【閑話】ジャバネッド・リンクスのとある一日

 出稼ぎ労働者として、何とかして金を手に入れなければならなかった俺は商店街の片隅で商品アドバイザーという魔道具を宣伝し売りつける仕事をしていた。


 俺とゲゲイン君は魔道具製品組合の正式な一員となり、商品アドバイザーとして魔道具を取り扱う店を転々としながら実演販売を行っていた。


 この日、いつもはゲゲイン君が手伝ってくれているのだが、昨日の朝「明日と明後日は休みたい」と言われて、代わりにルクアが手伝ってくれることになっていた。


「うわぁ!この女の子魔王みたい!!変なオーラがでてる!!」


 と魔道具店の前で休憩に入ろうとしていたルクアに、少年が言った。


 この周辺に住んでいるくそガキだった。


 ガキが…潰すぞ。


 俺はびびってルクアの顔色をうかがうと、何も気にしていない様子だった。というよりは、眼中に入ってすらいないようだった。


「コラコラコラ、女の子に対して魔王はないでしょ。 えぇ、ええ? 

君、保護者は? このことは僕からきちんと親御さんに言っておきます。家でしっかり怒られてください」


 と俺は叱っておいた。


「商品なんとかのジャバネッド•リンクスさんだ! 

あれやってよ!あれ!! ジャーバネッド、ジャーバネッドってやつ!」


 と言いながら少年は店の外から汚い雑巾を俺に投げつけてきた。

水気のある雑巾は地面にべたりとへばりついた。


 恐らくこの少年の親が、この雑巾でどこかを掃除させる為に渡していたのだろう。


 しかもこの投げつけられた汚い雑巾。

この仕事のプロの俺に、商品アドバイザーごっこをやれと言う意味だった。


「………」


 良いだろう。受けて立とう。――――プロとして。

昔のヨーロッパでは、決闘を申し込むとき自分の手にはめていた手袋を相手に投げつけるらしい。

決闘者デュエリストである俺はそれだと受け取った。


 デュエルスタンバイ!!




「さあ! みなさんご注目ッ! このただの汚い雑巾。


実はこれ、みなさんお馴染みのあのクリプロ社から出た新商品なんです!

その名も『み〜んな取れるクリーナーⅡ』


五年前に金賞受賞ベストセラーとなった『み〜んな取れるクリーナー』に改良に改良を重ねて、ついに完成となった清掃道具の完成形!


どれだけゴシゴシゴシと拭いても削っても落ちなかったキッチン汚れ。

一つの汚れに悪戦苦闘して気づけば5分が経っていたなんてことありますよね〜〜?

しかしなんと!み〜んな取れるクリーナーの手にかかれば際どい油汚れ、奥の奥の隅の汚れまでスイスイスイ〜〜ッとこの通り!!


『み〜んな取れるクリーナーⅡ』ならば、親の仇を討つように、隅々まで! 憎い汚れを拭き取ってくれるのです!!! 


そして今、二点セットでお買い上げ頂いた方にのみ、更に持ち運びが楽になったこの、『み〜んな取れるクリーナー mini』をお付けします!

ただいま注文が殺到しております!お早めにご注文をお願いします!」



「ちがう!!!いつも歌ってるジャーバネッドってやつ言って!!!」


「やかましい馬鹿野郎!!!帰れくそガキ!!今から休憩タイムだ!」

 俺は雑巾を投げつけて、少年を追っ払った。

あの歌はルクアがいるときは恥ずかしすぎて出来るわけがないだろ。



「あの子供が目障りなの? リンクスくん」


「あっごめんねルクアちゃん。なんでもないよ」


 しかし今はとても気分がよかった。

昼休憩だ。ルクアが作ってくれたお弁当を一緒に食べるのだ。


 毎日、仕事に行くときはルクアがお弁当を作ってくれていて、俺一人か、もしくはゲゲイン君と一緒に食べることが多かったのだが、今日はルクアがいるから一緒に食べることが出来る。


 そしていつもより気合いをいれてお弁当を作ってくれたようだ。

俺は朝からずっと、このときを非常に楽しみにしていた。


「もう時間だしお昼にしよう」


 そう言うと、ルクアはとてもいい笑顔になった。


「そうだね!!」



 俺たちは店の裏手の方に回って、ルクアが持ってきていたお弁当を開いた。



「凄い!!!」

 俺は大きなお弁当の中身を見て、驚愕した。


 みずみずしく緑鮮やかな野菜、焼き加減が素晴らしく程よく赤身が見える四切れのステーキ、添えられたパン、オレンジ色のソースがかけられた真っ赤なロブスター、レモンの香りがする魚の白身。それぞれが計算し尽くされた位置で配置され、弁当の域をこえた芸術品かのようにみえた。


 いや凄いな。

いつものお弁当もかなり豪勢だったが今日はやばすぎる。

前にスクランブルエッグをルクアに作って、イキってた俺が馬鹿じゃないか。



「今日はリンクスくんの為にがんばって作ったんだよ」


 とルクアは、目をときめかせながら言った。


「ありがとうルクアちゃん! 凄く美味しそうだ。 

あ、食べる前に、ナプキンを膝にかけようね。マナーだからね。

じゃあ、一緒にたべよう! この世の全ての食材に感謝を込めて、頂きます」



 そして俺達は前菜、魚料理を口にしながら、ルクアとわちゃわちゃ喋って実に楽しく美味しい時間を過ごしていた。


「リンクス君……私がお肉をたべさせてあげる……はい、あーん」


「ごめんねルクアちゃん。僕もめちゃくちゃそれをして欲しいんだけど、マナー的に駄目なんだよ。 今度僕からも何かの手料理を……」


 そう言いながら俺は姿勢を正し、ステーキを一口分をテーブルナイフで切り取って、それを口に運ぼうとしていた。


「リンクスさん!!!!ちょっといいですか!!!大変なんです!!!」

 と同じ商品アドバイザーの仕事仲間が、俺とルクアの聖域に土足で踏み込んできた。ぜえぜえと息を切らしている。


「ああ、はい今は確実によくないですね。ぶち殺しますよフグジマさん。

みたらわかるでしょう。ルクアちゃんとお昼休憩中です。この至福の時間に割り込まないで下さい」


 俺はちょっと腹が立って言った。


 昼休憩、しかもルクアと一緒にいるときは何があっても話しかけるなと言った筈だ。これは俺が困ると言うより、急に話しかけて二人の空間を壊した奴がルクアに何をされるかわからないから安全のためにいってるのだ。



「……スマイルマジック社から、実演販売依頼が来ました……」


 それを聞いたとき、俺は愕然として口に運ぼうとしていたフォークを膝の上に落とした。ナプキンに染みがついた。食事中に落とすのはマナー違反だ。


 は? ……クソがクソがクソがクソがクソが!!!

またあそこから仕事を持ってきたのか! これで三回目だ。

ふざけるな。まじでゴミみたいな魔道具しか作れないクソ企業早く潰れろ。

俺があのゴミクズ全部売り切るまでどれだけ苦労したか知らないだろ。


 俺は悪夢のような体験をすぐに思い出した。

今日という素晴らしい日がスマイルマジック社によって破壊されたような気分になった。


 スマイルマジックが製作した魔道具は魔術回路がいかれてるから、まともに起動しないのは当然として、この前の宣伝中、魔道具の使い方を実演披露してたら、急にネジが飛んできてそれが目に入りかけた。なんとか時間減速でかわしたけど……。

 購入者に同じ事故が起きないように、昼の休憩時間を多めにとって、俺とゲゲイン君で必至に分解して修理したんだぞ。


 それでも依頼を断れない理由。金払いが異常に良いのだ。

利益になっているか怪しいほどに。


「うちの組合でこの依頼を達成できるのは、リンクスさんしかいません!!

どうか今回もお願いします!」

 とフクジマさんは、土下座して頼み込んできた。


「どれくらい向こうは金を積んできましたか……」

 

「2は確実です………前と同じでノルマ達成で倍以上になります。明日に現物が届くので覚悟を決めておいた方が……」


 200万は確実なのか。

非常にまずいな。今回に限って、今日と明日はゲゲイン君は有給休暇とっている。今頃パチ屋で籠もっているだろう。


 ルクアはたまにしかこの仕事の手伝いに来ないから、戦力として数えてもいいのか不安だ。今までも俺はルクアに負担をかけないように簡単な雑用とかしかさせたことがない。


 しかし、ルクアが手伝いに来てくれた日は客がいつもより二倍以上に膨れ上がるという利点もある。しぬほど可愛いからだ。そういうのは利用しているような気がして俺は嫌だが。


 向こうが提示してきたノルマも、かなり高難易度だ。

『その日の内に完売させる』『商品購入者からのクレームを0にする』

主にこの二つが厄介だ。俺を潰しに来たとしか思えない。まさにプロショッパーリンクスに対する挑戦だ。


 そもそも、どれだけ良い魔道具でもその日の内に全て完売させるのは難しいのだ。仮にそれが達成できたとしても、購入者からのクレームがある。


 今回の魔道具……非常に癖が強い代物だろうな。

俺一人じゃ、明らかに手が足りない。前回と前々回は超主力のゲゲイン君と俺がたまたま組んでいたから、どうにかなったのだ。

ルクアには雑用じゃなくナビゲーターとして手伝って貰うしかない。


「どういう系統の魔道具かは知らされていますか?」


「市場に変革をもたらす程の画期的な殺虫剤、らしいです……」


「わかりました、連絡下さりありがとうございます……」



 俺は数秒、固まっていた。


「リンクスくん、どうしたの? 」


「ルクアちゃん、お昼を食べたら、一緒に図書館に行こう……今日はもう仕事は終わりだ。殺虫剤の魔道具に関して調べに行くよ……

あとやっぱり、あーんをしてほしい」


 今日、販売していた魔道具は後回しだ。

色と匂いが付いたトイレットペーパーの魔道具の宣伝なんか、そんなものは後でいくらでも出来る。


 この程度の事で、一々『攻略本』を使いたくない。

俺とルクアは魔力を扱うことができないから、充電できる機会が限られているのだ。冒険者組合にいけば、兄貴が充電してくれるから良いのだが……。



 昼食を食べ終って、街にある図書館へと向かった。


 そして、図書館の中で俺は必死になって虫と魔道具に関する本を十冊以上引っ張り出して読み込んでいた。明日にどういう魔道具を作ってくるか予想を立てて対策をしなくてはならない。これまで殺虫剤の魔道具は幾つか扱ったことはあるが、どういう仕組みで出来ているかなんてわざわざ調べる必要がなかった。


 恐らく這う虫ならばゴキブリとか蜘蛛、ムカデ、飛ぶ虫なら蚊とか蝿に効果がある殺虫剤を出してくるはずだ。実演披露するときに虫がいなくては話にならないから深夜に俺が虫かごをもってその虫達を捕まえに行くのだ。



 俺はまず最初に、一般的な殺虫剤が昆虫の神経系に作用する速さから調べていた。


「全部理解したよ」


 まさに俺が読み始めて五分も立たない内に、ルクアは突然そう言った。

俺が引っ張り出して後から読もうとしていた本の全てを知らないうちに読んでいたのだ。


「うん?? ぜっ全部!? この魔道具工学と昆虫大全も!?」


 ルクアは俺と違って絶対に嘘を言わない。

彼女がそう言うならそれは真実なのだ。そして彼女のステータス、【知能】はもの凄く高い。この少ない時間で全てを理解したと言われても信憑性がある。


 ルクアが全てを理解したということは………。


 俺は少しの光明を感じ、もう一度作戦を練り直すことにした。



 夕方になり図書館が閉館時間となり、宿に帰った。

明日を控えて俺は胃が痛くなった。何しろこの依頼の難易度が高い、そして高額な金も積まれている。プロとして、失敗は許されない。


 ――――そう、俺はプロなんだ。プロの商品アドバイザーとして、最高の実演販売で、完璧な状態の魔道具をカスタマーに売りつける。例えそれがゴミであろうが、プロである俺がダイアモンドに仕上げる!


 そう覚悟をしながら俺は夜中、ルクアが寝たのを確認すると虫取り網と虫かごを持って夜の中に消えていった。



 *



 翌日、魔道具店の中で店長と共に待機していると、ようやくブツが届いた。大きな物音がしたと思ったら、大量に山積みになった商品が、店の前に放置されていたのだ。


 俺は早速この殺虫剤の説明書を開いて、確認してみた。


 製品名は『虫特攻ソルジャーX』。希望小売価格2600円。

効果の対象となっている虫は、蝿、蚊、アリ、ダンゴムシ……以上!! 

よくこのラインナップで挑もうと思ったな。どうやって市場に変革をもたらすのかは知らないが、ある意味画期的だ。


 運が良いことにそれなりにこの魔道具のデザイン性はよかった。

黒い缶のボトルに長いトリガーノズルが付いてあり、そこに作動スイッチがあった。


 俺はテスト品と書かれた箱の中から、殺虫剤を取り出して何回か、ルクアと実験をすることにした。 そしてそれを分解し、内部構造をルクアに見せた。

 

   *



 いつものように店頭で午前中の実演販売が始った。


「皆さんおはようございます、わたくしナビゲーターのルクアと申します。そして商品アドバイザーのリンクスさんです どうぞ」

 とルクアがたどたどしく言った。


 俺はナビゲーターであるルクアに予め台本を渡しておき、それ通りに台詞を言うようにお願いしたのだ。


 だが基本的には俺が喋ることになっているので、この後のルクアは大袈裟なリアクションと俺が言ったことの復唱だけをするように伝えてある。


「はァい! 皆さんおはようございます! 

私商品アドバイザーのリンクスと申します! 

本日はナビゲーターのルクアさんと一緒に実演販売を行っていきたいとおもいます。さっそく本日紹介する商品はですね、こちらッ!! 

スマイルマジック社が製作した殺虫剤の魔道具!

その名も『虫特攻ソルジャーX』ッッッ!


この飛ぶ虫這う虫が増えてくる厄介な季節。 家の中でつい油断すると、小バエがわいてきたり、窓を開けて換気しようとしたら蚊が入ってきたりなんてことがありますよね~。 

そんなとき! この『虫特攻ソルジャーX』があれば、飛ぶ虫這う虫から貴方を守ってくれます!! もう怖くありません! 

そして噴射された魔薬剤は人体には全く影響がなく、犬や猫のペットにも害がないのでどれだけ振りまいても安心してお使い頂けるんです」


 最初は適当にべらべら喋るだけで良い。


 この時点でそれなりの観客が見に来ていた。

ここまでの流れはわるくない。


 俺は、タイミングを見計らって虫かごの中にいる、蝿を一匹解き放った。


「はぁい!!では早速、この飛んでいる蝿に、この殺虫剤をプシューっと……シューッと、はい、いきますよプシュー…」


 はいでてこない。

なんどもカチカチと作動ボタンを連打しているがトリガーノズルから全く噴射されてない。


 この異常はテスト品で確認したときは見受けられなかった。

前もこの前も同じようなことがあった。そして今回でようやくはっきりした。これは意図的に起こされたものだと。


 仕方ない。


 ――――『時間加速』。

俺は手に隠し持っていた五ミリ程度の石粒を蝿に向かって、ビッと指で弾き飛ばした。蝿は胴部を貫かれて地面におちて絶命した。


 おぉ~~という歓声が起きた。


「はいこちら、実はですね。噴射したときの薬剤が見えないような仕組みになっているんです! 今私が使っている殺虫剤はプロ用にカスタマイズされたものなので、お客様が使用されるときには青紫色の美しい色が付いたものが噴射されます」


 と言いながら俺は気付かれないように、新しい『虫特攻ソルジャーX』と交換した。


「ではもう一度行きますよ、スローモーション、まばたき禁止でご覧下さい」


 そして、作動スイッチを押した。

出ない。出ないどころか俺の手に持っていた殺虫剤が突如振動し始めた。


 この感じ……まさか!!! 


