1週間前
受験まで時間がなくみんなストレスが溜まっていた。
私立が第一志望でもう受験が終わった人と週明けに第一志望の受験を控えている人との間に温度差があった。
「公立受ける人大変そうやな。俺らはもう遊ぶ以外やることないや。」
笑いながらそう言った近田竜我の声が静かな教室に響いた。
その瞬間近田に向かって椅子が飛んできた。
女子は悲鳴をあげた。
近田は椅子が飛んでくるのに気付いて避けたが、近くにいた霧倉の顔に椅子が当たった。
椅子を投げたのは渡辺智志だった。
彼の表情は今まで見たことがないくらい怒りを感じさせる表情だったがしばらくして真顔になり
「ごめん」
と謝って教室から出て行った。
霧倉は鼻血を出しながら俯いて席に座っていた。
「可哀想に霧倉有彩」
「誰かティッシュ渡してあげろよ」
「ざまあみろ霧倉」
俺は霧倉に声をかけてやりたかったが声をかけることができなかった。
「何があったん?」
南川先生が走って教室に来た。
この騒ぎを誰かが先生に報告したんだろう。
鼻血を出す霧倉に気づいた先生は霧倉を保健室に連れて行った。
霧倉の机は血まみれだった。
「稲崎、吉川」
保健委員会の鶴浜先生がいた。
「今日当番当たってるでしょ。昼休みあと5分あるから急いで行きなさい。」
今日は校内のハンドソープの補充をしなければならなかった。
あと5分で校内全てのハンドソープの補充なんて無理だろと吉川さんと言いながら補充用のハンドソープを取りに保健室へ向かった。
吉川さんとは同じ陸上部だったのでそれなりに仲がいい。
吉川さんもクラスメイトがいないところでは霧倉と話している。
「すみません補充用ハンドソープください」
「やっと来た。遅ーい。」
養護教諭の原川先生は補充用ハンドソープを棚から取り出し始めた。
霧倉はティッシュで鼻を押さえながら無表情でソファに座っていた。
ティッシュはどんどん赤く染まっていった。
俺が霧倉だったら絶対に泣いているだろう。
だけど彼女の表情は普段とまったく同じだった。
補充は5分で終わらず昼休み後の清掃の時間も補充をしていた。
部室のトイレへ向かうため運動場を歩いていた。
「有彩ちゃん大丈夫かな?」
吉川さんがそう尋ねてきたが俺は答えることができなかった。
「日に日にいじめ酷くなっていくよね」
俺は頷いた。
「稲崎くん、いつも朝戸くんたちといるけど本当は霧倉さんの味方でしょ?」
「まあ一応」
「卒業まで頑張ってくれるかな有彩ちゃん」
卒業まであと1週間、ここまで耐えてきたならあと1週間くらい余裕で耐えてくれると思った。
保健室に補充用ハンドソープを返しに行くと霧倉はまだ保健室にいた。
「稲崎くん、吉川さん、ちょっとここ座って」
俺らは南川先生に呼ばれて椅子に座った。
「昼休み何があったの?」
俺は答えていいのか分からなかった。
「近田くんの発言に渡辺くんがキレて近田くんに椅子投げたのが有彩ちゃんに当たって、、、」
吉川さんは正直に全てを話した。
「やっぱり転んだわけじゃないんだね」
南川先生は霧倉の方を見てそう言った。
霧倉はまた俯いていた。
その日、俺は放課後の補習に参加した。
帰る前にトイレに行っていると南川先生と副担の石田先生の声が聞こえた。
「あと1週間ですよ?もう放っておきましょうよ」
石田先生が怒っていた。
「放っておけないですよ!学校の力でどうにもできないなら警察に協力してもらうしかないですよ」
40歳男性の石田先生と28歳女性の南川先生は性格が正反対でよく揉めているのを見る。
2人が仲よく話しているのを見たことはない。
「校長先生だって知らないフリをしてなさいって言ってましたよね?」
「いじめも虐待も見て見ぬフリするなんて可哀想すぎます」
南川先生は本当に生徒想いの先生だ。
霧倉のことも必死に考えている。
「たとえあいつが死んでも知らなかったことにすれば俺らが責められることはないんですよ。あなたが警察に協力してもらったらいじめがあったっていうことになってしまうんですよ」
俺はもう聴いていられないと思って家に帰った。
「大丈夫?」
霧倉にLINEを送ったが翌朝になっても既読はつかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます