見学に行きますっ?」
……は?
「わたしも色々準備がありますから、明日だと嬉しいんですけど」
俺は思わず、マリア嬢と顔を見合わせた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
聖クリス・テスラ女学院が広大な敷地を有しているのは、その一部を帝国騎士団と共用しているからだ。
というか、元は帝国騎士団のものだった施設や訓練場を女学院の施設に転用した、と言った方が正しい。
ここには、ダンジョンを模した訓練場や遠距離スキルの練習場はもちろん、医療スキルの訓練も行う治療院や過去の戦闘記録などが保管された大図書館など、次代を担う勇者を育てるための設備が整っている。
――特殊連携研究
文字通り森での遭遇戦などの訓練を行う場所で、危険な野生動物――もちろん
一部では、危なすぎて開墾できなかった土地に訓練施設という名前をつけたのだ、などと噂されているいわくつきのエリア。
通称“帰らずの森”の奥に隠された古い館。
ユリア嬢の案内で辿り着いた俺達は、長い歴史が刻まれた扉を開く――
(ここが……チョーカー使いの養成所、か)
建物自体はごくありふれたものだ。
重要なのはそこではない。
「ついてきてくださいね、カズラ少尉。
「……ええ」
一歩、また一歩と階段を踏みしめるたび。
これまで憶えたことのない感情がこみあげてくる。
怒り。あるいは痛み。それとも悲しみか。
とにかく、今すぐ階段を駆け上がって扉を蹴り開け、目についた男を縊り殺してやりたい。
犯した罪を噛み締めさせ、懺悔させ、許しを請わせながら、動脈を斬り裂きたい。
奴が何をしたか、俺から何を奪ったか。
理解させた上で息の根を止める。
「――先生? 大丈夫ですか?」
ソフィア嬢の指が、俺の肘に触れた。
俺は何かを口にして取り繕う――自分でも何を言っているか分からなかったけれど。
「問題ありません。……ええ。本当に、何も」
控えめなノック音のあと、
「失礼します、アラステア大佐。見学者をお連れしました」
ユリア嬢に促されるまま、俺は部屋に足を踏み入れる。
「来たか。君が、ローズ中尉の
その男は、執務机から顔を上げると、視線を投げてよこした。
白い軍服に撫で付けた白髪。
ただ一色、黄金の眼差しだけが半月のごとく鋭い。
「カズラ少尉です。この度はお時間をいただき恐縮です――」
唸りも叫びもせず、ましてや剣も抜かず。
俺は完璧な敬礼をしてみせた――我ながら奇跡のような忍耐力を発揮して。
「――アラステア・シリウス=ヴァイスハウプト大佐」
ついに俺は奴と向かい合ったのだ。
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