「みっ、みなさん! 少々お待ち下さい!」


 嫌な予感がして『時間減速』を殺虫剤にかけながら店の中へと逃げ帰った。


 誰にも目に入らない個室の中へといき、俺はすぐに殺虫剤を部屋の遠くの方に投げた。


 そして『時間減速』の効果を切った瞬間、爆発した。

破片が飛んできたが幸い俺には当たらなかった。


 俺は粉々になった元『虫特攻ソルジャーX』を見て、呆然とした。

あの時何かが起きて、魔道具が暴発したのだ。こんなこと今まで起きたことが無い。同じ商品アドバイザーの仲間が「魔道具は暴発するとき、不自然に振動することがある」といっていたのを忘れていたら、大惨事になっていた。



「まじ、か」


 欠陥品なんてレベルじゃないぞこれは。暗殺武器だ。


 テスト品で起きた異常はほんの些細なものだった。

スイッチは普通に作動していたし、暴発なんてしなかった。

 こんな状態で、実演披露なんか出来るわけが無い。

午前中は様子をみて、昼休憩のときに修理の時間に入ろうと思っていたが、今からやるしかない。


「お客様大変申し訳ありません。

今から約二時間後のお昼から実演披露と、販売を再開したいと思います!」


 俺はそう言って強制的に終了し、ルクアと一緒に必死になって修理をした。ルクアは昨日図書館で専門的な知識を異常な程に取り込んでいたから非常に仕事が早かった。


  *


 全てが整った。時間内に全部を修理し終わったのだ。絶対間に合わないと思っていたが、ルクアが異次元の速さで修理をしてくれた。



 ここからは俺がいつものように、売りつけるだけだ。

簡単な仕事だ。


 無事に仕事を果たせることが確定したのに、俺は嬉しくなかった。

今日の昼ご飯も一緒にルクアと楽しく過ごすつもりだったのに、それを台無しにされたという事実に非常にイライラしていたのだ。

スマイルマジック社に、商品アドバイザーとしての名声に傷を付けられそうになったことにも憤っていた。



 ここから一気に攻める。 


 俺はそう覚悟し、異様な剣幕で観客達の前で実演披露した。

その度に一つ、また一つと売れていった。


「希望小売価格2600円のところ、今お買い上げ頂いた方のみお値段なんと1998円! 1998円でございます―――――」


 ――――全てを終らせる。


「この魔道具はデザインにも拘っていて、なんとあのグッドデザイン賞を受賞しております。世界的なデザイナーが造形に携わっているので、インテリアとしても――――」


 ――――完売させる!


 俺は虫かごの中にいた大量の蝿を解き放ち、そこへサッと殺虫剤をスプレーした。突如飛び交った蝿によって観客達が悲鳴をあげる隙も与えなかった。

 バタバタと蝿が地面に落ちていった。


「これがメイドイン、ラデュレ、クオリティ……スマイルマジック社が生み出した奇跡の魔道具!!『虫特攻ソルジャーX』それは市場に変革をもたらす程、画期的な殺虫剤です――――」


 と紫色の煙が舞う中で言った。


 ――――その日、夕方の六時に入ったときに完売しきった。



    *


 無事に全てが終り、俺たちは宿に帰った。

今日はルクアがいてくれて助かった。そう思いながら俺は眠りについた。



 深夜。俺は妙な胸騒ぎがして目が覚め、ルクアを家に置いて街中を散歩していた。


 夜の道。長身の男に声をかけられた。


「あなた、リンクスっていうらしいですね……

私、スマイルマジック社所属、商品アドバイザーのタガタと申します」


 白い仮面を被り、怪しげな格好をした男との奇妙な会遇だった。


 俺の耳は商品アドバイザーいう単語を聞いて、ピクリと反応した。


「お互い、“プロ”の商品アドバイザー同士、実演披露バトルでもしようじゃありませんかァ」


「………」

 俺は黙っていた。


「妨害あり、なんでもありの中で、事故を起こさず華麗に実演披露できた者が勝者です」

 と謎の男は言った。


「ただし」

 声色が変わった。


「「負けた者は全てを失う。闇の実演披露バトルデュエル……」」

 俺と謎の男の声が重なった。


「……ほう、俺が最強の商品アドバイザー、リンクスだとわかって勝負を挑みにきたらしいな。 良いだろう。俺が勝ったとき、お前の全てを貰うぞ」



 次から次へと現れる強敵。

奪われた日常、夢半ばで倒れていく仲間たち。まさに地獄へと続く旅。

俺はこの果てしなく続く戦いの中で更に成長しようとしていた。

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