第12話 火花① ーbot軍戦ー
「奴らを捕らえろ。bot軍」
ピートーのその一言で数え切れいないほどのbotたちが俺に向かって飛んでくる。
俺は瞬時にbotたちを蹴りで返り討ちにするが、いかんせん数が多い。それにユミさんを抱いたまま戦うのはかなり動作の手段が狭まる。戦闘不能状態の彼女を守り切れる自信もなかった。
これは一度どこかに隠れなければ。そこにユミさんを置いて戦う必要がある。問題はどこに隠れるかだ。
周囲に見てみると、倉庫のような建物に目が止まる。少し距離はあるがまずあそこを目指そう。内部がどうなっているかわからないが、他に良さそうな場所もない。
「頼むぜアンクレット……」
立て続けに来るbotの間を掻い潜り、全力で地面を蹴る。bot軍の攻撃は避けれたら大したものじゃなかった。
「どこへ行くんだ。戦況は変わらないぞ」
ピートーの声も今はどうでもいい。とにかくあの倉庫へ行けと自分に言い聞かせる。
何とか倉庫の扉の前に着き、中に入り込む。幸いにも辺り一帯に張り巡らされたパイプらが死角となり、ここへ逃げ込んだところは見られていないはず。
倉庫の中にはbotの部品のようなパーツが保管されていた。腕や足、それぞれの部位が箱に入れられて積み上げられている。
万が一この場所が見つかってもいいように、その箱の陰にユミをそっと寝かせた。
「……ね」
静かな倉庫の中でも彼女の声は一度で聞き取れず、「え?」と聞き返す。
「やっと、タメ口に……なったね」
「いつ……ですか」
「ああ、戻……ちゃった。さっき……。『今助けるからなユミ!』って……」
言ったような気もするが、正直よく覚えていない。あの時はただユミをピートーから取り返すことしか考えておらず、言葉遣いまでは気が遣えていなかった。
「……嬉しかったよ。私たちの恨み、果たしてね」
ユミはそう言うと、黙って目を瞑り始めた。
「ユミさん? 何言ってるんですか!」
「大丈夫……。体力が回復したら……すぐ応援に行く。私も一蹴り入れなきゃ、気が済まない……。それまで……」
「ユミさん!」
完全に瞼が落ち、慌てて肩を揺さぶるが何も反応しない。まさか、と最悪の事態を考えたが胸が上下していることに気づき安堵した。
しかしやはり、HKMという奴らは許せない。何もしていない人を傷つけるなんて、どんな理由があろうと絶対にダメだ。
俺はユミの肩に優しく手を当てる。
「必ず、戻って来ますから」
イノヤマさんたちや第五の人らが俺たちの行方がわからなくなっていることにいつ気が付くかわからない。もしかしたら、もう探し始めているかもしれない。
だから、この場所に気づいてもらえるまでの辛抱だ。
それまで時間を稼ぐ。
倉庫を出ると、botたちがせわしなく移動していた。俺たちを探しているのだろう。
「おい! 俺はここだ!」
俺が叫ぶと、全てのbotが同時に顔をこちらへ向けた。
「来いよ雑魚ども。お前らがしてることが一体どういうことなのかわからせてやる」
アクセスと言ってランニング・アンクレットを起動する。そして勢いに任せ一番近くにいたbotを蹴り飛ばした。
飛んでいったbotは他のbotを巻き込みながら地面に叩きつけられ、動かなくなった。AIとはいえ機械だ。壊せば怖くない。
仲間がやられたことで突然bot軍の動きが活発になる。ロボットにそういう思考回路があるのかはわからないが、俺はそう感じた。
だが俺も仲間がやられている。だからやらなくちゃいけない。
次々に来るbotを力が増した脚で蹴りまくる。両腕を塞ぐものもないので自由に戦えていた。
しかし、問題は奴らの数。どれだけ行動不能にさせても次々と湧いて出てくる。むしろ初めよりも数が増えているようにも思える。
どうにかしなければ。
俺は地面を蹴り、高く飛び上がる。成功するかわからないがやってみるしかない。
上昇加速度が0になり、下へ引き付けられる。さらに足に力を入れ地面に叩きつけた。衝撃による痺れが脚を襲うと同時に、着地の衝撃波が周囲に広がり、周辺のbotが次々と行動不能になっていった。
上手くいった! だけどこれは脚への負荷が大きい。そう何度もできないぞ。
動かなくなったbotの上を次のbotが歩いてくる。
「キリがない……っ! 体力は無限にあるわけじゃないんだぞ!」
増えているのは気のせいではなかった。蹴りだけでは対処が追い付かなくなり、腕や頭にしがみつかれ、取り押さえられてしまう。
「クソ!」
身動きが取れないまま、botが俺を引っ張る。
「何する気だ!」
目の前に大きな建物が見えた。一人のbotがその扉を開け、俺は中へと連れ込まれる。
建物の中には巨大なモニター。そして逆光で黒いシルエットとなったピートーが存在感を放っていた。
「よく捕まえたな。ご苦労」
ピートーはボロボロな俺の姿を見ると口角を上げ、こちらへと近づいてくる。
「さて、これからどうしようか」
「……どうにもさせるかよ」
「その姿で? ぜひともどうするのか教えてほしいものだな」
そう言うと、ピートーは俺の両足からランニング・アンクレットを取り外した。
両腕、両足はbotに捕まれてもがくのも難しい。アンクレットまで取られてしまった以上、今俺に出来ることはなかった。
憎きHKMの幹部が目の前にいるというのに何もできない自分を殴りたかった。俺はこんなにも無力なのか。どうして……。
しかし、捕まったのは俺だけ。ユミは無事だ。彼女が回復して、助けが来ればまだ勝機がある。
「お、見つかったか」
俺を見ていたピートーの目が、後ろの方へ移る。それに釣られるように俺も後ろを見やると、botがユミを抱えてきていた。
背筋が凍りそうだった。
思いたくもないのに、もう終わりだと思ってしまった。だが実際終わったようなものだった。
「……リュー君」
彼女の口が小さく動いた。
もうどうしようもない。
俺がもっと見つかりにくい所を探していれば、と後悔に駆られる。
どうして。どうして。
「さて、お仲間は二人だけか?」
「いや、四人だ」
「二人だな。悪足掻きはやめておくことを勧める」
まだいると見せかけて、無駄に探すことに時間を使わせようという企みは叶わなかった。
ピートーはモニターの前に戻り、手元のタッチパネルを触り始める。
「そこで眺めておくんだ。HKMの力をお見せしよう」
巨大なモニターが四つに分割され、四か所の市街地の映像が流れ始める。そして、各々の空にコメントが現れる。
『SNS消防隊って名前だけじゃん』
『単独で乗り込んでHKMに捕まったってw』
『それは連携取れてなさすぎ』
『何それださ』
これは……まさか……。
俺たちの失態が、世間に知られていく。
しかし、言い訳のしようがない。これは間違いなく俺とユミの失敗だ。たった下っ端二人の失敗で、SNS消防隊が貶されていく。
イノヤマや、ヨシオカ。サイトウやノダに申し訳ない気持ちで一杯になる。
俺はSNS消防隊になんて入るべきじゃなかった。
この世界で生きようと思えたのに、俺の居場所はなかった。
『しかもなんか、助けた人からお金取るらしい』
『失敗しても取るんでしょ』
『なんか自作自演で金も取るらしい』
『え、それやばない?』
気づけば、虚偽のことまで書かれている。事実はまだしも、どうしてそんな嘘まで書き込まれなきゃいけないんだ!
「たったひとつのほころびで生まれた批判は次第に尾ひれをつけて誹謗中傷へと成長する。それが炎上というものだ」
焦る俺の様子を見ながら、ピートーは文字通りニタニタと笑う。
「お前たちは、どうしてこんなことをするんだ!」
「知りたいか? HKMの目的を」
ピートーの巨大な手が俺の顔を掴む。顔面が痛かった。
それでも俺は答えた。
「何の大義があって人を傷つけてるのか。理解はしてやらないけど、聞かせろよ」
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