第22話『浮遊するリンクス』


 ――――実は驚くべき事に、俺は【特別教室Ⅰ】という自分のクラス中で浮いた存在になっている。いわゆるクラスの腫れ物というやつだった。


 クラスメイトは俺と顔を合わせたときは、みんな基本的に目を伏せる。

本当にこれは自分としても信じがたいことであった。さすがに三ヶ月も経てばもう少し心の距離が近くなっているだろうと思っていた。現実はそうじゃなかった。時が経てば経つほど、彼、彼女らとの心の距離が遠くなっていくような気がした。


 ルクアに集団生活を送らせてコミュ力を上げることで、精神状態を元に戻すとかいう前に、まず俺がそれをできていない。


 そしてクラスメイトの心象としては、俺よりルクアの方が断然好印象だ。単純に可愛いから男子票が多いのだ。


 今、俺の友達は身内を除けば、フランク、ルーカスの二人しかいない。

このフランクやルーカスも中々、実はクラスで浮いているような存在だった。


 フランク君は友達としては面白いけど、本当に何を考えているかわからない男だ。俺に対して先生を煽るなよと笑って言いながら、授業中、モーガン先生に机を投げつけていた。まあまあ危険人物だ。


 ルーカス君はプライドが高すぎて、取り巻きの奴らか、もしくは俺等としかつるんでいない。死ぬほどイケメンだから、普通にしておけばモテまくっただろうに。


 たぶん、このクラスで浮いている三人は、半ば必然的に引き寄せられたのだ。友達候補としてはリリィも候補に入ってはいるが、彼女はずっと黙ったまま椅子に座っているだけだった。


 極め付けに俺はクラスメイトの名前をよくおぼえていない。覚えていても顔と名前が一致しないことが多々あった。


 

 昼の休み時間に入りお弁当を食べ終わると、俺は死ぬほど身体がだるくなって、机に突っ伏して寝ていた。


「昨日のモーガン先生の授業中、班を決めた後に、あなたとルクアちゃんが勝手に教室を抜け出してどこかへ遊びに行ったでしょう。次の【魔術演習訓練】でやることをこっちで全て決めたから確認して」


 クラスメイトの女の子がそう言いながら、用紙を俺に持ってきてくれた。

俺はそれを少し見てみたが、全く意味が分からなかった。



 そういえば、何かの班を決めて、何かをしなければならなかったんだな。俺と同じ班になったばっかりに……可哀想だ。


「あー、えー……ん、ぁぅさん、わざわざありがとう。お礼に今度、色と匂いが付いたトイレットペーパーの魔道具をあげるよ。あぁ遠慮しなくて良いよ、たくさん持ってるから」

 

 俺は名前の方を濁しながら感謝の意を伝えた。

わかりやすいように名札みたいなの付けてくれないかな。


「……私の名前覚えてないよね……あとそんな物いらないし、一緒の班なんだからしっかりしてほしい」


 と言って、俺の席の前からいなくなった。


 あれ結構良い代物なんだけどな……。


 そして俺は【魔術演習訓練】のことで本当に彼女を哀れんでいた。


 班を決めるときは、ランダムで選ばれない。

だから必然的に仲が良い物同士で組むことになる。


 一つの班に組み込むことができるのは六人までだった。

丁度、ルクア ゲゲイン ルーカス フランク リリィと俺の六人で同じ班にしようと思えば出来た。


 だが俺は真剣に魔術の勉強に取り組んでいるゲゲイン君とルーカスに迷惑をかけることになるだろうとわかっていたから、ルクアとフランクとリリィだけにしか声をかけなかったのだ。


  俺とフランク君がいる班なんて誰も来たくないので、彼女と後もう一人の子が同じ班になったということは、言葉が悪いが余り物だったということになる。



「あの女に何かあげようとしてたの?」

 とルクアが血相を変えて俺の所にきた。

まずいな、聞かれてたか。


「彼女にはただの社交辞令として粗品をあげようとしただけだよ。

ルクアちゃんにはとびきり良い物をあげよう。

『ゴブリンと話せる少年リンクス』の原本だ。

世界に一つしかない僕の自伝だよ。家に帰ったらあげるからね」


「~~~~~ッッ!」


 ルクアはあまりにも嬉しすぎたようで、声が出ていなかった。

あの本は俺が昔頑張って完成させたものだから喜んで貰えて地味に嬉しかった。



 五限目【魔術演習訓練】モーガン先生。


 闘技場のような広いスペースで、魔術を使った訓練がされようとしていた。この授業はかなり実践的な戦闘をすることがあるので、それなりに人気が高い授業であった。


「うーん。なんかお腹痛い。見学します」


 俺は一応、見学することを担任のモーガン先生に言った。

もはや形式的に言ってるだけだ。それが許可されようが許可されまいが、俺は見学する。


「……今回は見学だろうがかまわない。勝手にしろ。

だが次の魔術演習訓練は魔術を用いた模擬戦として、前に決めた班で動いて貰うことになる。小テストのようなものだ、次の学年へ進級するための点数に加算される。私はお前とルクアにはこの学校から消えて欲しいと思っている。しかしグレイとランカの二人は別だ。同じ班になった以上は、足を引っ張って他人に迷惑をかけるようなことはするな」



「わかってますよ。でればいいんでしょ。

模擬戦とかルクアちゃんがいる時点で結果はみえてますけどね」


 班で模擬戦とか何するかは分からないけど、ルクアに手加減するように説得するのは俺だということをわかってるのかこの先生。まあルクアが全く戦わなくてもリリィが潰してくれるだろうし、意味の無い模擬戦だよ。


 そう思っていたら、フランクが俺のほうにやってきて見学するといいだした。 

 彼は俺と同じサボり仲間だ。因みにルクアは先生に何も言わずに隣にいた。


 そして闘技場の端の方で、魔術を使うクラスメイトを眺めながら三人で中身の無い会話をしていた。


 その最中にフランクが少し興味深い話をした。


「俺よく知らねえんだけどよ。リンクスがこの学園にくるまで、このクラスでイジメがあったって聞いたんだよな」


「へーーー怖いねえ。この学校でもそんなんあるんだなア」

 俺は適当に返事をした。


「お前もいじめられそうになったら俺に言えよ!!俺もいじめられたらお前に助けを求めるからな!!!」


 と急に興奮して俺の肩をバンバン叩き始めた。

なかなか熱いことを言ってくれるが、お前は絶対虐められないから安心しろ。


 でも、俺はどうかわからない。いじめられたらどうしようかな。

急にワクワクしてきた。平民とか村人とか、それでどうのこうのいってきたり、魔術が使えないから云々で殴られるのかもしれない。

「お前のようなゴミクズは必要ない」とか「魔術の才能がない無能」とか「お前を追放する」とか「リンクス、お前このクラスから降りろ」とか「何やってんだお前ェっ‼‼」とか「首を突っ込まないでもらえるか」とか1000通り以上の展開がある。


 実際は、何かあった時は生徒会に駆け込んでアルストロメリアとかカストロにチクれば大丈夫だ。ゲゲイン君が生徒会に立候補するらしいから、もし彼が当選すれば俺が生徒会室に乗り込んでクレームを入れるまでもなさそうだ。


 それ以前にルクアがキレるよな…………だめだな、どうあがいても虐められる未来が見えなくなった。俺が何かをする前に解決してしまう……。

スカッとジャパンみたいなことをしたかったのに。

逆に俺に何か出来る人間とは何だろう。生徒会の人間にも屈さず、ルクアの圧倒的武力を怖れない人間……。リリィか。


 そういえば俺はすでにリリィに虐められてたな………。

やっぱりイジメは怖い。

人形にされて誘拐されたり、腕切り落とされて腹も蹴られたわ。

あれ以上のことをしてくる奴は二度と来ないだろうけどな。


 なんだかんだでその日の授業も無事に終った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る