第25話『ミーティング』
明日は『特別教室Ⅰ』の各班対抗の模擬戦ということもあって、モーガン先生の授業内でミーティングの時間が設けられていた。
他の3つの班は結構真剣に作戦を話し合っているようでワチャワチャしていた。
ゲゲイン君は班員の為に、データがみっちり書かれた自作の資料を持ってきていて、それをホワイトボードに貼ると棒を持って拙い日本語で作戦か何かを説明し始めた。
やはり彼の班はやる気満々のようだ。こちらも負けてはいられない。
ルーカス君の班の様子はほぼお通夜ムードのようで、いかに制限時間まで俺達の班から逃げのびるかを話し合っていた。
そして俺等の班はどうなのかというと、俺を中心に、ルクアとフランクの三人でいたこともあって、リリィや他の謎の女子二人がこの近くに席を置いて集まることになった。リリィはしれっとルクアの隣に行って、ドギマギしている。
「で、班長はだれにすんだ? 俺がやってもいいんだぞ。
俺がやろうか! いや俺がやる!!!」
とフランクが言った。
黒髪が逆立つほど興奮していて、普段涼やかな黒眼にも血管が迸っている。
「どうせこの班が勝つんだし、そもそも班長なんかいらないと思うけどなあ。まあやりたいなら君でいいよ。まじで誰でもいいしね」
と言った。当たり前であった。
班長なんか出来た所で、この班に意味は無いのだ。少なくとも俺を含めた四人は命令なんてものを聞かないのだから。
「班長は誰もやりたくないみたいだしもうフランク君で決定でいいかな」
と俺は手早く言った。
ルクアは納得がいっていないような顔をしていたが、他の三人はそれでいいようだった。
「っしゃァ!!俺が班長だ!!!」
と彼は一人だけ狂喜乱舞して万歳三唱をし始めた。
「よおし。じゃあもう班長は決まったしこれで終りにしよう!
――――こっから先は自由時間だ。散ッ……!!」
俺は早いこと終らせようとして言った。
良い感じに締めることができて気分が良かった。
「他のクラスのダチに自慢してくるぜェ!!!!」
フランク君は喜びすぎて教室を飛び出してどこかへ行ってしまった。
「ふっ、やんちゃな漢よ。さあルクアちゃん。僕達もどこかへ暇つぶしへいこう。もう学校は終りにして、街の方でランチでも……」
と俺が席を立とうとした所で、謎の女の子がバタンと両手を俺の机に置いた。もう我慢できないというような感じであった。
彼女は身長高めの美形の少女であった。
薄緑色の長髪のポニーテール。美しい切れ長の目の持ち主が、真剣な瞳でこちらを射貫いていた。
彼女のことを一言で言い表すなら………。
「……待ちなさい! まだ私達は何も話し合っていないわ。
班で集まって早々、貴方が勝手に仕切っているし殆ど貴方が班長のようなものじゃない。それと班長はリリィさんにすると貴方に渡した資料に書いてあったでしょう!」
と、謎の女の子が言った。
ちょっとびっくりした。
君の事を一言で言い表そうとしてるんだから少しくらい待って欲しかった。これからは時間を緩めてゆっくり考えよう。
ルクアは彼女の言い方が気に入らなかったようで眉をピクリと動かした。
にしても真面目だなあ……。
どうしてこんな真面目な子がこの班にいるんだろう。
そうだこの子を一言で言い表すなら、真面目ちゃんだ。思いついてすっきりした。
でもちょっと発言が遅れてたから、フランク君かもしくは有害レベル7の俺にびびってたのかな。有害レベル7の俺に。
あとリリィ、お前が班長だったのならもうちょっとしゃべろうか。
なんでフランクが班長でもいいやみたいな顔をしてたんだ。
リリィは俺に見られた事に気付いたのか、今更自分が班長だったのかという顔をし始めた。
「まあ~~~そうだね資料を見てなかった僕が100%悪い。
あと勝手に僕が仕切ってごめんね、もうしないよ。
じゃあフランク君がどこかに消えちゃったけど、もうちょっとここでお喋りをしよう。恐らく10分もしないうちに、生徒会の人間に怒られて戻ってくるはずだしね。
とりあえず班長はリリィで良いとして、君と、その隣で何か固まってる人の名前を教えてくれるかな。僕まだ君たちの名前知らないんだ。あーでも名前だけ聞くのもアレか……。そうだ。君から自己紹介してよ」
と俺はいうと、
「プリミアス=グレイよ。家の爵位は子爵。趣味はガーデニング。
得意とする魔術系統は風。今回の模擬戦だけの短い付き合いになると思うけれどよろしくね」
と真面目そうな子が名乗った。
もう俺に対して呆れ半分というような感じであった。
そして短い付き合いになると思っている所、残念なお知らせがある。
君がこのクラスでカーストを上げない限りは、班を作ったときに永遠に俺の所に来ることになるからな。
「……ティファニー=ランカです」
ランカと名乗る美少女は、桃色の髪で綺麗なボブの髪型をしていた。
静かめの声色や、「です」とか言ってる辺り、余り活発そうな子ではないらしい。
ピンク色の髪色の女子は、淫乱ピンクなどという不名誉なあだ名が付けられているから少し期待してしまった。
結局ランカちゃんは自己紹介をしてくれなかったが、名前だけは聞くことが出来た。少なくとも模擬戦の間だけは忘れないようにしておこう。
俺が言うようなことではないと思うがほんと皆、髪色自由なんだな。
全員の髪の毛集めたら虹でも作れるんじゃないか。
俺もルクアも地毛だし流石にこの歳で髪色で遊んでいるとは考えたくはないけど、絶対一人くらいは意図的に髪色変えてる奴いるだろ。
「じゃあ僕も自己紹介をしよう。名はリンクス、爵位は村人!
得意系統の魔術は……。
い、いや。だれも聞きたくなさそうな顔をしてるからやめとこう」
と俺は流れに乗って自己紹介をしようとしたけどあきらめた。
爵位は村人とか言った時点でスベって、皆表情が死んでたからだ。
唯一人を除いて。
「私はリンクスくんの自己紹介をずっと聞いていたい」
とルクアが物欲しそうにいった。
「ごめんねルクアちゃん。流石にこれ以上スベると間がもたないんだ」
危うくルクアに乗せられて自己紹介をしそうになったものの、すんでの所で押しとどまった。
そして俺はルクアに謝りつつ、グレイとランカの両方をみた。
それにしてもこの二人かァ……。
まあ順当に考えるならば、俺の班にいる二人の内の一人か、もしくは二人共が虐められていた対象だろうな。この班に入ってくるような人間はクラスのはみ出し物以外何者でもないだろう。全然俺の予想がはずれていたら、ただ単にインキャすぎてこの班にやってきた可哀想な人間になるだけだが。
最初は、こういう……子供がするような虐めなんかの問題は教師や学校が解決するものであって、仕事を奪う事になるからどうでもいいとは思っていたけど少し興味がわいてきたかもしれない。
単純ではない、どこか引っかかる点にだ。
フランクは「俺が来るまで虐めがあった」と過去形の言葉で言っていたことから、すでに解決済みであるような雰囲気をみせていた。
まだこの二人と喋ったわけじゃないから現時点ではどうとも言えないが、
少なくとも性格が終ってるわけではないらしい。
急に「友達になろう!」とか言いながら殴りかかってくるようなゴミだったら虐められるのは当然として、そうじゃないのに虐められるのであれば、やはり貴族という点が繋がってくるのかもしれない。これは一般的なものより、簡単にいく話ではない可能性の方が大きいはずだ。
俺が知り合い以外の人間に興味がないとは言っても、流石に虐めが行われていた現場にいる時点で、クラス内の空気の淀みを感じることはできる。
探偵時代に、虐め関連の事件は数件解決したことがあるからか、何となく、嫌な空気を察知する事ができるのだ。
まあ、今こんなこと考えていてもしょうがないし、とりあえずフランク君はやく戻ってこないかな。
俺以外全員女子とかいうやばいことになってるから、ルクアが少しずつ不機嫌になっていくのを感じる。やっぱ無理矢理ゲゲインくんかルーカスをこの班にいれるべきだったな。全部丸投げできたのに。
「あなた、班長が誰なのかすら知らなかったということは、初歩的な模擬戦の内容を何もしらないわよね?」
とグレイは俺に言った。
「うん」
「はぁ……教えてあげるわ。 もう二度と説明することはないからちゃんと聞いていなさいよ」
とグレイは腕を組んで、しょうがなさそうに言った。
彼女はお節介焼きみたいな感じだから、多分もう一度聞いても教えてくれるだろう。
「まず、1班の班長はルーカスさん。2班の班長はゲゲインさん。
私達は3班で既に言ったと思うけど班長はリリィさん。4班の班長は…セーデル。
場所はフォートナムメイソン王国とトワイニング王国の中間に位置する、クリストフル大森林。制限時間は9時~17時までの8時間。
明日、朝礼が終ったらこの教室から、皆でモーガン先生の転移門で移動するわ」
なんかそう聞いたら遠足みたいで楽しそうだ。
何だかぽかぽかしてきた。まだ不登校児ではなかった小学生の頃を思い出す。
もっと殺伐としたつまらないものを想像していたからな。
お菓子は何円までだったら持って行っても良いのだろうか。
「そうなんだ。グレイちゃん教えてくれてありがとう。ルールとかはわかっているのかな」
「私達もそこまで詳しい情報はまだ聞かされていないから、恐らく明日モーガン先生が教えてくれるわ。ただ、ポイント争奪戦とだけは言っていたのだけれど………」
ポイント争奪戦か……貯めたら何かの景品と交換してくれるのかな。
シールを集めたら、しょぼいお皿と交換みたいなことにならないといいな。
と俺は脳天気に思っていた。
「班長の俺が戻ってきたぞ!!!!!」
フランク君がドタバタしながら戻ってきた。
お前は帰ってくるのが遅すぎる。
最早、班長はリリィだと訂正するのも面倒だからリリィとフランクのダブルエンジンで頑張って貰おう。
そしてさすがに模擬戦は真面目にやろうと思う。
結果や成績の善し悪しなんぞはこの際どうでもいいが、どうせやらねばならないのであれば実りがあるものにしたいのだ。
森林……森林か……よし。
俺はもう心を入れ替えた。絶対に真面目にやるぞ。
「明日、アレを持って行こうか」
俺は制服の中に隠し持っている『3.5次元ポケット』を撫でながらそう呟いた。
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