私の物語

彼と出会ったのは高校一年の春。桜が綺麗な並木道を歩いてた時、カシャッと音がした。

後ろを振り向くと道のど真ん中でカメラを構えている青年がいた。

上を見上げ真剣にシャッターを切っている。

私も上を見上げた。そこには雲一つない綺麗な青空が広がっていた。

そんな彼に惹かれ、最初に声をかけたのは私。

彼は空が大好きだった。

一緒にいる時は空の話ばかりだった。

でも、そんな彼にどんどん惹かれ、どんどん好きになっていった。

季節が夏へ移り変わった頃、私から告白した。

「付き合ってください、お願いします!」

恥ずかしくて、顔を上げられなかった。髪で顔を覆い隠すように下を向いた。

彼の長くて綺麗な指が私の髪を撫で、ゆっくりと顔を上げさせられた。

そして、カシャッと音がしたのと同時に彼はニコッと微笑んでいた。

「僕は好きなものしか撮らないんだ。こちらこそよろしくお願いします」

あの日も大泣きをした。まさかOKをもらえるとは思わなかったからだ。

そんな彼と過ごす日々は毎日が楽しくて、かけがえのない日々だった。

しかし、幸せな日々は続かなかった。

彼のお母さんから電話をもらいすぐに病院にかけつけた。

事故だった。

小さな子供が車道に飛び出したのを彼が助けたのだと。

聞いた病室に着くとそこには昨日までの彼はいなかった。

沢山の管で繋がれている彼を見て頭をよぎった。彼は死んでしまうのではないかと。

今は落ち着いていても明日死んでしまうのではないかと。

その日から毎日通った。

学校帰り、休みの日は一日中病室に篭った。

彼がはやく目を覚ますようにと祈りを込めながら毎日毎日通った。

願いが届いたのかその半年後。彼は目を覚ました。

奇跡だった。

ほぼ植物人間と化し、意識を取り戻すことは不可能に近かった。

私はまた泣きじゃくり、彼に抱きついた。

ぐぇっと蛙みたいな声を出しながらも抱きしめ返してくれた。

しかし、彼が目を開けていられるのは5分だけ。

その事実を知った時また泣いた。

彼に悟られないように毎日毎日泣いた。

彼の前だけは笑顔でいたい。5分だけしかいられない。1秒も無駄にしたくない。

それは彼も同じ気持ちだった。

そんなある日、彼からの提案で、晴れの日は屋上で待ち合わせをしたいとのことだった。

体力をつけたいとのことで、この日からリハビリも兼ねて徐々に体力をつけていった。

もう走れる頃になった時には私は屋上で待つことにした。

彼が私目掛けて走ってきてくれることが嬉しかったからだ。

そして、毎日紡いでいった。

まるで、空と太陽みたいに。

でも、空と太陽もいつまでも一緒にいられるわけではない。

私達の運命もいつか別れると予感していた。

それでも手放せなかった。彼が目を覚ましてくれると信じて空にも祈っていた。どうか彼と引き離さないでくれと。

でも、それも2年が限界だったのか。

いや、この2年で私は彼から沢山のものをもらった。

人を愛すること。愛されること。

こんなにも笑顔にさせてくれて、泣かされ、愛おしい気持ちを知った。

そして、さよならの意味も知った。

これは別れと共に始まりなのだと。

ここから、スタートするんだ。

彼と共に。

彼の葬式は青空だった。初めて会ったあの日みたいに雲一つない綺麗な青空。

空に向けて微笑む。彼の想いを乗せて…。

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空と太陽 星雫光 @okitaemiko

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